砂上の楼閣

寒さを纏った風が街灯の中で揺れている。 青白くなった手に持った携帯には、母からの怒涛の連絡が入っていた。もう直に、受験が近く、学業もピークを迎えて周りの受験生は慌ただしい。 それは学校も、塾も、家さえも同じだった。とにかく、居場所がなかった。何処へ行ってもプレッシャーは私を追い抜かして先回りし、現実の牙で噛みついてくるのだ。 それに逃げようと一時的な逃避行の妄想に浸っても誰もが強く腕を掴んで妄想に浸った脳を救いあげる。誰も頼んで救ってくれなどと頼んでもいないのに。 携帯に残した、たった一つの私のメッセージは『塾を休みたい』だけだった。それが今の時期に取ってはとんでもない怠慢であることは痛いほど分かっている。それが母の逆鱗に触れるのは目に見えて分かっていた。 震える歯を押し殺すように、街灯に照らされる白いカーペットを踏みつけて人を変えたように頭の中が地面に落ち染めた雪と同様に白くなっていく。 凍えるような闇の中で停まっている車の窓に映る頬が淡く紅潮した白い顔。怠け者の顔。逃避する妄想に浸る顔。この先の生き様を決められない顔。 私の全てを物語る、恐ろしくも寂しいものが窓に反射していた。 この先、人としてどう生きるかは私が一人で決めねばならないのだ。それが不安に満ちて、何千もの棘を有した道を突き進むことは誰もが理解している。 この窓に映る顔は、私の手で変えなければならない。