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【こどおにっ!】或る夜の話
〜竜翔 side〜
今日は綺麗な月が空を飾っている。
星が夜の暗闇に温かい光を零していて美しい。
今日は動物たちも寝静まっていて、とても静かだった。
夜に響くのは、ボクの笛の音色だけ。
竜翔「〜〜〜♪〜〜〜〜♪」
ひゅ〜〜♪
柔らかい風に乗って、笛の音が広がっていく。
ただその音が、この森の夜を暖かく包み込んでいた。
ああ、この森は今日も平和で幸せだなぁ。
……でも。
今日はなぜか、風がいつもより、寂しく聞こえた。
__トンッ…__
そのとき、ボクが座っている屋敷の屋根が、僅かに揺れた。
そしてその音は一定のリズムを奏でながらこちらに近づいてきた。
しかしその音は、遅く、重く、悲しく響いていた。
__トン…__
__トン…__
__トン…__
ボクは、なんとなく音の正体に気づく。
竜翔「………………」
そして、その音の主はボクの横に静かに立った。
ボクは笛を止めて、そっちを静かに振り返る。
??「……………竜翔…すまない……」
竜翔「……どうしたの?火影。」
火影「…………」
---
ボクと火影は、屋根の上で森を眺めていた。
ボクはそっと火影の方を見た。
火影の表情は、いつもと比べて暗く見えた。
それは夜の闇のせいなのか、彼の深く入り乱れる感情のせいなのか……
竜翔「……《《あの夢》》?」
火影「…………ああ。」
その声にいつもの覇気や強さはなかった。
目は虚で、どこか不安と苦悩が混じっていた。
火影「……竜翔。」
竜翔「ん?」
火影「…私は…本当にこのままでいいのだろうか……?」
竜翔「……どういうこと?」
冷たい風が流れる。
火影の左手に僅かに力が入ったのを、ボクは見ていた。
火影「私は、灯和にも、沙雪にも、猫葉にも、天舞にも、嘘をついている。」
「友達を騙して、家族を騙して、挙げ句の果てには自分を騙して。」
「自分の意思もまともに言えずに強がって大人ぶる。」
__「…………ただ…素直になるのが……怖いんだ………」__
竜翔「………」
そう話す声は、少し震えていた。
火影「私はどうしようもなく怖がりな嘘つきだ。」
「……竜翔……私は…本当でこれでいいのか…?」
そう言ってこちらを覗いた眼差しは、僅かに不安で揺らいでいた。
ああ、火影はいつもこうだ。
強くて、弱くて、優しくて、脆い。
竜翔「……………火影は、強いよ。」
火影「……?」
竜翔「…火影は本当によくやってると思う。ボクもいつも助けてもらってる。」
「………でも、ちょっと溜め込みすぎだよ。」
「自分の不安も、悩みも、全部自分だけで解決しようとしてる。」
火影「……………」
ボクと火影は、お互いの目を見つめた。
竜翔「…天舞にも、まだあの事言えてないでしょ…?」
火影「!……言えるわけないだろう……」
竜翔「…《《呪い》》のことも、《《昔のこと》》も、まだ話す気はないの?」
火影「…………」
火影は力無く頷いた。
普段からは想像できないほど弱っている火影を見ると、胸が痛んだ。
でもボクは、返事をすることしかできなかった。
竜翔「……そっか。」
ボクらはまた、正面の森に目を映す。
そこには、ずっと変わらない自然があった。
長い時間が過ぎて、ボクはゆっくりと口を開く。
何もしてあげられないボクだけど。
それでも言いたいことがあった。
竜翔「………ねぇ火影…?」
火影「…………?」
竜翔「確かに火影は強い。でも、やっぱり限界もあるんだ。」
「火影は自分を追い込む性格だから、ずっと無理をしてる。」
「…でも、そんな時のための『家族』だと、ボクは思うんだ。」
火影「!!」
竜翔「……もっとボクらのことも頼ってね…」
火影「…………そうか…わかった…」
__「……ありがとうな。」__
竜翔「家族でしょ?」
火影「……そうだな。」
その時、ようやく火影が小さく笑った。
僅かな寂しさとたくさんの優しさ含んだその笑顔に、ボクもつられて笑う。
竜翔(………火影も、生きづらいんだよね……)
その時、ボクの目に強い光が差し込んだ。
あまりの眩しさに、思わず目をつぶってしまう。
気づけば、緑と空の境目から太陽が顔を覗かせ始めていた。
じきに動物たちも目を覚ますだろう。
竜翔「もうこんな時間かぁ…」
火影「……もう屋敷に帰るか?」
竜翔「そうだね。朝ごはんも作らないといけないし!」
火影「そうだな。」
ボクらはみんなを起こさないように、静かに立ち上がった。
そして、また新しく一日を始めた。
---
完