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兄ちゃんほど、酸っぱくない
M-aka
今日コンビニへ買い物しに行ったらシークワーサーのジュース見つけて、飲んだことないから興味が湧いて飲んでみたら衝動的に書きたくなった物語です。
南の島の、ある果樹園に。
小さな柑橘の兄弟が暮らしていた。
兄の名前は、レモン。
弟の名前は、シークワーサー。
「見ろよ、シーク!」
朝から兄は、太陽に向かって胸を張っていた。
「今日も黄色い!最高に黄色い!俺ってほんと、爽やかだよなー!」
「…うん」
「声が小さい!」
「うん、兄ちゃんは爽やか」
「だろ?」
レモンは満足そうに笑った。
兄は、とにかく目立つのが好きだった。
料理に入れば「俺が主役だ!」と言い、紅茶に浮かべば「俺って映えるだろ?」と言い、炭酸水に絞られれば「俺の出番だ!」と大騒ぎする。
一方、弟のシークワーサーは、いつも兄の少し後ろにいた。
小さくて、まだ青い。
口数も少ない。
けれど、風が吹けば誰よりも先に枝の揺れを感じ、雨が降れば土の匂いを誰より早く知っていた。
「シーク、お前ももっと前に出ろよ」
ある日、レモンが言った。
「せっかく同じ柑橘なんだからさ。もっと、こう…」
兄は少し悩んで弟の肩をぽん、と叩いた。
「酸っぱく!!」
「…?」
「酸っぱく、元気に、堂々と!」
「兄ちゃんみたいに?」
「そう!」
シークワーサーは少し考えた。
そして、首を横に振った。
「俺、兄ちゃんみたいにはなれないよ」
「なんで?」
「兄ちゃんは、兄ちゃんだから」
レモンは黙った。
弟は続けた。
「俺は、俺でいいかなって」
「……生意気言うようになったなあ」
「ごめん」
「謝るなよ」
レモンは笑った。
でも、その笑顔は少しだけ寂しそうだった。
* * *
季節が変わった。
ある日、二人は果樹園から旅立つことになった。
人間の手で収穫され、箱に詰められたのだ。
「おい、シーク!」
「なに?」
「ついに、俺達の出番だぞ!」
箱の中でレモンが叫ぶ。
「どこ行くんだろうな!」
「さあ」
「レモネードかな!」
「かもね」
「ケーキかな!」
「かも」
「魚料理かな!」
「兄ちゃん、料理のことばっかだね」
「俺は食卓のスターだからな!」
弟はくすっと笑った。
やがて、二人は別々の場所へ運ばれた。
レモンは繁盛している街のカフェへ。
シークワーサーは、果樹園の近くの小さな店へ。
それから、二人が会うことはなかった。
*
ある夕方。
小さな店で、一杯のジュースが作られた。
シークワーサーの果汁。
そして、はちみつ。
「…甘い」
シークワーサーは、自分でも少し驚いた。
酸っぱいはずなのに。
尖っているはずなのに。
はちみつに包まれると、不思議なくらい柔らかくなる。
そして、一口のんだ人が言った。
「なにこれ、美味しい。なんだろう、レモンみたいだけど…レモンじゃない」
その言葉を聞いて、シークワーサーは微笑んだ。
兄ちゃんじゃなくても。
兄ちゃんみたいじゃなくても、
自分の味は、ちゃんと誰かに届くのだ。
*
その頃。
都会のカフェでは、レモンがグラスの縁に腰掛けていた。
「今日も俺、大人気だったな!」
隣のライムが呆れた顔を刷る。
「はいはい」
「……なあ」
「ん?」
「シーク、元気かな」
ライムが目を丸くする。
「シーク?」
「シークワーサー。俺の弟」
レモンは珍しく静かだった。
「俺さ、あいつに、もっと前に出ろって言ったけどさ」
「うん」
「多分、ちがったんだよな」
「何が?」
「前に出る必要なんてなかったんだ」
窓の外を見る。
夕暮れの街に、細い月が浮かんでいた。
「俺は俺で目立つのが好きだし」
レモンは笑う。
「でも、あいつは……あいつの場所で、あいつの味がするんだろうな」
*
その夜、遠い南の空の下で。
シークワーサーもまた、月を見ていた。
「兄ちゃん」
誰にも聞こえない声でつぶやく。
「俺、兄ちゃんほど酸っぱくないけどさ」
少しだけ笑う。
「俺なりに、けっこういい味してるよ」
風が吹いた。
青い香りが、夜の果樹園をそっと撫でていった。
レモンのように、強くはない。
飲み込んだあとに特別残るわけでもない。
爽やかで。
静かで。
すっと引く、
少しだけ、懐かしい味。
___それが、シークワーサーという果物だった。
※果樹園は沖縄ということにしてください。柑橘農園で…
味については作者の個人の見解です。
レモンに似ているけど、ちょっと違う。
ぜひ、シークワーサー飲んでみてください😸