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公開中

風を飛び越して

夏休みが始まってすぐのことだった。 あの時、久しぶりに両親が帰ってきた。 …手元に、見慣れない赤ん坊を添えて。 「ゲンシ。元気してたかい。」 お父さんの気力のない声。 「うん。まぁ。」 僕は渋々ながらも答えた。 「そうそう、これ、お前の弟だ。」 お父さんはそういうと、お母さんは赤ん坊を僕の近くにやってきた。 黒い大きな目玉が、不思議そうにこちらを見ている。 「挨拶ついでに寄ってきただけだ。それじゃあ。」 そういうと、お父さんとお母さんは出て行こうとした。 「…まってよ。それだけ?」 僕がそういうと、 「それだけってなんだ?せっかく会いにきたんじゃないか。それとも、弟の面倒を見てくれるのか?お前じゃ無理だろ。」 「いや、えと…うん、頑張ってきてね。」 僕がそういうと、お父さんとお母さんは出ていってしまった。 新しい家族を添えて。 だけど、お父さんは振り返ってこう言った。 「これもお前のためなんだから。」 それっきり、何かを言うことはなかった。 がちゃん。 閉められた鉄の扉は、音を立てなくなった。 玄関にある、2足ずつある二つだけの靴。 手が届かなくて埃を少しかぶった棚。 天井もやや黒くなっている。 財布の中には2万円。これが唯一の愛情だ。 …僕は、本当に子供なのだろうか。 だけど考えることも嫌になって、もう寝ることにした。 昔のことを思い出した。 風呂に入らないと駄々をこねた時、お母さんは入れってうるさかったっけ。 今はもう…ぼんやりになってしまったけど…。 時計はまだ5時。 僕は今、布団の中にいる。
綺麗な星空。 あそこじゃ絶対に見ることはなかった。 生まれて初めて、夜を綺麗と思えた気がした。 だけど、僕は思い出した。 どこにも行くあてがない。 なんだかおかしくって、いきなり笑い出した。 今日は、初めての野宿だ。 川が流れる河川敷、そのかかった橋の下、僕は眠った。