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ゲネラルパウゼの夜
本当は詩を書こうと思っていたが、詩を書くセンスはなかったようだ......。
※ショートショートです
【09:38 p.m.〜】
僕は部屋の小窓から飛び降りた。
別に自罰願望とか、そうゆう絡みではない。部屋は一階だし、ただ《《消去法で選んだ》》だけ。
音もなく着地した後、背負っていたバイオリンケースの中身を確認した。
バイオリンは無傷、切符も紛失していない。
夜の雑然とした空気を吸う。
ケースに染みついた消毒液とファストフード店の脂っこい臭い。
その不快感を忘れるために、早足で歩き出した。最寄りの駅に向かって。
誰にも迷惑をかけないような、静かで遠くの何処かへ。
--- * ---
【10:23 p.m.〜】
最終電車となると、人も少ない。空気も都会の混沌としたものから、少しずつ静寂を|纏《まと》っていく。
そんな時間を本も読まず、何か勉強をせずにただバイオリンケースの輪郭をなぞっていたのは、恐らく初めてだろう。
僕の他に座っているのは高齢であろうお婆さんとサラリーマンの男性のみ。
やがてその二人も降りていき、一人になっていく。
誰も動かずドアの開閉音が虚しく響く時間が数駅分あった後、ようやく人が乗ってきた。今まで見たことないほどに長い黒髪の、白いワンピースの女性。
その人は自分の向かい側に座って窓を眺めていた。
......。
「ねぇ」
静寂が壊れる。何か電話を始めたのかと思った。
「ねぇ」「ねぇっ!」
「おーい、聞いてるか? 君に言ってるんだけど」
ここでようやく自分に言っていることに気が付いた。
「......何ですか」
「なんか、君サラリーマンぽくないから気になって」
はいはい、そーですか。そんな簡単な理由ですか。
「貴方こそ、僕に話してなにになるんですか? というか誰ですか?」
「ただの一般ピーポーさ。一人で帰省中って感じ」
はいはい、そんな清涼感はこの空間にあいませんですが(もっとも、僕みたいな奴がいるからであるが)。
こんな感じで毒突いていた(本心ではなかったりする)が、不思議とこの人と話すのに抵抗は無かった。
「君は何処へ?」
「僕も終点までの予定です」
「了解。ところで、そのバイオリンは?」
「突然弾きたくなって。周りがビル群だから迷惑かと」
律儀だね、と彼女は呟く。これを『旅は道連れ』と言うのだろうか。
もう一度窓を見ると、夜空により黒く染まった海が見えた。もういくつかの市を超えたようだ。
--- * ---
【10:56 p.m.〜11:13 p.m.】
「ここら辺でバイオリン弾くの?」
終点先の海で「まぁ、そんなところです」と曖昧に答える。
「演奏するんだったらさ、聴いてもいい?」
「まぁ、いいっすよ。最近弾いてないので多分下手ですが」
「いや、バイオリン弾けるだけで凄いから」
そして彼女はそこら辺の流木に腰掛ける。
僕はバイオリンの飴色に松脂を塗り直す。調弦した後、一応演奏曲目を言った。
「G弦上のアリア」
一番のお気に入りである曲の演奏を始める。放たれた音は黄金の粒になって降り注いでいく、降り注いでいく__
五分ほどの演奏が終わった後、
「やっぱ、凄いね」
と彼女は言った。下手くそだったものの、演奏をするのも、褒められるのも久しぶりだった。
その直後に少し強い風が吹く。しかし、その風は僕の体を掠めることは出来なかった。
---
【11:13 p.m.】
その女は、流木に座ったままだった。音の余韻に浸っていた。《《一人》》の時を感じていた。
そして何分過ぎたか分からない頃、
「死神、そこにいるだろ」
言葉が発される。と、彼女の連れである男が《《いた》》場所に立ち込めていた黒い霧__改め、死神が振り向く。
「あいつは、やっぱり魂だけか」
*「ああ。あいつは持病で死んだ。まだ高校生だったか。ただいつまで経っても病室に残るわ、挙げ句の果てに飛び降りるわで大変だった」*
「人って変なことで未練を残すよね」
*「お前も、人間だろう」*
「そうだけど、こんな霊感があるとどうしても『人間』に感情移入できない」
そうか、と死神がぼやく。
黒い空気がその場に蔓延していく。ここ一体の時が、動きが、止まっていく__。
*「やはり、素質があったとしても『時を司る神』の役割を彼に与えたのは良くなかった、か。想定以上に早く未練を無くしたなんて__いや、こんなことを最後まで考えるなんて、馬鹿馬鹿しいか」*
どうも、風見鳥です。
ショートショート&三題噺を書いてみましたー!
お題は
「楽器」「電車」「消毒」です。
この「消毒」、色々とこの物語を狂わせたよねー(といっても、全ての要素においてあまり使っていない......)。
ところで、題名の『ゲネラルパウゼ 』は、音楽用語で『総休止』という意味です。だから最後のシーンは【11:13 p.m.】の所に『〜』をつけていないんです(時を止めてみたって感じです)!
来年はハッピーエンドとか青春ものとか書いてみたい! あと長編とかも書いてみたいです!
ということで、来年(2025年)もよろしくお願いします!
追加:自主企画のために超乱用中......