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#1 美しき人形
初めて投稿する小説なので温かい目で見てくださると嬉しいです🥹
私の書き方を知ってほしい・物語の雰囲気を伝えたいという理由で投稿しました。後で開催予定の自主企画の方もよろしくお願いします。
▷クロワside
朝、カーテンの隙間から覗く日に照らされて目が覚める。普通の奴なら「あぁ、朝が来たな」とか思って起きると思うけど、吸血鬼の俺はそんなことを思って起きられない。日に照らされたらちゃんと燃える燃える。
それなのに今俺が燃えていないのは、昨日の夜寝る前に塗った自分お手製の日焼け止めのおかげ。日中自由に行動ができないのは困るからと何年も試行錯誤してやっと完成したやつ。毎度昔の自分に感謝している。
だけど燃えなくても眩しいものは眩しい。もう少し目を瞑っていたかったけど眩しさに負けて目を開ける。ベットから上半身を起こすと、近くの椅子に愛しいあの子が座っていることに気がついた。
「あれ、《《アンジュ》》。もう起きてたの?」
アンジュは本をめくっていた手を止め、カーマイン色の綺麗な瞳をこちらに向けた。それから静かに頷いて、椅子から立つ。
「あぁ、急いで立たなくてもいいよ。着替えたいよねぇ、寝坊してごめん。」
ベットから急いで起きる俺を見たアンジュは、眉を下げて凄い勢いで首を横に振る。普段は俺が先に起きて、アンジュが起きるのを待って着替えさせるのに、今日は俺が寝坊してしまったからアンジュが着替えられないままだったのだ。
椅子から立ったアンジュを化粧台の前の椅子に座らせ、俺は後ろに立つ。櫛を手に持って、綺麗な髪をとかす。絡まることのない髪は、日頃から丁寧に手入れしているおかげだろう。
普段は何を話すべきか悩むせいで無言でとかしている。今日もいつも通り無言でとかしていたが、寝坊した事を謝らなければと思い途中で口を開いた。
「昨日夜遅くまで本読んでたからかなぁ。アンジュを待たせちゃうなんて最悪だよぉ。」
俺がそう言うと、鏡の中のアンジュが申し訳なさそうな顔をする。目を伏せたから、何か伝えたいはず。だけど何も伝えてこない。
「どうしたのアンジュ?…あ、ホワイトボードがないから伝えられないのか。ごめんねぇ。」
櫛を置いて、ベット付近に置いていたホワイトボードとペンを持って戻る。アンジュにホワイトボードを差し出すと、微笑んでそれを受け取る。
アンジュがホワイトボードに書いたのは、『私こそごめんなさい。たまたま私が早く起きただけで、クロワさんは寝坊してないのよ。』と言うことだった。そう書かれたから時計を見てみれば、いつも起きている時間と同じくらいの7時半だった。
「あれ、本当だ。アンジュが早く起きちゃったのかぁ。あぁ、アンジュが悪いだなんて思ってないからね!?」
またアンジュが申し訳なさそうにする前に慌てて否定しておく。アンジュはそんな風に慌てる俺の様子を見て、面白そうに笑った。笑い声を出さずに、目を瞑って口角を上げておかしいものを見たように笑うからこっちまで微笑んでしまう。
「って、こんなことしてるんじゃないんだった。アンジュの朝支度しなくちゃ。髪はとかせたから次は服だね。」
アンジュを立たせてクローゼットまで連れて行く。クローゼットの中からアンジュに似合う赤い服を取り出して、アンジュに着せる。黒タイツは流石に履かせられないから自分で履いてもらうけど、他の服は俺が手伝って着せる。コルセットをつけて、髪にヘッドドレスをつける。
アンジュの支度が終わると、まるで人形のような人間になる。白い肌に赤い瞳、綺麗な金髪におしゃれな服。高い人形のような見た目…いや、人形ですら表しきれない美しさをもっている。もしもアンジュが人形だったならば、人形師が惚れ惚れしてしまうほどの完成度だろう。
精巧な人形のように美しいアンジュは人間だ。
人間であることは悪いことじゃない。ただ、|ここ《シエル》で生きていくのは難しいだろう。あの時、アンジュを拾わなければ良かったのかもしれない。あの時拾ってしまったからアンジュは自分を捨てて生きていくことになってしまった。けれど、あの時拾わなければアンジュは他の奴らに食べられて死んでいた。拾うか拾わないかそれ以外か、どの選択が正解だったかなんて俺にはわからない。
けど、拾ってしまった責任は取るつもりだ。人間の噂がどこまで本当かわからない。喋っても俺たちに影響はないのかもしれない。食べても美味しくないかもしれない。そうだったら嬉しいけど、本当かどうかを試す気はない。試した結果、俺がアンジュを傷付けてしまう訳にはいかないからだ。
「アンジュ、今日も俺が君を守るよ。君が痛い思いをしないように、ちゃんと守るから。」
アンジュが頷いたのを見て、俺は自分の準備を始める。と言っても髪を纏めて着替えるだけだけど。アンジュほど自分に気を使う必要はない。
適当に結んでワイシャツとスキニーパンツに着替えたら、アンジュを呼んで身だしなみの最終チェックをする。
「体調とか大丈夫?」
『心配ありがとう。いつも通り大丈夫よ。』
「そう、なら良かった。」
アンジュの手を引きながら部屋の外へ出る。転ばないように気をつけながら、いつも通り歩いていく。下の階からは誰かが朝ご飯の準備をしてくれているのか、パンの焼けた匂いがした。