友達

「せんせ〜先生って友達いないんでしょ？」 「煩いな。いるわ」 「え〜？じゃあ今連絡してみてよ！」 「…それはできないが」 「やっぱりいないんじゃん！」 冬の夕方の総合病院。といっても田舎のこの街の総合病院だ。都会のものに比べると小さいだろう。俺はその病院に入院していた。どうにも、難病で余命があと約数週間。最初の頃はまだ生きたい、死にたくない、と思っていたが、もうどうしようもないんだから今を楽しむことに決めた。まあ、俺の主治医、月影先生と話すくらいしかほぼやることがないんだが。月影先生はこの総合病院に数年前から務めている。総合病院は大きな病気や怪我のときにしか利用されないため、入院患者は少ない。現に担当する患者は一人までで足りている。医者が何故か多いのもあるが。 「俺が先生の友達になってあげるよ」 「なんで上から目線なんだよ。まあいいけどな」 「じゃあ友達記念にどっか出かけよ！」 最近は容態が安定していることもあり、おっけーが出た。出かける場所は勿論、 「冬祭り〜！先生、あそこに雪合戦場ある！後で行こう〜！」 「元気だな。んじゃ、どこ行く？」 「唐揚げと肉まん食べる！」 はいはい、と屋台で食べ物を買ってくれる。実は前から冬祭りに行きたかった。それも、病気が発覚する前から。だが、弟が病弱体質だったため行ったことはなかった。今では俺のほうが病気で余命宣告されているのにな。 「うっま！めっちゃ美味しい！先生も食べた？」 「美味しいな」 買ってもらった唐揚げと肉まんは今まで食べた中で一番美味しかった。その後も焼き芋やたこ焼きも食べた。一通り食べ終わった後はヨーヨー釣りや射的、雪合戦を楽しんだ。先生は意外と射的がうまい。医者だから器用なんだろうか。 「あ〜楽しかった！」 「それはなにより」 次の日も次の日も一緒に出かけて遊んだ。これほど患者と一緒に遊んだ医者はいないんじゃないかというくらい遊んだ。そして、ついに迎えた俺の最終日。朝から呼吸がしづらくて、今は酸素マスクを付けている。段々、段々眠くなるのを感じる。 「黎、最近、楽しかったか？」 この月影先生の質問で俺はやっと分かった。 「楽しかった。…翠先生のおかげ」 先生が少し笑った気がした。先生は友達がいないんじゃない。担当した患者が友達になって、そしてみんな俺と同じように最期を迎えたんだ。