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第3話:毒の茨と、烈火の加護
イーストン魔法学校の外郭、演習場。
本日の授業は「魔力による拘束と無力化」の実技演習だった。
「……最悪。外の空気、乾燥してて肌に悪そう」
アネモネは、169センチ(自称)の視点から周囲を見下ろし、ぶっきらぼうに呟いた。
隣ではドットが「おらぁ! 見ろアネモネ! 俺の魔力、今日も絶好調だわな!」と、無意味に火花を散らしている。
その時、クスクスという嫌な笑い声が聞こえた。
他寮の男子生徒数人が、アネモネの右目の下の「花のアザ」を指さして囁き合っている。
「おい、見ろよ。あれが『ロスト家』の生き残りだろ? 触れるだけで内臓を腐らせるっていう……」
「うわ、不吉だな。あんな毒使い、同じ学校にいてほしくないよな。空気まで腐りそうだ」
アネモネの背筋が、一瞬で凍りついた。
慣れているはずだった。幼少期から、実の親にすら「気味が悪い」と遠ざけられてきた言葉たち。
彼女は無意識に、一歩、ドットから距離を置いた。
(……別に。いつものこと。……私が近くにいたら、この脳内ガキまで汚れてしまう)
アネモネは冷めた瞳で地面を見つめ、自身の魔法『アネモネ・ヴェノム』の触手を指先に凝縮させた。
相手を黙らせる程度の毒を放とうとした、その瞬間。
「――おい。今、なんて言った?」
低く、地這うような声。
アネモネが驚いて顔を上げると、そこには、いつものお調子者な顔を捨て、鬼のような形相に変貌したドットが立っていた。
「ひっ、バレット……! 何だよ、事実だろ! その女の魔法は――」
「事実だぁ? ……ああ、事実だな。アネモネの魔法は、お前らみたいなクソの腐った『悪意』にだけ反応する、最高に高潔な魔法だわな!」
ドットの全身から、爆発的な炎が噴き出した。
演習場の気温が、一気に数度跳ね上がる。
「謝れ。今すぐ、アネモネに謝れ。さもねえと、その薄汚え口ごと焼き尽くしてやるぞコラァ!!」
「ど、ドット! やめなよ、減点されちゃうよ!」
慌ててフィンが止めに入るが、ドットの怒りは収まらない。
アネモネは、呆然とその背中を見つめていた。
自分を「汚い」と言った者たちに対し、自分以上に怒り、自分を「高潔」だと叫ぶ男。
「……別に。……いいわよ、ドット。万死に値する奴らなんて、放っておけばいい」
「良くねえよ! 俺が良くねえんだわ! アネモネ、お前は……お前は、俺が認めた世界一クールな相棒なんだよ!」
ドットが振り返り、アネモネの肩を掴んだ。
彼の熱い掌が、アネモネの制服越しに伝わる。
アネモネの毒は、彼には一切、一ミリも作用しない。
「……っ、脳内ガキのくせに、偉そうに……」
アネモネは涙目になりながらも、フイッと顔を背けた。
けれど、その手は静かに、ドットの制服の袖をギュッと握りしめていた。
「……四時間」
「あ? 何がだ?」
「……四時間以内に謝ったら、許してあげなくもないわ。……あんたが、そう言うなら」
アネモネは、自慢の毒の茨を「攻撃」ではなく、ドットを守る「盾」のように周囲に展開した。
毒と炎。
不吉と忌み嫌われた力が、太陽のような光と混ざり合い、美しく演習場を彩った。
遠くでマッシュがシュークリームを頬張りながら、「二人の結婚式、ケーキの代わりに火薬と毒薬を混ぜたら爆発するかな」と、物騒な祝福を呟いていた。
🔚