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ウマ娘〜オンリーワン〜 06R
ネガティブって程ではないですが、ちょっと暗めで人が変わっちゃう的な要素があるかもです。(人によって感じ方は違うかも。)
もし、苦手な方がいたらお気をつけ下さい。
あと、いつもより大分長くなってしまいました。すみません。
06R「超えたい」
「ハァ、ハァ、ハァ…………」
脚がおぼつかない。ガクガク震える。
まただ。また実力を発揮できなかった。
涙が落ちる。またダメだった。
実況「―――結果が確定しました!1着は8番・ユニバースライト!2着は12番・クリスタルビリー!そして3着は、9番・アルノオンリーワン!」
「わあああ!!!」
観客の歓声が響く。
やっぱりユニバちゃんは凄い。クリスちゃんも凄かった。
どうして?結構いい逃げだと思ったのにな。
二人には敵わなかった。
もう、皐月賞はダメなのかな…………
=====
牧村「よく頑張った!アルノ!二人が凄かっただけだ、気にすることはない。また次だ!」
アルノ「……皐月賞、出れますか……?」
牧村「ああ。3着ぐらいならな。また次頑張ろう!次も重賞にするか。えーっと毎日杯とか………」
アルノ「トレーナーさん。私、条件戦でいいです。」
牧村「えっ!?本当か?本当にいいのか?」
アルノ「はい………なんか自信なくなっちゃって。だって、私重賞やGⅠで1回も結果残してない……だから、徐々に条件戦で積み重ねていった方が勝てると思うから……もういいです。菊花賞に間に合えば。」
牧村「アルノ……分かった。だが、条件戦じゃなくてオープン戦かリステッドにする。よさげなレースを探すから。」
アルノ「本当ですか……?ありがとうございます……!」
それから、私はしばらくは毎日トレーナーさんとレースのローテーションについて話し合った。
最初はリステッド戦のすみれステークス。(阪神レース場・芝2200m)、
次に同じくリステッド戦の若葉ステークス(阪神レース場・芝2000m)、
そして若葉ステークスに優勝したら皐月賞へ
ダメだったら次は日本ダービーの前哨戦・青葉賞へ
トレーナーさん曰く、優勝しないと日本ダービーへの優先出走権は獲得できないらしい。
私は皐月賞で、二人への再戦を誓った。
私は、死に物狂いで頑張った。
苦手な加速力の練習、スターとしたときの反応の速さ、
とにかくたくさんのことを頑張った。
すると、私は大逃げの最後に本気で再加速することに成功した。
加速力が、上がったのだ。
その加速力のおかげか、私は凄まじい成長を遂げることが出来た。
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実況「――――11番・アルノオンリーワン!さらに加速して6バ身!もう誰にも止められません!圧勝です!すみれステークス、1番人気に応え、勝ったのはアルノオンリーワン!―――――」
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実況「先頭は未だアルノオンリーワン!5バ身、6バ身と徐々に差を離す!楽勝だ!アルノオンリーワン、リステッド2連勝!皐月賞への切符を手に入れましたーっ!」
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牧村「――――というわけで、アルノ、リステッド2連勝、おめでとう!!」
トレーナーさんがパチパチと手を叩く。
ショート「いぇーい!やったーっ!」
ブリザード「おめでとう♪アルノちゃん!」
マリー「やっぱ強いじゃん。アルノ!……あと、サンもね!重賞初勝利、おめでとう!」
サン「いや、今さら、遅いですよ。もう1ヶ月も前なのに。」
アルノ「えっ!?重賞勝ったんですか!?すごーい!おめでとうございます!」
サン「ありがとうございます。まあ、8人と少なかったし、偶然内枠の方を引いたのもあったけど勝てて嬉しかったです。」
マリー「うう……2人の活躍、もっと見たかったなあ…」
サン「泣かないでくださいよ。」
牧村「マリーも、よく最後まで頑張ったな。最後の有マ記念、すごかったぞ。いい末脚だったよ。」
そう、マリー先輩は去年の有マ記念でレースを引退し、今年の春でトレセン学園も離れていってしまう。
マリー「うう……ありがとうございます……アルノもサンもこれからだから!頑張ってね!」
アルノ&サン「はい!」
ショート「ちょっと〜!あたしたちもバリバリ現役なんですけどー!」
ブリザード「そうですよ〜あまり目まぐるしい活躍はしてないけど…」
牧村「3人共、頑張れよー!シニア級の意地を見せてくれ!ショートはマイラーズカップで目指すは安田記念!ブリザードはマーチステークス、そして|地方レース《ローカルシリーズ》のかしわ記念のローテーションでいくからなー!」
ショート&ブリザード「はい!」
牧村「サンは次は日経賞だ!勝って天皇賞(春)行くぞ!」
サン「はい!」
ショート「打倒、“ヘキサグラムスター”!だね!」
アルノ「……え?誰ですか?」
ショート「えーっ!知らないのー?去年の“三冠ウマ娘”だよ!」
牧村「ヘキサグラムスターの方も今年は阪神大賞典からの天皇賞(春)に行くと予定しているからな。」
サン「でも、私とは同い年。なので、負けたくありません。」
サン先輩は烈火の如く燃えていた。
牧村「よし、その調子なら負けないだろうな!……で、アルノは見事皐月賞出走だ!おめでとう!」
アルノ「はい……!あ、ありがとうございます……」
牧村「ん?どうかしたか?」
アルノ「いえ、なんでもないです……」
牧村「・・・・??」
若葉ステークスを勝ち、皐月賞に出走できたことは、正直とっても嬉しい。
目標のクラシック三冠レース全出走の夢が叶わないところだったから。
でも、正直なんだか心から喜べない感じがする。
なんだろう、この気持ちは………
=====
牧村「いいか。皐月賞は中山の芝2000メートルコース。あのホープフルステークスと同じコースだ。」
アルノ「はい。」
牧村「ホープフルステークスと同じだが、序盤と終盤で2度急な坂を経験する。だから、よほどのスタミナが必要だ。だが、アルノは、十分にスタミナがあるからそこは大丈夫だろうな。」
アルノ「はい………」
牧村「…どうした?」
アルノ「何か、私勝てるのかな、って。」
牧村「えっ……?どうしてそう思うんだ?」
アルノ「きさらぎ賞のときに、あの2人に負けて……最初は、強いな、あの2人を超えたいな……って。そう思っていたんですけど……でもすみれステークスも若葉ステークスも、私は圧勝することができました。」
牧村「そうだ。出来たんならいいじゃないか。」
アルノ「違うんです。“出来た”から怖いんです。出来れば出来るほど、負けるのが怖い……きっと、あの2人はとても凄かった。すみれステークスも、若葉ステークスも強い人はたくさんいた。でも、その人たちよりはるかにあの2人は強い。だから、どんなに頑張っても、きっと私には超えることが出来ないんです……」
牧村「そんなことはない!アルノ、いいか。超えられないものなんてないんだ。“2人は強い”?じゃあ超えてみればいいじゃないか。2人がどんなに強くても、お前が2人より強くなりたい場合、お前がやることはただ一つ。2人以上の努力をすることだ。そうすれば、お前は絶対に2人を超えられる!」
私は、初めてトレーナーさんに怒られた。
口調こそ怒り口調で怖かったが、目は真剣そのものだった。
決して感情的ではない。私のことを思って怒ってくれているのだと、私は即座に受け取った。
アルノ「……ごめんなさい!目が…覚めました。私が間違ってました。私、皐月賞頑張ります!皐月賞がダメだったら、日本ダービーで!日本ダービーがダメだったら菊花賞で!菊花賞がダメでも、絶対いつか、2人に勝ちます!」
牧村「そうだ。そう思い続けていれば、必ず勝てる。………いつものアルノに戻ったな。」
アルノ「はい!早速、2000メートル、5本走ってきまーす!」
牧村「い、いや、待て!まだ何も準備してなーいっ!」
急に私の身体全体は、自身でみなぎってきた――――
そんな感じが不思議とした。
今の私なら、何をやっても無敵だ。
なぜか、そう思えた。
=====
月日は経ち、4月。この日でちょうど私がトレセン学園に入学して1年になる。
そして、この日も新しい新入生が入ってきた。
そして、重大なニュースが私の元に来た。
アルノ(どんな子なんだろう……私の同室の子。)
そう。今日、寮に帰ると美浦寮の寮長さんから、「今日から君の部屋に新入生が入ってくるからよろしく。」と言われた。
寮長さん曰く、「素直で人懐っこくて誠実な子」らしい。
とりあえず、仲良くはなれるんじゃないかと思った。
ドアの前に立つ。
手が震えた。
覚悟を決めてドアのノブを回す。
「ガチャ」
そーっとドアを開けると、電気が着いていた。……ということは部屋に人がいる。
そして、人影が見えた。
玄関に入り、さらに歩みを進めると、やはり、人がいた。
その人はベッド―――私が使ってない方のベッドに座り、窓の外を眺めていた。
すると、私の存在に気がついたのか、くるりと顔をこちらに向ける。
目が合った。
綺麗で、キラキラした目だ。
そして、その子はあわててベッドから立ち上がり、私に向けて気をつけをする。
「―――あの、アルノオンリーワンさんですか?」
アルノ「あ、はい。」
「はじめまして!私、今日からアルノさんと同じ部屋になりました、“プロミスクイーン”って言います!今日から、よろしくお願いします!」
その子は、深々とお辞儀をする。
茶髪で、くるくる巻きの天然パーマ。左耳には宝石の飾りがついたオシャレなリボンをつけていた。
声も、表情も、寮長さんの言うとおり、やはり素直さそのものだ。表も裏もないような、純粋な。
アルノ「あっ、私はアルノオンリーワンって言います!こちらこそ、よろしくお願いします!」
慌てて、私も挨拶する。
プロミス「あっ!全然タメ口で大丈夫です!私のことは、プロミスって呼んでください!えーっと、アルノさんは……」
アルノ「アルノでいいよ。」
プロミス「分かりました!アルノ“先輩”!」
私は、人生で先輩と呼ばれたのが初めてだった。
すこし嬉しいし、すこし恥ずかしいような、そんなむず痒い感じがした。
プロミス「あっ、アルノ先輩!これ、良かったらどうぞ!地元のお菓子です!」
アルノ「わあ〜!ありがとう〜!」
プロミス「……あっ、よかったら一緒にお茶しませんか?いろいろアルノ先輩のこと、知りたいです!せっかく同室になったんだし!」
アルノ「うん!いいよ。私もプロミスちゃんのことたくさん知りたいし!」
それから、私たちはプロミスちゃんの淹れてくれた紅茶で、プロミスちゃんのお菓子を食べながらたくさんのことを話した。
夜遅くまで話した。
私とプロミスちゃんの距離は、一夜でグッと縮まった。
これで、もう寂しくない。
=====
皐月賞一週間前。
私は、今までで一番、ストイックに自分を追い込んだ。
休み無しで、ずっと練習してた。
多い日は、一日で2000メートルを10本消化した。
雨の日も、風の日も、休まずに走った。
レースは、よほどひどくない限り、どんな強さの雨でも決行される。万が一本番が雨だったときにも備え、雨でもしっかりと練習した。
トレーナーさんも最初はやめとけ、と言っていたけど、渋々頷いてくれた。
「ザー、ザー……」
大雨で、風がすごい。でも、負けない。
あの2人を超えたい―――――
アルノ「はああああ!!!」
でも、正直、あのときの私はまだ目が覚めきっていなかったのかもしれない。そう今の私は思う。
私は、もともと努力することが苦手だった。誰よりも飽きっぽくて、面倒くさがり屋で、どんなこともすぐに辞めてしまって。
でも、あのときの私は違かった。
どんな妥協も許さない。限界まで自分を追い込む。
2人の背中に追いつきたい。その為なら、何だってやってやる。
自分を|省《かえり》みなかった。
牧村「おーい!そろそろもう終わりにしよーう!こっちへこーい!」
アルノ「あと……!あと1本だけ走りたいです!」
牧村「1本?……しょうがないなあ……もうこれで本当に最後だからなーっ!」
アルノ「ありがとうございまーす!」
私は、再び走り出す。全く疲れはない。
いくらでも走れる。
ショート「―――トレーナー。アルノ、大丈夫?」
牧村「……ああ、お前たちまだ帰ってなかったのか。」
ブリザード「はい。ちょっと、様子が気になっちゃって。だってこんな大雨なのに……私たちだって今日は室内トレーニングだったし……」
牧村「やっぱり、|一生に一度しかないレース《クラシック》だからな。気合は他のレースよりはすごいだろうな。」
サン「……アルノさん、すごいですよね。私たちより遥かに体力がある。羨ましい。……でも、心配です。」
サン「―――――何をやっても疲れない人ほど、気づかないんじゃないでしょうか。……自分の身体が、悲鳴をあげていることに―――――」
=====
牧村「アルノ、お疲れ。ジャージ、ちゃんと部屋で乾かすんだぞ。アレだったらちゃんと洗濯もして、な?」
アルノ「はい。……あれ?先輩たちは?」
牧村「3人ならさっき帰ったよ。さっきまでアルノが走ってるとこ一緒に見てたんだ。みんな心配してたぞ。『頑張りすぎてないか』って。」
アルノ「それは全然大丈夫です。『心配しないで』って言っておいて下さい。」
牧村「本当か?皐月賞もうすぐだからな。無理はしないように。……あーっ、あと風引くなよ。」
アルノ「はい。それじゃあまた、明日。よろしくお願いします。」
牧村「おう……暗いから気をつけてな…」
外は、真っ暗だった。そして、まだ土砂降りの雨が続いていた。
寮の部屋に帰る。
プロミスちゃんがいた。
プロミス「アルノ先輩!今日も遅かったですね……今日もトレーニングですか?」
アルノ「うん。まあね。」
プロミス「……もうすぐ、皐月賞ですもんね……凄いです。アルノさんは。でも、私も今日、担当トレーナーさんが決まったんですよ!」
プロミスちゃんの輝く笑顔。見ているだけで元気が出てくる。
プロミス「このあいだ、模擬レースで、10人ずつで走ったんですよ。そしたら、見事1着になりました!しかも、今年の新入生の中で1番速いタイムだったって……たくさんのトレーナーさんがスカウトしに来て……どのトレーナーさんも良さげでとても迷いました……で、悩みに悩んだ結果、今のトレーナーさんにしました!」
アルノ「そうなんだ。すごいね〜!私なんて、その模擬レースでビリだったのに……」
プロミス「ええっ!そうなんですか!こんなに強いアルノ先輩が……やっぱ模擬レースは当てにならないかもしれませんね。私も才能に|胡座《あぐら》をかかないでちゃんと頑張ろうと思います!」
アルノ「うん、偉い!頑張ってね!」
プロミスちゃん……将来大物になりそう……
この日も、私たちは随分長い間たくさん話してしまった。
プロミスちゃんのコミュニケーション能力がすごいのもあると思うが、やはり私たちは気が合うのだと思う。
だから、つい今日あったことに話を咲かせてしまうのだ。
=====
プロミス「アルノ先輩、おやすみなさーい!」
アルノ「うん。おやすみ。」
「パチッ」
私は、部屋の明かりを消した。
明日も、トレーニング頑張ろう。
どんなトレーニングをしようかな……まずは2000メートル10本走って……
あ、その前にいつものように朝、街中を1時間ランニングして……
そんなことを考えている内に、いつの間にか私は眠りに落ちていた。
〈翌朝〉
「ピピピッ、ピピピッ……」
スマホのアラーム音で目が覚める。
アラームは朝の5時にセットしていた。
朝も走るためだ。
私は、ジャージに着替えて、プロミスちゃんを起こさないようにそーっとドアを開けて外へ出る。
意外と、プロミスちゃんは寝付きが良く、なかなか起きないので、さっきのアラームの音ぐらいでは、全然起きない。
人に起こされると、ちゃんと起きれるらしいので、毎朝私が起こしている。
街中を1時間走る。夢中だったので、あっという間だった。
部屋に戻り、プロミスちゃんを起こし、一緒に朝ごはんを食べに行く。そして、一緒にトレセン学園へ登校する。
いつもの変わらない日常だ。
やがて授業が終わり、トレーニングの時間だ。
昨日の大雨が嘘のように快晴だ。
よし、これならたくさん走れる………!!
牧村「よし、まずアルノは2000メートル、1本目、走ってくれ!」
アルノ「はい!」
牧村「位置について、用意……スタート!!」
「タッタッタッタ………」
いつものように、私は軽快に走り出した。
ここのことろは、皐月賞のレコードタイムに迫るようなタイムを出し続けている。
いつものように勢いよく走る。
―――すると、1000メートルを過ぎたあたりで、脚がなんだか重くなってきた。
脚を上手く動かせない。
牧村(……ん?スピードが下がった……?)
そして、最後の直線に入る。ここで一気に加速だ。
だが、脚が言うことを聞かない。
次第に、視界がぐらついた。そして、目の前が急にパッと真っ暗闇に変わった。
「バタッ!」
牧村「――――!!アルノーっ!!!大丈夫か!」
ショート「アルノ!しっかり!!」
サン「アルノさん、大丈夫ですかっ!?」
ブリザード「私、保健室の先生呼んでくる!」
何を言っているのかは全く分からないが、かすかにトレーナーさんや先輩たちの声が聞こえる。
それを最後に、私の意識は途絶えた。
-To next 07R-
〜キャラ紹介05〜
マロンホワイト(Maron White)
誕生日…5月3日
身長…149cm
体重…増減なし
スリーサイズ…B80W54H76
無邪気で可愛げのあるウマ娘。夢は歌って踊れるウマ娘になることで、ウイニングライブのセンターに立つことが何よりの憧れ。ウマ娘である姉がいて、今は地方レース(ローカルシリーズ)で活躍中。重賞も勝ってる。姉とは大の仲良し。
一人称・マロンちゃん/あたし
毛色・芦毛
所属寮・美浦寮
イメージカラー・緑