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小説「届かない恋でも」
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ある日。
___私は、ネットで恋に落ちた。
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私、佳奈。
最近スマホを買ってもらった小6女子。
たった1時間前のこと。
私は、いつものようにスマホに手を伸ばす。
スマホを開くと、あるチャットサイトが開かれたままだった。
私は最近、チャットにハマっていた。
たくさんの人たちと気軽に話せて、暇つぶしにもなる最高のサイトだ。
意見がすれ違うこともあるけど、それでもここのチャットは楽しい。
「ここのルーム、ちょっとだけ入室しちゃお」
そこには私の早速できた“ネッ友”、raraちゃんがいた。
ららちゃんと呼んでいる。
ちなみにネットでの私のニックネームは「ねここ」だった。
猫が好きだからという単純な理由から出来た名前だ。
私は、「友達集まれ!」というルーム名をタップした。
(ねここ)こんー!
(rara)あ、やほ!
(ねここ)やほぉ!
そうして会話が進んでいき、だんだん人も増えて、いつのまにかみんながバラバラに話していた。
すると。
(悠太 さんが入室しました)
(ねここ)こんー
(悠太)こん
(rara)やほ!
なぜかこの時胸がざわついた。
(ららちゃん、この人と仲良いんだ…)
私は、前に一度、この人と話したことがある。
喋り方も人柄も良い感じの人だったな。
中一男子っていってたよーな。
あの時確か、クイズ大会をみんなでしたっけ…。
って…あれ?
なんで私、この人のことばっかり考えてるの?
すると。
(rara)おーいねここ!生きてるかー
ふいにららちゃんにメンションされた。
(ねここ)あ、生きてるよ、ごめ話聞いてなかった
(rara)もぉー何してんのw今恋バナしてるとこ
(ねここ)恋バナ!?!?
(rara)うんwてかそんな驚く?w
(ねここ)ごめーん
その後は、恋バナした。
その時、ずっといた人たちを名前で呼べるようになった。
あの人も…悠太くんって呼ぶようになっちゃった。
なんか、男子をそんな親しい感じで呼ぶのって、文章でも緊張しちゃった。
しかも、悠太くんって好きな人いるんだ…しかもこのチャットの人に。
もしららちゃんだったらどうしよ…
気まずくなるよぉ…
って、あれ?
私…なんでこんなに、悠太くんのこと考えちゃってるの…?
うぅぅ…なんか胸がどきどきする…
もしかしてこれって…
恋、なの?
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そして今に至る。
私は枕に顔をうずめて、うめいていた。
「ネットで…恋、しちゃった…」
呟いてみると、やっぱり胸が熱い。
心臓が、喉元まで跳ね上がり、うるさく音を立てている。
これが、恋かぁ…。
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あれから1ヶ月後。
季節は10月に入り、暑さも落ち着いてくる頃。
私は今日も、チャットサイトを開く。
フリールームに1人で入り、鍵をつける。
パスワードもいつもと同じだ。
待ち合わせ時間まで、あと5分だ。
…誰と待ち合わせてるかというと…悠太くんだ。
私たちは、2週間前くらいから、“チャット内だけで”付き合っている。
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9月の半ばのあの日。
私は勇気を出して、鍵部屋を作り悠太くんを誘い、告白したのだ。
あの時は、緊張しすぎて、ずっと「す」と呟いていた。
そのあと思い切って、「好き、です」と打って発言ボタンを押した。
あの時の悠太くんは、私の告白を促してくれて、しかもそのあと、OKするときかっこよかったなぁ…
思い出していると顔が熱くなっていた。
そして3分程待つと、悠太くんが来た。
(悠太 さんが入室しました)
(悠太)やほぉー
(ねここ)あ、えっと、やほ!
(悠太)もーねここは挨拶だけで可愛いなーw
(ねここ)ふぇ!?
(悠太)可愛いw
みるみる、画面を見つめる私の顔が赤く染まる。
ど、どきどきするっ…!
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その日も沢山話して、スマホをそっと充電コードにつないだ。
今日は、結構長い間、「会いに行きたい…」みたいな話をした。
私だって会いに行きたいよ。
でも、それはきっと叶わないだろう。
だって、ネットで出会い系危ないし、お互いに未成年だし、親はこのこと知らないし、知っててもダメだろうし…
会いたいのにそれは叶わない。
それはとても辛いことだった。
こんな私の恋はどうなってしまうんだろう、といつも考えてしまう。
毎晩眠れない日が続き、日常生活にも少し支障が出てしまった。
私のリアルでの周りの人たちも、次々に素敵な恋をしてるし。
リアルで付き合ってる友達もいるし。
その友達が彼氏を自慢してくるたび、私の心は傷ついていった。
どんどん不安が広がっていく夜。
私だけ、このままなのかな…?
悠太くんとは、画面越しでしか話せない。
顔も、声も、分からない。
ただ、“画面越しの”笑顔に救われる夜もあった。
でも…布団に入ると、不安が募ってゆく。
布団に潜って、思考を巡らす。
でも、考えはまとまらず、苦しくなっていくだけだった。
そしてそんな夜が続いた。
ふと呟いた。
「画面越しでしか話せないなんて…」
こんなの、どうすればいいかわかんないよ…
もう、いっそのこと諦めようかな。
そんなことは出来なかった。
案として浮かんでも、“想い出”を思い出すと、やはりそんな気にはなれない。
甘いけれど、苦くもある…。
この気持ち、どうすればいいのかな…。
毎晩思う。
これが恋なのかな。普通なのかな。
でも、ネットで恋すること自体普通じゃないし…
この気持ち…本当に、恋、なの?
そう疑ってしまうほど…苦しいよ。
「…あれ…」
涙が一筋流れた。
「泣い…てる…?」
「うぅぅっ…私…どうすれば…い、い、の…
っ…この恋は、いつまで、続、くの?いつか…途切れ、そうで…怖、い、の…」
溜め込んでいた言葉をすべて吐き出してみた。
でも、あまり変わらなかった。
「吐き出せば辛くなくなるなんて、…ほんとは、そんなこと嘘だったんじゃん…」
その後は、泣いて、泣いて、泣いた。
泣いて、泣いて、ひたすら泣いて。
枕がびしょ濡れになってしまうほど、泣いて、泣き続けて。
しばらくしてようやく落ち着いた頃には、目は真っ赤に腫れ上がって、服の袖はぐっしょり濡れていた。
濡れた枕と服で寝るのは少し気持ち悪かった。
そのせいで眠れず過ごした。
「…苦しいよ…」
そう呟いたが、もちろん返事はない。
そのまま宙を見つめ、ぼーっとしていた。
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いつの間にか朝だった。
…寝ていたのかな…?
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次の日の夜。
また夜だ、この時間が来た…とテンションが下がる。
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あぁ…もう楽観的に受け止められないな。
「いつまでも続いているはず」
「きっといつか会える」
そんな明るく単純な考えは、すぐに消えた。
「私の恋も、いつか儚く、舞い散ってしまうのかな…。そしたら、私はどうなるのかな。」
呟いた。
なんか、迷路みたい。
なぜか笑みがこぼれた。
こんなの初めてだった。
果てしなく続く、恋の迷路か。
ふと、そこで思い付いた。
適当なメモ用紙を漁って、ペンを握る。
___気持ちを、ここに吐き出そう。
前みたいに、それだけでは解決しないかもしれない。
でも。
この時だけは、自信があった。
何故かは分からないが、そんなこと気にせず、私はどんどん文字を書き進めた。
『会いたいよ。
会いたいよ。
あなたも、同じ気持ちなのかな?
苦しいよ。
切ないよ。
手の届く恋がしたいのにな。
好きなのに。
大好きなのに。
なんで、手を伸ばしても届かないの?
私の恋を、誰か見つけて。
でも、そんなこと叫べない。』
そこまで書いて、私はふぅと息を吐いた。
すると、私の頭の中に、ふといいフレーズが思い浮かんだ。
そして私は、メモ用紙の最後に、こう書き足した。
『だからせめて、あなたに届くように。
言葉を紡いで。
想いを奏でて。
この気持ちを、育てていくね。』
そこで私はペンを置いた。
私も、…自分も、このフレーズのようになりたいなと初めて思えた。
この気持ちを、少しずつ、少しずつ。
育てていこう。
胸が熱くなった。
ドキドキとはまた違う感じだった。
「言葉を紡いで。想いを奏でて。この気持ちを、育てていくね。」
口に出すと、不思議とすーっと不安が消えた。
もう一度口に出してみる。
「言葉を紡いで。想いを奏でて。この気持ちを、育てていくね。」
ここまで読んでくださった方々へ。
ありがとうございます…!
(この話、実は私の体験も少し含まれています…!)