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#4 偽り
「…オルタナティヴにも、夜は来るんやな」
四葉がぼんやりと言う。あたし・田菜は相槌すらうてない。
コンコン、と軽やかなノックがする。ガチャ、とドアが開く。
「大丈夫です?椿様」
「いえ、別に…慣れないことをしたときは、ちょっと疲れますし」
そう椿が作り笑顔をした。それをミゼラはすぐ信じ、「そうですね」と微笑む。
「…ミゼラ?」
「どうしました?」
「ちょっと聞きたいことがあるの」
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ミゼラの部屋は広く、あたしの家の2階ぐらいある。
「なんで、ここではアビリティ・パーソンが神相応の存在なの?」
「何故?…いいですわ、少々教えましょう。《《どうせ後で記憶を消せば問題ない》》」
「…は?」
どうせ後で記憶を消せば?
ミゼラは、記憶を操れるの?
「この国では、アビリティが国のエネルギーになる。わたくしのエネルギーになる。アビリティは生きる糧。アビリティ・パーソンは、わたくしたちの生きるためにいるのよ」
「なんで、国のエネルギーに…」
「あら、それは極秘の秘密よ。さ、消えなさい」
「ふう、こんな神様もいるのよね。ライト、片付けておいて」
「はい」
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「田菜ねえは?」
田菜ねえがどこかへ行ってから、もうどれぐらい経ったんだろう。うち・四葉はそう思う。
「田菜様、のことでしょうか」
ライトがいた。
「あの御方は、知りすぎたんです」
そう呟く。
「知りすぎた?どういうことなんやっ」
「ミゼラ様の能力は、『強制書換』。強制的に、物語を書き換えるもの。田菜さんは、ミゼラ様の能力によって、今、いなかったことにされています。…いえ、いなかったことになっていないかもしれませんが」
「どういうことなのじゃ」
「ミゼラ様は、貴重なアビリティ・パーソンだからといい、別のところに飛ばしている可能性もなくはありません。…四葉様のアビリティは、幸運だと言いましたよね」
ライトがうちの方を振り向く。うちがやるしかない、と言いたげだった。
「幸運を選ぶか、姉を選ぶか、です」