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秘密のゴミ山~美容オタクと家出少年~ 後編
如月 麗(きさらぎ うらら)
→イマドキ女子グループの一員。ノリが軽い。
私は今、自分で作ったお弁当とコンビニで買った数個セットになっているプリンを持ってゴミ山に向かっている。
あ、捨てるんじゃないよ?
あいつに持ってくんだよ!
「お、本当に持ってきてくれたん?」
「当たり前でしょ…ギャルは約束守るよ!」
私は笑顔でそいつにビニール袋を渡す。
「ははっ…これ作ってきてくれたの?」
そういってそいつが取り出したのはお弁当箱。
冷食(冷凍食品)に頼らずちゃんと作ったんだよ。
「んんっ!おいしい!!この唐揚げサクサクだけど肉汁がじゅぅわっ!」
すごいおいしそうに食べるな…作ったかいがあるってやつよねー。
…そういえば、こいつの名前聞いてないんだけど、やば。
「ねぇ…あんた名前何なん?なんか知らない人にお弁当作ってる状態なんだけど」
「聞かないのも悪いけど…僕の名前は如兎(ぎんと)」
「苗字は?」
「…捨てたよ、あんなの」
さっきまでお弁当を頬張ってカワイイ笑顔だったのに…急に鋭い目つきになった。
「ちょっと何怒ってんの?親は…」
「親?今はいないよ。」
「どういうこと…」
「話さないとダメかな、君に」
「私食料恵んでるんだけど?知る権利はあるはず」
そう言うと会話は途切れた。
やっぱ怒ったか…。
と、思ったら溜息をついて話し始めた。
---
俺の本当の名前は月島 如兎(つきしま ぎんと)。
月と兎が揃ってるの珍しいよね。
家は神社なんだ。
全然自慢じゃないけど。
俺…家出したんだ。
親との関係で。
俺の親は物心ついたときから一人だった。
父子家庭なんだよね。
俺は神社の仕事でたまった父親のストレスを軽減する存在になってた。
暴力や、暴言いろいろあった。
でも家出の原因はそれじゃない。
ある日、神社の掃除をしてたとき。
神社の前に背が高くて綺麗な女の人が立ってたんだ。
俺は気になって「何かご用ですか?」って訊いてみた。
そしたらさ…「悠宇(ゆう)さんはいる?」って言った。
ちなみに悠宇っていうのは父親の名前。
どうして知ってるんだろう…そう思った。
その後俺は焦って「呼んできましょうか?」って言った。
え?
なんで焦ってたかって?
なんか、女の人がいなくなっちゃう気がして。
もちろん初めて会った人なんだけど。
父親がその辺を歩いてないか見回して目を離した隙に女の人はいなくなってて。
きっと…俺の母親だったんだ、あの人。
俺の鼻ってさ、特徴的じゃん?
横から見ると丸くて高くてさ。
似てたんだよね。
女の人はマスクをしてたけどマスクが合ってなくて。
それで、俺は家出したんだ――。
---
「え?」
話が急に飛んだような…。
「その女の人がきっかけってこと?」
「うん、前から自分の母親を見てみたいと思ってたから。」
そりゃそうだよね…。
苦労してんだ。
「で、家出したのはいいんだけどさー。行く場所なくて(笑)」
考えてからしなよっ!!
「で、ゴミ山に?」
「そ」
「…あ!私もう習い事ぉー!じゃっ!」
「じゃーね」
私たちはなんの引っかかりもなく別れた。
---
次の週も…また次の週も私はお弁当やお菓子を持って如兎のもとへ行った。
もちろんコスメもくれた(100均で買ったらしい…)。
--- 季節は流れあっという間に冬になった ---
「如兎~?寒くない、それ」
如兎の服は私が家に持って帰って洗って…というのを繰り返している。
如兎と初めて会ったのは夏だった。
だからその時は半袖でどうもなかったんだけど…。
「寒いけどショベルカーの中はちょうどいいよ?」
「ショベルカーだっていつ捨てられるか分かんないよ。いい加減新しい家探そうよ。」
…無理か。
家出して戻っても暴力は…。
そうだ…私が作ればいいんだ、居場所を。
「あのさ、私…高校生になったら一人暮らししよっかなって思うんだけど。そのとき、一緒に住まない?」
そう言うと如兎はとても驚いた顔で私を見た。
「…いいの?」
可愛い。
「もちろん…私頑張るからさ、難関校受かってマンションで都会暮らししたい!」
「じゃあ俺勉強教える」
「え~出来んの?」
「俺3年に一人の天才だから」
「いや、頻度低」
私たちはそう約束した。
それから私はたくさん勉強した。
勉強は苦手だし嫌いだけど如兎の可愛い笑顔を頭に浮かべるとそれも苦じゃなくなった。
--- 2年後 ---
「如兎ーっ!受かっちゃった!私立ミンティア学園高等部!」
「え…マジ!?」
「これで…約束守れたってことだ!」
「ギャルも約束守るんだな」
「守るよー!!」
「で、マンションは?」
「おけ!」
---
それは、突然だった。
「麗~!誰か来たー」
そもそも片づける荷物がない如兎はのんびりしている。
「はいはーい」
私が段ボールに入った荷物を出していた時。
新しい家…マンションのインターホンが鳴った。
前の家とは違う音にビビりつつ、インターホンの画面を見た。
カメラに映っているのは一階の入り口。
「えっ…」
カメラには綺麗な女性が映り込んでいた。
大きめのサングラスをかけていて鮮やかすぎるほどの赤いリップ。
「月島玲菜(つきしまれいな)と申します。如兎、そこにいるんでしょ。開けてちょうだい。話があるの」
女性は、サングラスを取ってそう言った。
月島…!?
「この人…前話した人だ…」
いつの間にか隣にいた如兎がとても驚いている。
やっぱり…如兎のお母さん!?
私は混乱して鍵を開けてしまった。
一階の入り口を通る女性が見える。
開けちゃった…。
「如兎、出た方がいいよ」
「分かってる。ちゃんと話してくる」
私は急いで玄関の鍵を開けた。
ドアスコープを除くともう女性が立っていた。
私はドアを迷うことなく開けた。
「い、いらっしゃいませ…どうぞ」
私はビビりながらスリッパを出す。
「ありがとう。あなたが麗さんね。如兎はいるかしら」
なんで私の名前…。
如兎が部屋の奥からこわばった顔で出てきた。
「母さん?」
私は如兎のお母さん――玲菜さんをリビングへ案内して、お茶を入れて、ドアを閉めて話をこっそり聞くことにした。
「久しぶりね。如兎」
「…ん」
「大きくなったわね。今年で16歳か」
「…なんで…なんだよ」
「え?」
「なんで来たんだよ!ここに」
静かだった如兎が急に叫んだ。
怒ってる?私は息をひそめて話を聞く。
「知らないの?あなたの持ち物にカメラとGPSがついているのよ」
「はぁ?」
GPS…だから如兎の場所が分かるんだね。
「違う!なんのために!?」
「…連れ戻すためよ」
連れ戻す?
「あなたが3歳のときに私は悠宇さん(如兎の父)と喧嘩して、家を追い出されたの」
え…喧嘩。
「喧嘩の原因は…ここで話すことでもない、くだらない些細なことだったわ。追い出された私は実家で暮らし始めた」
「……」
相変わらず如兎はぶすっとした顔で話を聞いている。
「そして、企業を立ち上げて社長になった。で、今のような金持ちになった」
へぇ…確かに高そうなバッグやブランドの服を着てる。
「だから、私一人であなたを養うことが出来るようになった今、連れ戻すtsめに――」
「…出てけ。」
「はぁ?こんなところより豪華で良い暮らしが…」
「約束したんだよ麗と、居場所を作ろうって」
「…え?」
「俺みたいに家出したやつの居場所を作って助けようって」
それ…昨日話し合ったっけ。
将来大人になったらそんな仕事をここでしようって。
「居場所」を作る。
私…泣きそうだよ。
「何それ。まぁ、やってみればいいじゃない。失敗するわよ」
「失敗なんかしないよ。ほら、早く出てけ」
「チッ」
玲菜さんは舌打ちしてマンションを出て行った。
「…ふぅ」
私が何も聞いていないふりをして部屋に入ると、如兎はとても晴れやかで、いつも以上に可愛い顔をしていた。
家が一戸建ての人は分かりにくいと思いますが…(私はどうでしょう?)。
ちょーっと話がトントン拍子すぎるかなー?ファンレター&感想待ってます!これにてシリーズ完結(`・ω・´)ゞ
っていうかちょっと重い話だったかも…。