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姉妹間
「ダーケスト・プラネット・ジエンド!」
「ば、馬鹿な!魔法少女はもういなくなったはずじゃぁぁ!?」
悲しきかな、目の前の悪魔は最期まで『後継者』の存在を信じられなかった。
煙となって消えていく彼を見ていると、哀れみすらわいてくる。
「お疲れ様~」
私が悪魔を倒し、デュパンがその後始末をする。
この光景も半分定番になっていた。
「ねぇねぇ、『ダーケスト・プラネット・ジエンド』以外の必殺技ちょーだいよ~」
「あー…技術的には可能です」
「つまり無理ってことね。そういう遠回しな言い回し嫌いじゃないわよ」
そう言いながら、私は手をデュパンの頬に近づける。
「でもその態度は別に好きじゃないなー!」
手を器用に使って、デュパンの頬をつねる。
「しーかーたないでしょ!何度でも言うけど先代にエネルギーほぼあげちゃったんだし!」
「むぅー!」
二人で漫才を繰り広げる中、私はあるものを見つけた。
「…カード?」
「いたたたた…そのカードがどうかしたの?」
目の前のカードは濃い青色をしており、その中心には…クローバー?の模様が刻まれていた。
「落とし物かな」
そう言いながら、私はカードに触れる。
その瞬間、カードは煙となって消えた。
「え?!」
私はつい言葉を漏らす。
少なくとも、普通のカードが触った瞬間煙となって消えるなんて有り得ない。
「どういうこと?」
デュパンもこの事態に首をかしげる。
2、3秒考え状況を整理した結果、私はある結論にたどり着く。
「デュパン。煙となって消えるなんて…まるで悪魔を倒した時みたいじゃない?」
その言葉を聞いた途端、デュパンはこちらを見つめた。
「確かに、そうだけど…」
――――嫌な予感がする。
「とりあえず、家に帰って考えましょう」
デュパンは首を縦に振った。
「作戦会議、ってところかしら」
「そういうことになるね」
狭い部屋の中、デュパンと顔を見合わせる。
「あのカードの正体…一体何なのかしら」
「今のところ分かっていることは、せいぜいあのカードは悪魔と何か関係があるかもしれないくらい…」
正直言って、このまま話していてもなにか結論が出る気はしなかった。
「とにかく、次に悪魔が来た時もあのカードがあるか確認してみよう」
私は頷いた。
そして、その瞬間姉が私の部屋に突撃してきた。
「うわっ!?」
私はデュパンの上に被さる。
「ん?今何か声がしたような…」
「き、気のせいじゃない?」
「うーん、そか!」
姉はデュパンの声を気のせいと判断することにしたらしい。
「ねぇねぇ櫻。ちょっと提案があるんだけど」
姉はにやにやしながら私に近寄る。
「な、何?」
私は後ずさりする。
そんな私をじっと見つめて、姉は言った。
「トランプしない?」
「相変わらず強いな~」
姉は相変わらずにやにやしながら私を見つめる。
「そ、そう?」
私はトランプを顔の前に持っていって、顔を隠す。
「おー?照れてるのを隠しても無駄だぞ?」
「て、照れてないし!」
トランプを顔の前から外すと、目の前の姉は中腰で不自然な方向を向いていた。
「お姉ちゃん。ずるはよくないよ」
「え?!」
姉は腰を抜かし、尻もちをつく。
「窓に私の手札を反射させようとしたでしょ」
彼女は目を瞑って舌を出した。
「そんな顔してもだめだよ」
そこまで言ったとき、私の携帯が軽快な音と共に震えた。
ポケットから携帯を取り出して、画面を確認する。
《悪魔検知。北東ビル。レベル4と推測》
「えっ…!」
私はすぐに立ち上がれなかった。
トランプを握りしめたまま、私は少し悩む。
「ん?どうした?」
「あ、いやなんでもない」
「ちょっと友達から呼ばれてるから行くね!」
「はーい。いってらー」
姉に見送られ、私は北東ビルに向かった。
「うわぁぁ!?」
「なんだあの化物!」
私はその光景に違和感を覚える。
こんなアニメのような大破壊をする悪魔、悪魔軍が壊滅した今はいないものと思っていたからだ。
「な…魔法少女か!」
目の前の二足歩行の猪は手から銃弾を放つ。
「おりゃっ!」
バリア魔法を発動し、その銃弾を受け止める。
「チッ!」
目の前の悪魔は力任せに壁を殴った。
私はその隙を狙う。
「ダーケスト・プラネット・ジエンド!」
しかし、その弾丸はかわされた。
「嘘でしょ!?」
私は困惑しながら相手の隙を探す。
落ち着け、私。どんな生物にも弱点はある。
しかし、そんな考えを巡らせる時間すらも彼は与えてくれなかった。
「噓!?」
私は銃弾をまともに喰らい、動けなくなる。
「フッ…魔法少女もここまでか!」
私は冷や汗をかく。
その瞬間――――私の脳裏には、さっきのトランプの記憶がよみがえっていた。
「反射…ね」
私は落ち着いて脳内でシミュレーションする。
そして、小さく息を吸った。
「ダーケスト・プラネット・リフレクション!」
必殺技をもらえないなら、自分で作ればいい。
「また浄化弾か!」
悪魔はさっと横に動く。
その動きは、完全に予測済みだった。
「何!?」
私はにやける。
「後ろにも目をつけとけばよかったのにね」
「ぐわぁぁぁ!」
浄化弾を受けた悪魔の体が崩壊していく。
悪魔は煙となって消えた。
「バリア魔法の応用よ。バリアで浄化弾を包んで跳弾させたの」
そう言い切った途端、私は崩れ落ちた。
「たっく…とんでもない相手だったわ」
「だ、大丈夫!?」
デュパンが大急ぎで駆け寄る。
「そ、それよりもあのカードがあるか見て!」
私は声を荒げた。
「う…うん!」
彼は30秒ほど周囲を探索し、例のものを見つけた。
「今度は――――矢印?」
――――矢印?
私はその瞬間、ある考えが思い浮かぶ。
「…トランプ?」
そう言った瞬間、デュパンもこっちを振り向いた。
最初のカードの模様。私はクローバーだと思っていた。だが…
「クラブ…」
「じゃあ、この矢印はスペード?」
「そういうことになるけど…」
私はある最悪の可能性にたどり着く。
デュパンもほぼ同時に同じことに気づいたようだった。
「まさか…」
「悪魔が、再び徒党を組もうとしてる」
トランプのもとに、悪魔が団結しようとしている。
私の前に絶望的な可能性が、生まれてしまった。
人事ファイル No.6
青桐川 櫻
好きなもの: 姉、アイスクリーム
嫌いなもの: 悪魔
11歳。二代目の魔法少女。