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第四章 初任務
アジトを出て、ルーヴィッドさんの後を着いていく。
ルーヴィッドさんが持っている紙に、依頼してきた人がいる場所への案内が書かれているらしい。僕は字が読めないから分からないけど。
「……ミリュニカ、だっけ?お前の名前」
「はい、そうですけど?」
歩いていると、ルーヴィッドさんから不意に声を掛けられた。
「ふ~ん。苗字は?」
「苗字……?分かりません」
苗字。ディアドさんでいう「グードセル」、ルーヴィッドさんでいう「シャルバンク」のこと。ミリュニカの記憶を探っても、「苗字」は出てこない。
……僕の名前だって、借り物だからなぁ。
「あとさ、敬語じゃなくて良いよ?俺のことだって呼び捨てで構わないし」
「え……良い、の?」
「ああ。師匠は敬語で良いけど、俺は一応パートナー的なものだからな。敬語だとお互い面倒だろ」
「……分かった。これからよろしく、ルーヴィッド」
「よろしくな、ミリュニカ」
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依頼の内容は、『霊感の強い人間だけに、公園に変な何かが見える』というものだった。
ルーヴィッドの話によると、霊感がとても強い人間だけが『霊術師』や『霊媒師』になれるらしい。ディアドさんやルーヴィッドがその例だって。
そして、昔ディアドさんが作った『霊感検知機』の効果で、誰がどのくらい霊感があるのかが分かるようになっていたらしい。そのおかげで、ルーヴィッドはディアドさんに弟子入りしたんだとか。
「……何だ、あれ。本当に変だな」
「……わぁお。これは、依頼したくもなるね」
公園には、う~ん……なんて表現すればいいのか分からないようなものがいた。すごい数の頭に付いた金色の目の全てがぎょろりとこっちを見ていて、全身は真っ黒。しかも、ものすごく大きくて、脚がたくさんある。はっきり言って、気持ち悪い。
「とりあえず、こいつをなんとかするぞ!」
「りょーかい!」
ルーヴィッドが、前にディアドさんから貼られたあのお札に似たお札を取り出す。
「──|封霊…召喚…《リット…ヴェード…》《ミリエル》!」
お札が変なのに向かって飛ばされる。変なのに貼り付いた瞬間、お札が光った。
お札の文字か何かから、白い何かが出てきた。その何かが完全に出てきたら、僕よりももっと小さな羽根の生えた女の子が、変なのに攻撃する。
「……俺の霊術、|霊札召喚《リット・ディーン》だ。御札に霊力を込めれば、自分が召喚したい使い魔の霊を召喚させることが出来る」
《ミリエル》が変なのと戦っていたら、急に《ミリエル》が消えた。
「ちっ……ミリュニカ!俺が合図したら、肉体から離れた状態であいつに突っ込め!」
「わわぁ……分かった!」
「行くぞ!3…2……1!今だ!」
僕は、ミリュニカの身体から離れた状態で変なのに近づいた。
変なのの金色の目がミリュニカの肉体に集中する。ルーヴィッドは、またお札を出した。
「……|霊散《イルディア》!」
ルーヴィッドがそう言ってお札を変なのに向かって投げたら、変なのに当たった瞬間に変なのの黒かった部分が飛び散った。
その場には、すごく小さな幽霊が残っていた。
「……どうしたの?」
ミリュニカの肉体に戻った僕が声を掛けると、その子は小さな声で喋り出した。
「……ここにね、昔、古い家があったの。私は、その家の座敷わらしだった。でも、家は壊されて──私は新しく建てられたマンションの管理人室で暮らしていたの。毎日、あの家が恋しくてたまらなかった。そしたら、私にたくさんの霊力が集まって……私では制御できなくて、マンションは……」
座敷わらし……もしかしたら、『怨霊』になって、同じ思いの怨霊たちからの霊力を集めたのかも……?
「……んで、そのマンションは呪怨により崩壊。その跡に建てられたのが、この公園って訳か」
「……そう」
僕にはよく分からない話だけど、この座敷わらしの子の話は、なんだろう?すごくかわいそうだなって思った。
「……ねぇ、もしよかったら、僕たちのところに来ない?」
「……いいの?」
「うん!ね、ルーヴィッド。ディアドさんも分かってくれるでしょ?」
「ん~……まぁ、師匠はこういう状態の相手を無視する人間じゃないしな。お前、名前は?」
「名前……アミリス。昔、あの家の人が付けてくれたの」
アミリスは、そう言って哀しそうに笑った。名前をもらえて、うれしかったことを思い出しているのかもしれない。
「……帰ろう。アミリスも一緒に」
僕はそう言って、アミリスに微笑んだ。