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第十二章 宣誓布告
「愛を知らない私には」第十二章です。
今回も前回に続いて蓮斗くん視点からお送りします。
説明文は入れますが、最後の方優斗くんに視点が変わりますのでご了承を。
ひとしきり泣いて冷静になった。
なぜだか、泣いた後なのに気まずい空気が流れていない。
それは、下……杏のおかげだとすぐに分かる。
杏はこちらを見て慰めたりすることなく、何もなかったのかと錯覚するほど集中して参考書に向き合っていた。
優しいを擬人化したような杏が本当に心配していない訳はないので、俺の気持ちを考え自分の気持ちを隠してそれを感じさせないように振る舞ってくれているのだろう。
「俺さ、自分に自信がないんだ。」
急に話し出した俺の方にゆっくりと顔を向ける杏。
その表情は柔らかくて、俺の心を安心させてくれる。
何も言わずに見つめる杏に、どれだけ優しいんだと苦笑いがこぼれる。
「優斗兄はさ、勉強ができていつも首席。礼儀正しくて優しくてみんなに信用される生徒会長。おまけに時期社長。すごいよな。」
「そうだね。」
優しい声色でそうとだけ言う杏。
深くまで干渉しないのにちゃんと反応はする。お手本のような聞き手の振る舞い。
本当に、なんでこんなに優しいんだろうか。
「悠斗兄は強豪のうちのサッカー部のエース。人懐っこい明るい性格で友達も多い。おまけに学年一桁代の秀才。もう、打ち所がねぇ完璧さなんだよ。」
苦笑いをして、本当は今にも泣き出しそうな心を悟らせないようにする。
演技は、俺の数少ない特技だから。
あとは、俺の話をしよう。
「俺さ、こんな、醜い弱虫野郎なんだよ。」
杏の顔が歪む。なんで、そんなことないよ、と顔が訴えている。
「学校ではさ、『幸川三兄弟』の一人としていられるように猫かぶって弟キャラ演じてんの。家では弱い自分を見せたくないってちっぽけなプライドで、俺様キャラ演じてさ。」
「自分を偽って、相手を騙して、理想を固めてさ。」
「こうやって弱音溢して、泣いて人を困らせて。」
ぐいーっと伸びをして、笑い話感を出す。
でも、杏の顔の歪みはもとに戻らない。
戻ってほしい、いつもの笑顔を見せてほしい。
そんなことを思っている時点でもう、答えはわかっていた。
「本当、バカだよな……」
今できる一番の作り笑顔を浮かべる。
上げた頬が震えて今にも崩れ落ちそう。
でも、さっき泣いたんだ。もう、泣きやしない。
細めた目で、杏を見る。
すると、俺を勢いよく抱き締めた杏。
……は?
……待って待って、どういう状況?
杏が俺に抱きついてる……?
俺のちっぽけな脳がフリーズし、心臓が悲鳴をあげる。
あ、杏……?
「蓮斗くんは、バカなんかじゃない……!!」
うわっ……びっくりした……
突然、叫んだ杏。
目をぎゅっと瞑って訴えている。
「こうやって、私に勉強教えてくれて、サッカーだってレギュラーなんでしょう?」
「いや……そうだけど……兄貴たちは……」
「悠斗さんたちは関係ないじゃん!!」
俺の言葉に被せて大声で言う杏。
それが、杏の本気さを表していた。
「兄弟だからって……比べて……今は蓮斗さんの話なんだから、関係ないじゃん!」
そう、続けられた。
比べない、か……考えたこともなかったな……
いつもいつも、俺の考えの斜め上をついてくる杏。
それは、孤児院で身に付くものじゃない。
きっと……杏はずっと、勉強をして、みんなに優しくしてきたのだろう。
「杏……ありがとう。」
俺を更正させてくれて、俺に新しい考え方をくれて、勉強を教えてくれて、そして……
恋を教えてくれて。
ずっと気づかないふりをしていたこの思い。
兄貴たちがどう思ってるかは知らないけど。
事実として、俺たち三兄弟は顔が整っていてそっくりだ。
この中でも秀でているところがない俺を選んでくれるとは到底思えなくて。
ずっと……怖くて認められなかった。
でも……もう認める。
大事なのは兄貴と比べてなんかじゃなく、自分自身だと気づかせてもらったから。
もう、怖がらない。
「よかった。私はなにもしてないけどね。」
そういってはにかむ貴方の心を俺が手に入れるから。
絶対、絶対。
もう、俺は俺の本気を出す。
---
数時間がたち、夕飯を食べ終わった頃。
俺は自分の部屋で一人、考え事をしていた。
自分が大事とはいえ、俺を選んでもらうには兄貴たちを越えなきゃいけない。
どうしたらいいだろうか……
……あ。
ふと、ひとつの考えが浮かんだ。
そうだ、三兄弟のなかでも、「弟」なのは俺だけだ。
よく考えたら杏がタメで喋っているのは俺だけ。
この与えられた関係を利用しない理由はない。
早速、スマホを持って杏とのトーク画面を開く。
ねえ、杏のこと杏姉ちゃんって呼んでいい?、っと……
しばらくして返信がきた。
【いいよ!ていうか呼んでくれるの!?】
すっかり、誤字がなくなり返信が早くなった杏に笑みがこぼれる。
……ちがう、返信しないと。
【うん。改めてよろしく、杏姉ちゃん】
【こちらこそ(⌒‐⌒)】
秒で返ってきた返信。本当に女子高生っぽくなったな。
顔文字なんか使って。
杏の返信に愛おしさを噛みしめた。
……そうだ。兄貴たちにも言っておこう。
一応……確認しておかないと。
そう思って三人のグループトークを開いた。
---
ピロン。
机で明日のプレゼンの資料を作成していたら俺、悠斗、蓮斗のグループトークの通知が届いた。
なんだろう、と思い、スマホを開く。
そこには、目を見開く内容が。
【俺、杏姉ちゃんのこと好きになったから】
【協力してくれよ。】
どちらも蓮斗が送ったもの。
は?杏が好き?協力してくれ?
そんなの……
【嫌だ。】
俺が今打とうとしたことをそのまま送った悠斗。
【俺だって杏が好きだ。】
そう続いた。
は?悠斗もかよ。
……兄弟の意志疎通とは残酷なものだな。
【僕も協力はできないよ。】
【僕だって杏が好きだ。遠慮はしない。】
競争心が丸出しで恥ずかしいが、今言わないといけない気がした。
【は?兄貴たち本気か?妹だぞ?】
自分だけが年下だということの見え透いたマウントをとってくる蓮斗。
なぜだか、ながすことができなかった俺と悠斗は言い返し、この不毛なやり取りは一時間以上続いた。
はい。お久しぶりです。伊吹奏楽です。
とても遅くなってしまったこと申し訳ないです……!
今回は大分長めになってしまいました……
読んでくれた貴方が大好きです!!
よければリクエスト、感想聞かせてください。
では、またお会いしましょう。