公開中
第二章 人間の肉体
「……取り敢えず、自己紹介しないか?俺はディアド・グードセル。さっき言った通り、霊術師だ」
男の人──ディアドさんが僕に言った。僕も自己紹介した方が良いかな?
「僕は……ん?僕は僕だよ。“ディアド・グードセル”って何?」
「はぁ?名前……あぁ、まだ無いのか。まぁ、先に肉体を渡そう」
……名前?名前…………。僕、名前無いよね?
ディアドさんは、部屋の奥にある扉を開けて、奥へ進んで行った。
「ね~、ディアドさん、肉体ってさ、僕が選んでも良いものなの?」
「肉体にも精神……死後、お前みたいな幽霊になる部分にも、それぞれ性質があるんだ。例えば、お前の魂……幽霊になってる部分の性質は、青色だ。青色の性質は、同じ色同士なら肉体から魂を出しやすく、入れやすい。ただ、別の色の性質の肉体に入ったり魂に入られたりすると、その性質の色に染まる。だから、青色の性質を持つ幽霊はとにかく少ない。同じ理由で、肉体もだ」
「へ~……つまり、僕の魂と同じ色の肉体を選ばないと、僕の魂の性質が変わるってこと?」
「まぁ、そういうことだ」
部屋の奥には、凄く太い柱みたいなものがたくさんあって、その中に一人ずつ人間が浮かんでいた。しかも、置かれているいくつもの箱の中には、それぞれ人間が入っている。
「え~っと、青色の肉体は……っと」
ディアドさんが箱を開けていって、中を確認していく。ディアドさんは、見ただけで魂や肉体の性質っていうものが分かるのかな?
「……う~ん、青色の性質の肉体がひとつもないな」
「えぇ……じゃあどうするの?」
「……しょうがない。お前の魂の大きさに合うものにするか。それなら、一番近いものはこれだろうしな」
ディアドさんがそう言って掲げたのは、小さな女の子の肉体だった。
「肉体から魂が抜けてしばらく経つのか、この肉体の性質は無色だし。じゃあ、これに入ってみてくれないか?」
「分かった」
小さな女の子の肉体に『憑依』する感じで入っていく。さっきディアドさんに憑依したときに比べると、すいっと入っていける。
……もう憑依できたかな?
「ディアドさん、こんな感じ?」
『口』から『声』を出したことが、『耳』で分かった。
『目』を開けて周りを見渡すと、『髪』が『肌』に触れたり、『腕』や『足』が床に触れていることが分かった。
「おぉ、それでいいんじゃないか?んで、名前は──」
「──ぅわっ!?」
急に、『記憶』が『脳』に流れ込んで来た。僕じゃない、『私』の記憶。
「……『ミリュニカ』?」
誰かの、名前?
「ミリュニカ?……あぁ、肉体の脳に残った記憶か。ミリュニカ……割と良いかもな」
『僕』と『私』が混乱する中で、口から零れた何かの名前。僕はやや違和感があるけど、ディアドさんの中ではしっくりくるらしい。
「おし、お前の名前は、『ミリュニカ』だ。まぁ、取り敢えず……これからよろしくな、ミリュニカ」
「……よ、よろしく」