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collaboration.2
英国出身の迷ヰ犬は再会した。
彼らが紡ぐ物語の行く末は、誰にも分からない。
前回
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No side
「私の世界の中也がルイスさんの世界に来てるかもしれない!?」
「まぁ、あくまで僕の考察だけどね」
いつも通り、桜月は表情豊かだった。
変わらない様子に、ルイスは少し安心する。
「中也君は変わり身なんて用意しなくても十分強い。でも、写真付きで文書が送られてきたらしくてね」
「そんな……。あの、中也の写真とかありませんか?」
桜月曰く、自身の世界の中也君とお揃いのものをつけている。
少し、ルイスは悩んだ。
此方の世界に来たばかりの桜月。
自身はすぐに適応できたが、彼女がどうかは分からない。
誰も知らないというのは、少々心に来る。
「あの、ルイスさん」
「どうかした?」
「私、ルイスさんの世界の皆に会いたいです。お姉ちゃんも中也も、私のことを知らないのは少し……というか、結構辛いです。でもちゃんと向き合うべきだと思うので」
あぁ、とルイスは彼女の世界で過ごした日々を思い出していた。
16歳という、自身より10歳も年下の桜月。
(でも、僕より何倍も強い)
ルイスにとって、桜月はずっと強くてカッコいい女性だった。
「それに、私のことを誰も知らない訳じゃないじゃないですか」
ルイスは首を傾ける。
桜月の知り合いは、この世界にいない筈だ。
「私には、ルイスさんがいるので」
「……君って結構大胆だよね」
「何がですか!?」
アハハッ、とルイスは笑う。
彼氏である中也君が聞いてたら殺気を向けられていそうだな。
そう思いながら、ルイスが桜月に手を差し出す。
「この世界の彼らは君の世界の彼らと、対して変わらない。とりあえず一人だけ、会ってみようか」
「はい!」
そういうと、桜月はルイスの手を取った。
反対の手には、白い兎のぬいぐるみの手が握られている。
「え、ちょま、あの、え?」
「動揺しすぎじゃないですか、ルイスさん」
「それ持ってく|心算《つもり》?」
中也side
「……この女は?」
「もう一人の君を助ける手伝いをしてくれる人だよ」
「ぬいぐるみはルイスさんのです!」
えぇ、と俺は困惑した。
見た目は鏡花と変わらないか、少し年上だろうか。
ルイスさんに日本人の知り合いがいたことに少しだけ驚いた。
しかも、こんな子供の。
てかルイスさんのなんだな、あの白い兎のぬいぐるみ。
「初めまして、桜月と申します」
そう、女はペコリと頭を下げた。
「苗字は?」
「孤児なのでありません」
「ルイスさんとの関係は?」
うーん、と悩んでいる様子の女。
説明し難いことなのだろうか。
そんなことを考えていると、ルイスさんが椅子に腰掛けている。
「……あの」
「それ以上言ったらどうなるか分かってるね?」
ニコニコと笑っているルイスさん。
いや、普通に怖いですって。
「そうだ、桜月ちゃんに文書を見せてもらいたくてね」
俺は諦めて文書を取り出した。
じっと女は写真を見つめている。
何か、俺じゃないとはいえ恥ずかしいな。
「……ルイスさん」
女が小さく頷いた。
対して、ルイスさんは少し頭を抱えている。
「今から話すことは、あまり他言しないことを奨めるよ。推測も混ざっているけど、殆ど確定していることだから良く聞いて欲しい」
思わず、背筋が伸びた。
ルイスさんの言葉に圧なんてない。
でも、本能的に下手なことは云わない方が良いと思った。
「とりあえず、彼の正体から説明しようか」
彼、とルイスさんが持っていたのはもう一人の俺の写真だった。
「此方の中也君はただ似ているだけでも、ドッペルゲンガーの類いでもない。別世界の君だ」
「は?」
「ちょっとルイスさん!? それ云っちゃ駄目じゃ!?」
焦る女に対して、ルイスさんは冷静だった。
「大丈夫だよ。此方の世界に戻ってきて分かったけど、『白紙の文学書』によって生まれた可能世界とは少し違うからね」
「どういうことですか?」
「うーん、説明しがたいんだけど……」
暫く悩んでから、ルイスさんは口を開いた。
どうやら可能世界というのは、あらゆる選択によってこの世界とは違う道を歩んだ世界のこと。
ifの世界とも云うらしい。
「そして、可能世界は認識出来ても行くことは出来ない」
「……ボスの異能が、可能世界じゃないことを証明している?」
うん、とルイスさんはどこからか紙とペンを取り出した。
「この世界と、もう一つの世界。これらは枝分かれしたわけではなく、元から違う世界だった。だから越えられるんだろう?」
「……なんで知ってるんだよ」
後ろからそんな声が聞こえてきた。
ルイスさんの視線の先、俺が振り返るとそこには一人の男が立っている。
檻に入れられている理由は、聞かない方が良いだろう。
「確かに、俺の異能はあらゆる場所に送ることが出来る。可能世界以外ならな」
「じゃあ私達のどちらかが死亡するまで元の世界に戻れないのは、どうやったんですか?」
「……I don't know what the rat did」
女の質問に小さく英語で何か云った男。
ルイスさんは意味が分かったのか、ため息を吐いていた。
「とりあえず、もう一人の君の救出をしないとだね。この世界のマフィアがなくなると裏社会が大変なことになる」
「私の世界でも大変なことになります。主に私の心が持ちません」
「|手前《テメェ》の世界の俺、一体何をしているんだよ……」
「秘密です!」
ニコッと笑った女のことを、可愛いと思ってしまった。
「それじゃ行こうか」
「何処へ?」
情報収集、と笑みを浮かべるルイスさん。
何か嫌な予感がしたのは、云うまでもなかった。
ルイスside
その会社は、横浜のある場所にあった。
四階まで|昇降機《エレベーター》を使い、少しすれば会社の名前が掛かれた扉の前につく。
「桜月ちゃん、心の準備は大丈夫かい?」
「はい!」
「……本当にその白い兎のぬいぐるみを持っていくのかい?」
「はい!」
本当、返事だけは良いんだから。
そんなことを考えながら、僕は扉へと手を掛けようとする。
「ルイスさん、一つ聞いても?」
「どうかした?」
ドン、と中也君は扉を指差す。
「なんで俺ら探偵社に来てるんですか!?」
少しポカン、としてしまった。
何故って、普通に情報収集といったら探偵の仕事だろう。
森さん改めマフィアは例の組織に壊滅させられないように忙しい。
僕達が頼れるのは此処か、異能特務課しかない。
「君を特務課に連れていくのは止めたし、誉めてくれても良いんだよ?」
「優しいですね、ルイスさん!」
「手前、まさかのボケかよ……」
中也君は無視して、僕は扉を開くことにした。
「ということで、依頼したいんだけど大丈夫?」
「……構わない」
マフィア関連だと断るかと思った。
でも、あの猫の考える『三刻構想』のお陰か手を貸してもらえることに。
休戦中ということも、あるだろうけどね。
(※ギルド戦後ということにしてください。|海嘯《作者》の進行が遅すぎますね、はい)
「改めて確認ね。調べてもらいたいのは『帽子屋』を名乗る異能者集団。目的はマフィアの解散と森さんの命らしいけど、なーんか気になってね」
「貴君がそう考えるなら、何かあるのだろう。連絡は万事屋の方で構わないか?」
「いや、此方にして」
僕が指を鳴らすとカードが降ってきた。
そこには、僕のプライベートの番号が書かれている。
万事屋の方には森さんから連絡が来るかもしれないから、対応できないと少々面倒くさい。
「それじゃ、僕達は行くから」
中也side
「中原幹部と桜月だったか」
少し良いか、と探偵社の社長は俺らに声を掛けてきた。
ルイスさんは何を云いたいのか分かったのか、足早に退室する。
立っているわけにもいかず、俺達はとりあえずまた座ることに。
「ルイスさんには云えないことなんですか?」
「いや、そういうわけじゃない」
なら何であの人は退室したのだろうか。
そんなことを考えていると、社長が口を開く。
「今回、貴君らの為に動いていることは事前に聞いていた」
「……ルイスさんが?」
「彼奴は少々、というか結構視野が狭くなりやすい。何かを守る為なら特にだ」
知っている。
マフィアにいた頃のあの人は、いかに此方の被害を抑えるかを考えていた。
多分、隣に座っているこいつにも心当たりがあるのだろう。
「……彼奴を頼む」
「勿論です」
「心配しなくても、ルイスさんのことはそれなりに分かってるつもりなので!」
そうか、と笑った社長。
失礼かもしれねぇが、いつも睨んでいるイメージがあったから意外だ。
部屋から出た俺達は、ルイスさんの元に行くまで少し雑談をしていた。
「手前は別世界の人間なんだよな」
「うん」
「ルイスさんと付き合ってるのか?」
「……え?」
ピタッ、と其奴は止まった。
そして物凄い速度で首を横に振っている。
「私には彼氏がいますし、ルイスさんにはもっとお似合いの女性がいますって!?」
「……彼氏いるのか」
何故か、少し心が落ち込んだ。
もしかして俺、この女のこと──。
「……いや、これ以上考えるのは止めよう。それがいい」
それからは、ルイスさんと合流するまで一言も喋れなかった。
第二話!
桜月ちゃんと此方の中也の絡みが好きです(唐突)
社長はやっぱりルイス君のことよく分かってますね。
オリジナル設定詰め込みまくってるのは、特に理由ありません((
べ、別に本編の伏線貼ろうなんて思ってないんだからね!
うん、誰得のツンデレだ?
それでは、また次回お会いしましょう!