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愛は、時代を越えて。 7話
9月1日がやってきた。昨日のうちに、誰が誰と逃げるかなどは話し合ってある。あとは、その時間が来るのを待つだけだ。時計を確認する。確か正午の2分前に地震が来る。あと3分ほどだ。
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正午2分前。和音の家が大きく揺れた。
「行きましょう。かぐやさん。」
「うん。」
和音の家族にお礼と別れを告げ、揺れが収まってから家を出た。和音の手を引き、走る。どこに向かっているのかはわからない。ただ、被害が広がる前に。焦げるような音が聞こえる。家が崩れる音も。地獄絵図だ。そして走りにくい!!和音が着物くれたのは嬉しいけど、こういう時はマジでしんどい!!その綺麗な着物も、少し煤が付いて黒っぽくなっている。
「かぐやさん、大丈夫ですか?」
少し息を切らしながら、和音が聞いてくる。
「何が?」
「いや、あの、手が。」
「は?」
思わず足を止めて自分の手を見る。え……
「薄くなってる?」
自分の手が、少し薄く、透明になってきている。手だけじゃない。着物も、足も。少しずつ透明になっている。
「多分、かぐやさんが元の世界に戻る時が来てしまったんですね……」
「嘘でしょ!?なんで今なの!?」
どうしよう。悔しさと悲しさで、涙が浮かぶ。
「おそらくもう時間がありません。手短に話します。かぐやさん。僕がかぐやさんにあげた着物の柄の花は何でしたか?2つ、ありますよね。」
「桔梗と……藤。」
「そうですね。そして桔梗の花言葉は「永遠の愛」「変わらぬ愛」「誠実」「気品」です。藤の花言葉は「歓迎」「恋に酔う」「忠実な」「優しさ」「決して離れない」です。僕はそれを知った上で、かぐやさんに着物をあげたんです。」
「どういう……こと?」
わからないな。
「かぐやさん。僕は、かぐやさんのことが好きです。貴女の笑顔や、優しさが。僕のかぐやさんに対しての愛は、時代を越えても変わりません。かぐやさんの生きている時代でも、貴女はその優しいままで居てください。いつか必ず、会いに行きます。かぐや姫さん。」
「うん。……うん!」
いよいよ、私の姿が完全に見えなくなってしまう。でも、最後にこれだけは言いたい。
「私も大好きだよ。またね、|和音《わおん》。」
私は和音を抱きしめ、そう言った。
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「かーぐーや!起きて!」
「んー?」
「爆睡だったね。ほら、そろそろ着くよ。」
目が覚めると、私をペシペシ叩く、友達の菜生と南美がいた。なんで……なんで現実は変わってないんだろう。あの時代でのことは確かに起きていた。時間もちゃんと過ぎていた。和音の言葉も、家の燃える匂いも、ついさっきまでそこに居たかのようにはっきり覚えているのに。どうして……現実では時が動いてないんだろう。