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キャロル
・狂愛
・殺人描写、強姦、屍姦
倫理観がおかしい描写が数多く存在します! わお!
ぬかるんだ音が耳につく。ガス灯がチラついている。長い髪が揺れている。
息を漏らすようにして笑う。二徹後の愛想笑いよりも酷いもので、身体の末端は総じて震えていた。
ピントが合わない視界。止まらない笑い。乾いた笑い。鉄分の匂いを飛ばすバール。
彼女の中身は、温かかった。顔は……もう見えなかった。
「キャロル」
呟いたのはそれきりだった。
「お願いします。お願いします、お願いします」
懇願する彼女を押し倒した。中に押し入った。ガスの匂いがした。温かかった。
かみさま。彼女が縋ったのがそれだとしたら、見ていたとしたら。目の前で汚してやったことになる。
薬をヴァギナに塗り込み滑りを良くし、孕んで幾月か経った性器にペニスを差し入れ、ほかの男の残った味をかき消すように乱した。何度も何度も乱した。
美味いかと聞けばすすり泣いた。泣いている顔も美しかった。涙を舌で受け止めると化粧の粉と睫毛が入り込んだ。
揺さぶっていれば、やがて薬のにおいに混じって彼女のにおいが漏れ出て来た。互いの生々しい吐息が機械的に零れた。
お前が逃げたのが悪いんだ。笑いながら犯す。子宮を。子供の宿っている子宮を。絶頂すれば引き絞られるのだから、孕んだ子の首もろとも締め殺してしまえばいいと思った。
まだあの男を愛しているか。訊ねると彼女は首を震わせる。奥へ突き刺しながらあやすようにクリトリスを撫でる。
あの時のように、とびきり優しい声で訊ねる。正直に言ってほしい。
膣奥を揺さぶる。獣のように狂う場所を何度も擦り、クリトリスの溝をなぞり摘んで、にちゅにちゅと擦り立てていく。まるでペニスが生えようとしているかのように彼女のクリトリスは肥大化していた。喘ぎ声が華々しく上がる。自らも欲するように微かに彼女の腰が揺れる。
血の匂いがするそばで。彼女が愛していると答えた男のそばで。低い駆動音が耳につく。吐いた息が白む。
愛していた。幸せの絶頂だった。
愛していた。彼女がかの男と手を繋いでいても。口付けを交わしベッドの上で絡みついていたとしても。ある時は寝室で、ある時はリビングで、果てには台所でも――。
男を見つけた時、世間で言われるような概念が当てはまるようには思えなかった。むしろ初めは見守ろうと思っていた。
どれほどあの男に時間も心も注いだとしても……彼女へ金銭のみを渡すような生活になったとしても。自らとの行為で覆っていた薄い膜をかの男の前では外していたとしても。
愛していた。彼女が男と逃げおおせた時も。その腹の中に持っていた子が男のものだと知っていても。
それでも愛していた。
だが、あの時。彼女の声が「あんな奴」と吐き捨てていた名が自分自身のそれそのものだと知った時――息を殺してくぐもった音声を聞いていた時。絶叫と共に壁へ頭を打ち付けた。
それでも愛している。
表情を微かに歪ませて法悦を迎えた。無我夢中で意味の無い種を付け、半身を引き抜いた。もう二年は交わっていない身体だった。
彼女のエクスタシーはやはりこの手で訪れるべきだ。口角が歪む。忙しなく息を整える彼女の下肢へ手を伸ばし、再びクリトリスを撫でてやる。
褒めるような手付きで。やさしく。狂わせていく。心地良い絶叫が部屋に響く。涙が彼女の頬を伝う。
初めは優しさをもって撫でていた手付きにほんの少しだけねちっこさを足した。指の腹で側面を固定し、残った指で先端を擦り立て……至高の快感で、理性を殺していく。
彼女の喉が大きく晒される。髪がシーツへと広がり美しい光沢を揺らしている。
簡単な言葉を落とせば彼女は獣のような咆哮を上げた。美しい法悦だった。
放心している彼女の頭に、やさしさで。一撃で死ねるよう鉄の塊をぶち当てた。男を殺したものと同じもので死んだ。泉のように湧き出る血液。ぐじゅぐじゅとぬかるみを掻き分けるような音を立てる肉。
そっと指で触れる。血を舐める。鉄の味。
やさしく、再び。ペニスを膣へ突き入れる。まだ引き絞るような感触が残っている。疲れているのだろう、両の目が霞んだ。
ペニスを揺さぶる。この、だとか。孕め、だとか。訳の分からない言葉を吐いて想像の中の彼女を犯した。ペニスが彼女のヴァギナに擦れて心地良い。たとえ死んでいたとしても。髪ごと頭蓋骨を引っ掴んで犯した。やはり肉の音がそれらしい交尾として機能した。
笑いながら犯した。笑いに段々と涙が混じり出した。やがて啜り泣く声と共に吐精した。
返ってくるうめき声すら無かったが、それでも彼女を愛していた。
しばらく息をついた。彼女の眺めは美しいままだった。長い髪にべったりと血が付いている。
繋がったまま抱き締めた。べったりと疲労がまとわりつく。それでも温かな抱擁だった。彼女を久々に抱き締めた。幸福に身が震えた。
ペニスを引き抜くと膣から精液が零れた。その精液を頬と髪へ落とす。彼女は口で奉仕するのが上手かった。
「キャロル」呟いたのはそれきりだった。
冷たい空気が欲しくなり、乱雑にコートと手袋で身を整えて二人の住んでいた家を出た。
歩いていく。雪の中に湿った足音が裂けていく。足跡よりも鮮明な血痕がパンくずのように落ちていく。
この雪に住人は誰一人顔を見せない。鼻水を啜った。つんと冷たい空気が肺を刺す。
歩いていく。彼女をまだ愛している。空はまだ暗い。手袋をポケットに入れて忘れ物がないか確かめた。それはまだ形を保っている。探るのを止めて歩いていく。
住居へ着いた。一時的なものだが寝泊まりに不便は無かった。電気もつけずに手も洗わずに部屋へ入る。
ポケットから手を出した。手袋越しに見慣れた形のものが現れた。やはり彼女の前では示しがつかないだろう。
人差し指で、先程までは彼女を愛していた手で。引き金を下ろす。
微かな火薬の匂いがした。