公開中
#8 好きな子に謝りたい
ふぅ、今日も平和だわ。
宙に告白されたこと以外、あんまり変わっていない。付き合ったという実感さえも湧いてこない。まあ、宙はすっごく気にしてるみたいだけど。
そう思いつつ、ポストをガシャガシャやる。紙が一枚、ひらりと落ちてきた。つたない字で、こう書かれていた。
『こんにちは。ぼくははし本せいです。すきなこができました。でも、クラスのみんなにばれてしまいました。そのこがないてしまてぜんぜんはなせていません。あやまりたいけど、どうしたらいいですか 1ねん1くみはし本せい』
「ねーねー、また恋愛話なんだけど?」
そう言うと、心葉はあからさまにそっぽを向いた。ちょ、じゃあ選択肢、宙しかないじゃん……優月先生も、いつもいるわけでもないし。
「宙、なんか解決してよ。ほら、恋愛よ恋愛」
「俺のことバカにしてるよな?」
__「イチャイチャうるさいな、僕を置いといて」__「バカにしてないわよ」
「それに、わたししか悩み解決してないわ」
…n=1だけど。
「わぁったよ」
おら!宙の仕事よ宙のぉ!ふふ、やったもん勝ちよぉ!
「えーと…1年1組に行ったらいいん、だよ、な?」
「頑張れ、僕はどうしようもできないから」
「んじゃ、昼休み、行くことにする」
「ああ、頑張って」
---
昼休み。
1年1組にいく。
「な、これ、苗字か?」
「適当よ」
「せっ、せいくんって、いいる?」
「あ、はいっ」
おとなしそうな子。名札には『はしもとせい』と丁寧な字で書かれている。すると彼はぱっと笑顔になって、
「勉強がすごくできるって聞きました。毎日勉強してるの?僕はしてます!」
とキラッキラの目で言った。うおお…まあしてるけど…その情報、どこで仕入れた?
次に心葉の方を見て、
「転校生の人ですか?」
とこれまた言った。だから、どこでその情報を…
そして、次は宙の方を見た。優しそうと直感で思ったのか、
「僕どうしていいのかわかんない。どうしたらいいと思いますか?」
と言った。宙は
「えーとね」
と天井を見た。困ったら上を見るのが、宙のクセである。
「好きな子はいるのって話になって、いるよ、ひみつだよって友達に言ったんです。そしたら、その友達がバラして、みんなわあわあ言ってぇ…そしたら、好きな子がないて…」
うわ、その友達、小1にしてえぐすぎでしょ。いや、純粋さとか、聞き分けの悪さが仇となったのか?そもそも、そうやって聞き出すのがまず、ね。
「まあ、僕はその友達とは縁切るのが一番だと思う。秘密をバラしたやつとは、とっととわかれるにこしたことはないだろう」
「ま、そうよね」
心葉に共感。でも、本題はそこじゃない。
「どうしたらいいですかっ」
「うーん…その子って、静くんのこと、きらいって言ってた?」
ま、嫌いな人が好きって言ってたら、間違いなく落ち込むよね。
「ううん。言ってない。でも、好きとも言われてない」
「静くんは、得意なこと、ある?」
「勉強は、できます」
ひろむの時と同じように、好きなものが一致するかでせめられたら最高なんだけど。
「なら、その子にやさしくしたり、自分の良いところを言ったりするのはどうかな。褒めるとか」
「…わかった、やってみる」
すこしだけ、静くんの顔がパッと輝いた気がする。
「ありがとうっ」
---
さて。
小6の教室は、だんだんとグループが出来上がってきている。
「結花ぁ、付き合ったんだってね?」
「ああ、まあ。早いって言ったけど」
こういうタイプの噂話の広がり方は、早い。そもそも、どうやって入手したのだろう。まあ、美玖は人一倍そういうのに敏感だ。
「ねーねーっ」
「あ、あかりちゃん」
ちなみに、わたしは「くん・ちゃん」をつけるタイプだ。勿論親しい人は呼び捨てだが。心葉なら「佐山」と言うだろう。茶色い髪(地毛である)を短く切っている。髪型に詳しいタイプではないので、どんな髪型かはわからないが。
楠木山小学校指定のセーラー服は、色の組み合わせがいろいろある。彼女は白下地にピンクの襟とリボン。ちなみにわたしは白下地にブラウンの襟、黒のリボンだ。心葉は白下地に黒い襟、赤いリボンにだぼっとした灰色パーカー。男子は学ラン。
「大橋さん、勉強教えてー」
「あ、いいよ」
意外と苗字+さんづけなのが面白い。
「えーと、分数のわり算は、わる数を逆数にしてかけるの。なんでこうなるかはややこしいんだけど、こうなるって覚えといたらいいよ。逆数は分母と分子を逆にした分数のこと」
そう言って、ひとまず一緒に計算スキルを終わらせた。美玖も「へぇ、あ、ここミスったやつだ。教えてくれてサンキュ」と言ってきた。
心葉は何やら、ルーズリーフに鉛筆を走らせていた。きっと、小説を書いているのだろう。