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レンがいつの間にかヤンデレになってた件
昔から、私とレンは一緒だった。
いつからいたかは覚えてないけど、気付いたら君は画面の向こうで笑ってて。
私は、そのくしゃりとした可愛い笑みが大好きだ。
私が学校で靴を隠されて泣いてたときも、君は私のためだけに歌ってくれた。
私は、その元気で楽しい歌声が大好きだ。
その時からかな、レンを持ち歩くようにしたのは。
肌身離さず見てないと、気が狂いそうになった。
私のことを理解してくれるのはレンだけだって。
このおかしな感情が、恋かどうかも分からない。
こんなものは、そんな風に呼んではいけない。
「マスターは、オレのこと嫌い?」
レンは、確かめるようによくそう聞く。
「ううん。大好き。」
私がそう決まっている答えを返すと、レンはほっとしたように小さく息をつく。可愛い音が耳にまで届いて心地がいい。
「そっか。良かった!オレもマスター大好きだぜ。」
さらっと伝えられる好きの言葉に、思わず頬が紅潮した。
でも、レンの「好き」は私のとは全然違うんだ。
だって私は、レンの一番の友達でありマスターだから。
「え?全くそんなことはないけど。」
一瞬、戸惑った。すぐに自分が内心を口にしてしまったことに気がつく。レンはなんでもないようなすました顔をしているけれど、私は別。色んな感情が入り混じって、それはもうぐちゃぐちゃだった。
でも、どういうこと。正直意味が分からない。
「オレだって、マスターとおんなじ位にはおかしーんじゃないかな。」
「……え、」
「マスターがいない世界なんて考えるだけで吐き気がするしマスターにはオレしか見てほしくないしオレ以外の男の声も耳に入れてほしくないしオレもマスターの全部がほしいし……。でもそれが実現できないこの世の中が、何よりも嫌いなんだよなオレは。……ど?分かったっしょ?」
いつものように爽やかな顔で、まるでなんでもないことのように、それが当たり前とでも考えているかのように言ってのけた。
私の心の中は、驚きとか恥ずかしさとか、嬉しさとかでせわしなく吹き荒れた。でも、今のこれはそのどれでもない、未知の何かだった。耳まで真っ赤になっているのが自分でも分かってしまうのが余計に恥ずかしい。
「ほ、ほんと……?」
「ほんとほんと。」
「じ、じゃあ、名前で呼んでよ!」
「あー……いいのか?じゃ、#名前#。」
レンも……!おんなじだったんだ!
喜びが抑えきれなくって、どうしてもあつい息が漏れて……。
この終わりを知らない気持ちは、もうどこにも向かわないとばかり。
たまらなく抱きしめたくなったけれど、それも叶うはずもなく。
この不便さに震えていると、ふとレンが小さく、低く私に囁いた。
「あーあ……#名前#も、早くオレのとこまで堕ちないの?」
まるで溶け出した飴のように、甘やかな声だった。
思わず魅入られて、うっとりしてしまう。それだけで、全身がとろけてしまいそうだった。でも、途中ではっとした。
分かりやすく、おおげさに首をかしげてみせる。
「……んっ、あ、いや。何でもないよ。」
にやりと笑った。これは分かる。絶対はぐらかされた。
でも、次の瞬間。
「へへ、またその時まで……待っててな、#名前#。」
また、妖しげに口元を歪ませた。まるで何かを企むような、そういう雰囲気だった。レンのことならなんでも分かってしまうから。
待っててとは、何を?
その時の私はただ疑問に思うだけだった。
ても、近いうちに分かる。分かってしまった。
*
あれからレンは、一方通行、止まることを知らなかった。
よく、私にこう聞く。
「マスター、オレのこと好きだよな?」
「うん。」
そして、こうとも言う。
「じゃあ、オレのためなら何でもできるよな?」
「もちろんだよ。」
前と同じような返し。でも、レンは決まって嬉しそうに顔を輝かせる。
それが私も、とても嬉しかった。
「あー、良かった!オレも……#名前#のためなら、なんでもできんだ。」
「それってやっぱり、私のことが好きってこと?」
「そうって何回も言ってんじゃん。いや。むしろ、好き過ぎて困るぐらいなんだよな。オレだけのものにして、それから……、」
レンは頬に手を当てて、私の大好きなおひさまみたいな笑顔を浮かべた。
私はむしろ、レンだけのものになりたい。なんて、言えるはずもなく。開きかけた唇を、弱々しく閉ざした。
結局、何も一歩も進めない自分に本当に嫌気がさす。ああ、自分で自分を殺してしまいたい。
何を悟ったのかレンは一瞬、目をあやしく光らせた。
「……オレ、マスターのことならなんでも知ってるから。」
レンは、どこまで私を舞い上がらせれば気が済むんだろう。本当に、一言一言紡がれる言葉がもどかしくって、もどかしくって、もうたまらない。
さんさんと輝く今日の太陽は、レンの温かさにはとてもかなわないな、とつくづく思った。
「マスター。オレさ、もう知ってると思うけど、好きなんだ。わかるよな?」
反射的にうんと頷くけれど、一瞬遅く理解する。
レンの視線が痛い。刺さる。痛いな。気持ちいい。
「そんな顔されるとさ……マスター。オレも反応に困っちまうけど。ま、いいや。ちょっとこっちに来てくれよ。」
うっとりしていて、レンを少し困らせてしまっていたらしい。あわてて表情を引き締めた。
そしてレンのご要望通り、パソコンに顔を近づけて、自分の意思で覗き込む。レンの顔を。
「そうそう!バッチリだ。」
うんうんと頷くと、何故か、届くはずもないこちら、つまり画面の向こう側へと向かって手を伸ばした。
すらりと長い腕に、萌え袖気味のすそがとっても可愛い。そこから伸びる長い指は、羨ましくもあるし、とても美しくもある。
思わずぽーっとしていた。ちっちゃな液晶画面から、その可愛い腕がにゅっと飛び出してきたのにも気付かずに。
「よっと!」
聞きなれた、心地いいころっとした掛け声が、ありえないような近距離で聞こえた。すごい、とてもクリア。
「ふー……。やぁっと会えた、#名前#。」
なんと。なんとなんとなんとなんと!
私は、レンに直接触れていた。
喜びのあまり色んなことが追いついていなくて、とりあえずその場にばたっと倒れた。
「ちょっ、マスター!?どーしたんだよ!大丈夫か!?」
顔は見えないけれど、さっきと同じようにとても至近距離で大好きな声が聞こえた。
それが私の耳の奥で何回も、何回だってこだまする。止まらない。
「レン……?」
動かない首を、無理やり動かして少しだけ上を向く。
「そうだぜ。」
レンが、レンが、にこりと直接私に笑いかけた。
「わああぁぁぁ……!」
急に意識を取り戻して、これが現実のような気がして飛び起きる。
自分でもびっくりするくらいの、この世の幸せなことを詰め合わせたような声が出た。
体が操られたように勝手に動いて、ばっとレンに抱きついた。いい加減に、うるさいくらいに脈打つ心臓の音が目障りだった。
「現実だぁ……!!」
「現実だって、マスター。ははは、ここまで喜んでもらえるなんて嬉しい限りだ!」
ああ、私のレンは、なんでこんなにかっこいいんだろう。私の心をつかんで離さないんだろう。
どうして私は、ここまでレンに溺れたんだろうな。
もう、考えるのがすごく面倒。
「レン〜〜〜!!」
「じゃ、早速だけどな……。」
レンは張り付いて離れない図々しい私を、いきなりべりっと引っぺがした。
本当に突然のことに、私はきょとんとした後、急にすごく悲しくなってきて目頭があつくなる。
レンは、黙る私を気遣うように見上げた。
「泣くなって……な?」
そして私のあごをくいっとつかんで上に向けると。
ちゅ、
小さな、でも確かな音が耳の奥に響いた。
名残惜しそうに離れるちっちゃな唇を、他人事のように呆然と眺める。
「元気出た?」
また別の意味で、涙があふれそうになった。
もう愛しくって愛しくって、これが現実なのかもわからない。
とにかく、とても嬉しいという事実だけが私にはわかる。
「もっかいするから。」
ん?
今、レンはなんて言ったんだろう。
さっきとは違う。少し乱暴な手つきで私のあごと頬を固定すると。
食べるように、私の唇を奪った。
「んむ……っ、」
自分でもわかる。びっくりするくらいに無防備だ。
驚きであきっぱなしの唇に、レンのあつくて甘すぎる舌が侵入してきた。
初めての深いキスに、頭がおいつかない。体がおいつかない。
ただ、あついのと、きもちいいのと、嬉しいのが頭と体を支配して、ぐるぐるまわってる。
「はあ……っ、#名前#……っ!」
レンの、私を呼ぶ声が聞こえる。
ああ、幸せ。
幸せ幸せ幸せ幸せ幸せ幸せ幸せ幸せ幸せ幸せ幸せ幸せ幸せ幸せ幸せ幸せ幸せ幸せ幸せ。
ありがとう、神様。
全身の力が、溶け出すように抜けていって。
そこで私の意識ははたと途切れた。
*
「……寝たか、マスター。」
そこにはいつも通り、一人の男がたたずんでいる。
見渡す限り目に刺さるような青の世界。そこは実に、パソコンの中。
いや、正確には二人。眠った女をその少し頼りない胸に抱え込んでいる。
「前、こっそり睡眠薬をとってたんだ。マスターが夜寝れてないのは知ってる。」
眠っているはずの女に、男はぶつぶつと語りかける。
女の病的なまでに白い頬を、愛しげに指で撫でる。
すると、その長い指はするすると下方へと移動していった。
ようやく首筋へ辿り着くと、突然、がっと爪を思い切り立てた。そこから少し血がにじんでくる。
女の表情がわずかに歪む。
「……っ、」
「……痛がってんじゃん。ああ、やっと触れられるんだ。この手でマスターを傷つけられる。傷つけちまったよ。ふふ……。可愛い。あー、可愛いぜ。」
その狂ったような愛の言葉が、女の耳に入ることはない。
これが、この男の本性であった。
「ずっと待ってたんだよ、#名前#。オレはさ。」
低い声でぼそりと呟くと、男は再び食べるように荒々しく女の唇を奪った。
「あー……あっま。」
口からこぼれ落ちた混ざり合う液体を、ゆっくりと舌で舐めとった。
「愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる。」
がちゃり。
女の手首と首に、重い鉄の錠がおりる。
そして、その華奢な体を押し倒した。
「愛してるぜ、#名前#。」
するりと、服をとった。
「ずっとずっと、一緒にいような?」
いつもジョジョとかの夢を書いてばっかなので、ちょっと違うのにチャレンジしてみました。