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シンデレラを幸せにするのが王子の役目だなんて、誰が決めた?
ただ舞踏会で一緒に踊っただけの王子様より、ずっと助けてくれていた魔法使いのほうがシンデレラにふさわしいのでは…?と思って書きました。
気軽にお読みください。
「…君は、美しいな」
お城の舞踏会で王子様に言われた言葉。嬉しくて仕方がない…はずだった。だって、王子様に選ばれたら私は家から逃げ出せるから。喜ばないといけない。それなのに、頭に浮かんでくるのは王子様ではなく、少しいたずらっぽい笑みを浮かべた「彼」の顔だった。
与えられた言葉に素直に喜べないまま、上の空でダンスを踊っていると十二時を告げる鐘の音がなった。私は慌ててその場を後にする。途中階段で躓きかけてガラスの靴を片方落としてしまったけど。
「待ってくれ!せめて、名前だけでも!!」
そんな焦った声が後ろから聞こえた。でも私は振り向かない。自分の余りにも惨めな名前を、王子様に伝えたくはなかった。
カボチャの馬車に飛び乗って、十二時の鐘が鳴り終えるまでにできるだけ遠くに移動する。私にかけられた魔法の期限は十二時までだ。鐘が一つ鳴る度に馬車もドレスもどんどん脆くなっていって、最終的には馬車の車輪がもげ私は道に放り出される。ただし、覚悟していた衝撃と痛みは一向にやってこなかった。
「おかえり。エラ」
「ラミル!」
誰かが私を抱きかかえて守ってくれた。私のことをエラと呼ぶのは、一人しか居ない。
協力者の魔法使い。「彼」ことラミルだ。
「上手くいっちゃったみたいだね。君の婚活」
「ええ!バッチリよ。貴方のおかげでね」
「…あっそ」
せっかく気持ちを込めてお礼をしたのに、帰って来たのはふてくされた返事だった。赤い瞳はどこか私を責めるように見つめてくる。
「ともかく、これで地獄みたいな家から出ていけるわ!」
「はいはい、よかったね。…ねえ、エラ」
「なに?」
「君は、実家から出ていくことができればそれでいいんだよね。なのに何でわざわざ王子様を狙ってたの?」
「それは勿論、お義母様やお義姉様たちに邪魔されないためよ。一般の人ならともかく、王子様からの求婚なら邪魔のしようがないでしょ」
「ふーん。なら、お義母さんたちに結婚を邪魔されない相手なら、誰でもいいんだ?」
「まあ、そういうことになるわねえ。ただ一番チャンスがあったのがお妃さま探しの舞踏会だっただけの話だし」
「なるほどねえ」
ラミルは意味深な笑みを浮かべる。顔はものすごく整っている彼だから、笑うと私もドキッとしてしまう。
「とっ、とにかく!!今日は色々とありがとうね、ラミル」
「お安い御用さ。偉大な魔法使いの僕にかかれば、ボロボロのワンピースも、中身はスカスカのカボチャも、小さなネズミも、立派なドレスや馬車や馬にできる」
「ええ!本当に最高よ!!」
私が褒め称えると、ラミルは少し照れ臭そうにまた笑った。
「…もう遅い時間だから、家まで送るよ」
「ありがとう。それじゃ、おろしてくれる?」
「今日は疲れただろ?このまま運ぶ」
「え!?」
じたばたと抵抗しても全くおろしてくれない。しょうがないのでそのまま体を預けた。
柔らかい月明かりがラミルの端正な横顔を照らしていた。王子様も確かに素敵だったけど、この人のほうが何十倍も格好いいと思うのは、私の幻覚だろうか。
「ねえ、ラミル。私がお妃さまになっても、またこうして会ってくれる?」
「…嫌だね」
「え、何でよ!」
「何でもだよ」
胸がずきりと痛んだ。地獄のようなあの家で、私が正気を保っていられたのは間違いなくラミルのおかげだ。彼に見捨てられてしまったら、私はもう生きていけないかもしれない。
「ねえ。そんな酷いこと言わないで」
「…酷いのは、君のほうだよ」
「え?」
「何でもない。ほら、着いたよ」
いつの間にか家の前に着いていた。ラミルは静かに私を腕からおろすと、瞬く間にその場から消えてしまった。きっと魔法だろう。
私は小さくため息をつくと目の前の大きな家に足を踏み入れた。こんなに立派な家で沢山の部屋があるのに、私に与えられたのはボロくてかび臭い屋根裏だけだ。
父が生きていたころは、もっといい部屋に住んでいた。でも父が亡くなると、義母が家を牛耳るようになる。私は使用人以下の扱いを受けて、毎日のようにこき使われた。つけられた名前は「灰かぶり」という意味のシンデレラ。
心が壊れる寸前だった私を助けてくれたのがラミルだった。彼は最初、義母からご飯を抜かれ、お腹が減って倒れそうだった私にパンを分けてくれた。固くてパサパサした安いパンだったけど、多分あの味は一生忘れない。
彼はその時はただの気まぐれで私を助けてくれたらしい。でも一緒に居るうちに思いの外仲良くなり、本気で私のことを心配して手助けしてくれるようになった。今日の舞踏会に参加できたのも彼のおかげだ。
「でも…ラミルに会えなくなるのなら…それも意味ないかも」
これまでは家から出ていければそれで良かった。そのチャンスが目前に迫ってきているのに今は胸が張り裂けそうだ。
感じたことのない切なさに包まれながら、私は屋根裏部屋で眠りについた。
ーーー
翌朝、私はラミルの焦った声で目を覚ました。
「…おきて。起きてってば!エラ!!!」
「…ん…?ラミル…?なんで貴方がここにいるの?」
「これのせいだよ!!」
ラミルが見せてきたのは新聞だった。その表紙にはでかでかと「王子のお妃はガラスの靴の娘」と書かれている。寝起きで重い瞼をこすりながら、目を凝らして小さな文字を読んだ。
「えーっと…ガラスの靴に足がぴったりはまった娘が…王子様のお妃になる…」
「ああそうだよ!」
「…あー、そういえば。落としたわ、ガラスの靴」
「なんてことを!あれは僕が、君のために作った、君にしか履けない特製の靴なのに…」
「えーっと…ごめんね?」
ものすごく落ち込んだ様子のラミルに、私は謝った。
「全くだよ!靴だけは十二時を過ぎても無くならないようにしたから大切にしてねっていっただろ!?これで君は王子様のお妃さまになるしかない!!僕の計画が台無しだ!!」
「計画…?何それ」
「君は知らなくていいことだよ…」
段々と罪悪感がわいてきて、私はつい口走ってしまった。
「ごめん、ごめんって!なんでもするから、許して。ラミル」
「…なんでも?本当に、なんでも?」
「ええ。なんでも」
「ふーん。二言はないよ」
「勿論」
何とか機嫌を直したラミルを見て私はホッとした。彼が落ち込んでいると調子が狂うのだ。
「それなら、僕は行かないとね。準備があるから」
「準備って何?」
「それはまだ秘密だよ」
またしてもラミルは魔法で消えてしまった。
「一体、何だったの…?」
その疑問の答えが分かるのは、それから数日後のことだった。
ーーー
いつものように家の掃除をしていると玄関のほうが急に騒がしくなった。主に義母と義姉二人の甲高い話声で。
「私、舞踏会で貴方にお会いしましたの!」
「私なんて、一緒にダンスも踊りましたわ!」
「いや、私が用があるのは君たちではなく…」
そこには困った様子の王子様がいた。義姉たちに詰め寄られているらしい。
「あの…お義母さま?何があったのですか?」
「シンデレラ…?あなたには関係のないことよ。あっちに行っていなさい」
私が義母と話していると、王子様に声をかけられた。
「ちょっと待て!」
「…!」
「君は、舞踏会で会ったあの美しい人だな?」
「待ってくださいな!!この子は、シンデレラは、舞踏会にはいなかったはずで…」
「黙れ。私は今、この娘に尋ねているのだ」
義姉の一人が抗議するが、すぐに黙らされる。
ここではいと答えれば、きっと私はお妃になる。相手は次期国王様だ。きっと幸せになれるに決まってる。…それなのに。何故、今ここでラミルのことを思い出してしまうんだろう。
「私、は…」
迷いながらも、自分の答えを口にしようとしたとき。
「ちょおーっと待ったッ!!」
聞きなれた声が上のほうから降って来た。見上げると、いたずらっぽい笑みを浮かべたラミルが宙に浮いている。
「ラッ、ラミル!?」
「誰だお前は!!」
ラミルは地面にふわりと降り立つと、私に跪いた。まるで、プロポーズみたいに。
「こんにちはお姫様。突然ですが、貴方を攫わせていただきます」
「えっ!?」
そのまま抱き上げられて、ラミルと一緒に宙に浮く。
「容姿でしか人を判断できないお前らに、エラは渡せないよ。だって、僕のほうがこの子の見た目だけじゃない良さを沢山知っているんだからね」
勝ち誇ったように宣言するとラミルは私に優しく微笑んだ。
「行こうか。お姫様」
「待ちなさい、シンデレラ!」
「待て!魔法使い!!」
義母の怒鳴る声と王子様の叫ぶ声が聞こえる。その全てに一切耳を傾けず、ラミルは魔法で姿を消した。私だけを連れて。
「ラミル…?これはどういうこと?」
空の上で、私は戸惑いながら尋ねた。
「ふふ。言ったでしょ、エラ。何でもしてくれるって」
「それは…そうだけど」
「じゃあ、僕のお嫁さんになって。最低な家族から遠く離れた所で、一緒に暮らそうよ」
「え」
頬に熱が集まる。脳内でお嫁さん、という言葉が繰り返し響く。
「僕は確かに偉大な魔法使いだけど、この力はそうやすやすと使わないよ。好きな人が相手でもない限りね」
「…っ!」
「大好きだよ。エラ」
「私…」
王子様と結婚したら、きっと幸せになれる。だけど、私が本当に好きな人は。
「私も、貴方が好き。気づくのが遅れてごめんなさい」
「しょうがないなあ。許してあげるよ」
ようやく気付けた。自分の本当の気持ちに。ずっと家族から逃げる事しか頭になくて、好きでもない王子様と結婚しようとしていた。でも、本当に私を助けてくれていたのは、いつだってラミルだった。
「ねえ。エラ。どこに行きたい?僕がどこにでも連れて行ってあげる」
「私、ずっと海が見たかったの!暖かい南の国へ行きたいわ」
「それ、最高だね」
大好きな人の腕の中で、私は笑った。きっと、貴方とならどこへ行ったって大丈夫。幸せになれる。そう信じて。
ーーー
「お前、哀れだね。ボロボロじゃないか。痩せ細っているし、そのままでは死んでしまうよ?」
その日、僕は一人の女の子に声をかけた。その子はみすぼらしくて、ガリガリで、放っておいたら死んでしまいそうだったから。
「かわいそうだから、僕のパンを分けてあげるよ。対したものでは無いけれど」
そういって投げたのは、一片のパンだった。パン屋の売れ残りの、お世辞にも美味しいとは言えないような。
それを女の子は一心不乱に口に運ぶ。固いから嚙むのも疲れるだろうに、口を休めない。
「…そんなにお腹が空いていたの?」
余りにも必死なので少し心配になった。尋ねると女の子はようやく手を止めて質問に答えてくれた。
「…うん。もう、二日は食べてなかったから」
「二日って!ただでさえ小さな体なのに」
「お義母さまは、私が嫌いだから。お父様も、本当のお母様も死んじゃったから、私はいらない子なの」
「…」
その小さな体に、かつての自分の姿が重なった。忌み子だと、化け物だと親から疎まれ捨てられた自分の姿が。
「気持ちはわかるよ。僕もいらない子だったから」
「え…?」
「僕の髪と眼は、不気味な色だろ?化け物って言われたんだ。実際その通りなんだけど」
でなかったら、魔法なんて使えるはずがない。僕は魔法使いになりたいなんて望んだことは一度もなかったけれど。
「酷い。すごく綺麗な色なのに」
綺麗。そんなことを言われたのは初めてだった。誰もが僕の色を見て恐れるから。
「…そうかな」
「うん。黒い髪は夜空みたいだし、赤い目はルビーみたいだよ。すごく綺麗だよ」
「ありがと」
女の子の笑顔を見て、言葉を聞いて、心の傷が僅かに癒えるのを感じた。
翌日も、僕は女の子に会いに行った。
「おはよう。…今日も相変わらず、お前はボロボロだねえ」
「えへへ」
「褒めてないよ。ほら、またパン持ってきたから食べなよ」
「わあ!ありがとう」
その翌日も。
「…お前、今日はなんでそんな灰だらけなの?」
「暖炉の掃除をさせられてたから。灰が似合うから、貴方はこれからシンデレラって名乗りなさいって言われた」
「酷い名前だなあ。…本当の名前は何なの?」
「エラ」
「そっちのほうがずっといいよ。僕はこれからエラって呼ぶよ」
その翌日も、そのまた翌日も。僕は彼女と…エラと会った。
そうして時間を過ごす度に、僕の中でエラの存在が大きくなっていった。
「私、王子様のお妃さまになろうと思うの」
「…え」
ある日、エラは突然そう言った。
「一年後、お妃さま探しの舞踏会があるでしょ。それに参加したいの」
頭が真っ白になった。胸が痛くて、何故か涙が出そうだった。エラが誰かの妻になる。考えただけでどうにかなりそうなくらいに腹立たしい。
僕のほうが、君を知ってる。僕のほうが、君を幸せにできる。僕のほうが…君を好きだ。
胸の内から溢れ出る思いをその時初めて理解した。僕はとっくにエラのことが好きになっていた。
「ふーん。じゃあ、手伝ってあげるよ」
思ってもないことを口にした。王子を前にしてエラは気づくだろう。自分が心から望む人が誰なのか。そして僕がさっそうと現れて、プロポーズする。完璧だ。
「…待っててね。エラ」
自分以外には聞こえないくらいの声量で、そっと呟いた。輝く未来を手に入れるために、僕は動き出した。
…この時の僕は知らない。着飾ったエラが余りにも美しくて王子様に惚れられたり、彼女のために作ったガラスの靴がお妃さま探しに使われたりして、当初の計画とはうまくいかないことが多すぎるということを。それでも苦労の末ようやく手に入れたエラの笑顔が、とてつもなく可愛かったことを。
その後二人は南の島へ。いつまでも幸せに暮らすのでした。めでたしめでたし。
ーーー
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