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#2仮面舞う祭り
どれだけ走っただろうか。もうあの気配と音は、消えていた。気づくと赤い光がもうすぐそこにあった。なんだか明るいのが安心して、ほっと心を撫で下ろす。走っている足を止め、はじめてすごく疲れていることに気がついた。乱れた呼吸を懸命に整え、ゆっくり歩き出す。何かがおかしいと思っていたら、さっきから風がまったく吹いていないことに気づいた。なのに、風鈴の音が聞こえる。カラン、と私を呼ぶように鳴る。私はまた風鈴の音に誘われ、赤い光へ近づいた。そこは、祭りの最中だった。提灯が赤い光を灯しながらゆらゆら揺れていた。笛や、人々の歌声が聞こえる。それに合わせてたくさんの人が踊っていた。みんな浴衣を着ていたが、仮面をつけていた。喜んでいる顔や悲しんでいる顔など、全員がつけていた。しばらく踊りを眺めていると、人々がつけている仮面は喜怒哀楽だということが分かった。浴衣の袖が提灯の光に照らされながら揺れている。美しいはずの所作が何かを隠す仮面のせいで、底知れぬ異様さを孕んでいた。どこかで、見たことがある。そんな気がした。踊る人々はみんな同じ浴衣を着ている。白基調の浴衣に赤い帯。だれかにその浴衣を、着せたことがある気がする。さっきから感じるこの違和感は、何なんだろう。しばらくこうして異様な踊りを見ていた。どこかで見たことがある仮面。ああ、思い出した。こけしだ。あの、首の折れたこけしの表情に、少し似ている気がする。でも、しっかりと見てはいないから分からない。何か分かるかもしれない。恐怖は拭いきれないけど、こけしの表情を確認しに行くことにした。真っ暗な鳥居に向かって歩き出す。そこで、一番手前の鳥居に視線が釘付けになった。
1966年 斎宮 凪
その鳥居にはそう掘られていた。そんなはずはない。だって、なんで、そんな。なんで、私の妹の名前が彫られているんだろう。妙に納得している自分がいた。だって、1966年は去年。妹が、この神社で死んだ年だから。