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本編20
「……ふう」
階段上がったらすぐお兄ちゃんの部屋…すぐお兄ちゃんの部屋……
や、やっぱり怖いし緊張するよ〜…
「う〜〜…」
「…咲希?」
「ひゃ!?お、お兄ちゃん…」
「どうかしたか?階段にずっと座り込んで…」
「あ、えっと…」
がんばれアタシ…!今がチャンス……!!
1つ呼吸をして、届くか分からないくらい小さく声を出す。
「…お兄ちゃん、今ちょっといいかな」
「…?ああ、かまわん、なんだ?」
「その…学校で……何かあったよね…?」
「………………」
「…なんでそう思ったんだ?」
「…っだってお兄ちゃん、最近家でもずっと暗い顔してるし、食欲もなさそうだったから…」
「友達の話も全くしないし、出かけてるとこも見てないし…」
「それに…とーやくんから聞いたの」
「冬弥から…」
「いじめられてる、って…ショーのお仕事もやめちゃったって…」
「それを…お兄ちゃんに聞いて、確認したくて…」
「…そうか」
「咲希にはバレたくなかったんだが…仕方ないな」
「……やっぱり、そうだったんだ…」
「心配かけてすまんな、でも、」
「咲希は何もしなくていい、何も気にしなくていいぞ」
「は……え…?」
「オレが1人でなんとかする」
「1人で終わりにする」
「だから大丈夫だ、咲希」
なにそれ…
そんなの…自分で首を絞めてるようなもんだよ…
苦しいんじゃないの?辛いんじゃないの?
アタシには何もできないって思ってるの?
「気にしないことなんてできないよ…」
「だってお兄ちゃん、いつもアタシのために頑張ってくれてたんだもん…!」
「今度はアタシがお兄ちゃんを助ける番なの!!」
「もっと頼ってよ!!!」
お兄ちゃんにこんな大きな声で怒鳴ったのは、初めてだった。
気づいたらアタシの顔はぐちゃぐちゃに濡れてて、呼吸するのも苦しくなった。
なんで泣いてるんだろう…泣きたいのはお兄ちゃんの方なのに…
「…分からない」
「…っえ?」
「オレも…どうしたらいいのか分からないんだ」
「頼ったところで、オレがしてほしいことは何もない」
「今は少し…休ませてくれないか」
「あっ…」
……………
まだお兄ちゃんの気持ち全然分かってないのに…
アタシ、助けたいとか、頼ってほしいとか…
「アタシがお兄ちゃんをこれ以上苦しめてどうするの…っ」
---
重い足取りで学校へ向かう
咲希さんは…司先輩と話ができただろうか
「…はあ」
「冬弥」
「…!彰人…おはよう」
「なあ、司センパイのこと…咲希さんに言ったのか?」
「…昨日、全部話した」
「そうか…信じてはくれたのか?」
「もちろんだ」
「なら…よかった」
「なあ、彰人」
「……神代先輩と草薙…鳳は、本当に司先輩を信じてないんだな…?」
「ああ…そうだな」
「あいつらがセンパイのことをどう思ってんのかも、何があったのかも、俺は詳しく知らねぇ」
俺と彰人は、神代先輩達の気持ちを分かっていない
正直、分かりたくない。
でも…先輩がこれ以上壊れてしまう前に、誤解を解きたい
「話を聞いた方がいいのだろうか…」
「聞く…神代センパイにか?」
「…………」
「俺は別にとめねーけど、それが原因でいじめが悪化したらどうすんだよ」
「それはっ…」
この状況で、敵が何をするかわからない
万が一、俺のせいで先輩に危険が生じたら…
「…怖い」
そんなの嫌だ
先輩が傷つく姿をみたくない…
『苦しんでる』なんて聞きたくない
「…いちかばちかだな」
「え?」
「神代センパイが、完全に司センパイのことを信じていないわけじゃないかもしれない」
「?…それって、どういう…」
「そうだな…たとえば、周りの空気に合わせてるとか」
「…!庇ったら…自分もターゲットにされかねない…」
「…そう思ってるということか?」
「わかんねぇ、たとえだからな」
可能性を考える
こうなのかもしれない、ああなのかもしれない
そうやって考えてるうちに、学校についた
「今日の昼休み…神代先輩と話をしようと思う」
「…そうか」
「俺も一緒に行く」
「こんなこと言いたくないけど…少し危ないだろ、2対1は」
「確かにそうだな…大丈夫か?」
「ああ、できることならなんでもする」
「ありがとう、彰人」
---
「…神代先輩、草薙、今いいですか?」
「おや、青柳君と東雲君じゃないか」
「話すの久しぶり…だね、どうしたの?」
「司センパイを最近見てないんです」
『任せろ』と目線で伝えてくる彰人。
真剣に、冷静に先輩に話しかけている
神代先輩と草薙は、一瞬びっくりしたような表情を見せた。
「…司くんのこと?」
「はい。2人なら何か知っていたり__」
「彼は人を切ったんだ」
「………」
「どこだったかな…ああそうだ、空き教室で女の人を切っていたんだよ」
「…そうなんですか」
……知らない
そんな話は聞いていない
彰人は知っていたんだろうか…いや、知っていたら俺に教えてくれるはずだ
先輩が人を切っただと?
神代先輩はそれを信じたのか?
「見たんですか?」
「…私達は見てない」
「司に切られたって言ってる女子から聞いたの」
「傷も見せてもらった。こんなの確定でしょ」
「………………」
あなた達は、司先輩の何を見ていたんだ
あの人はそんなことするような人じゃない
どうして信じてあげられていないんだ
ずっと隣にいた仲間より、まともに話したこともないような奴を信じたのか?
「話はそれだけかい?」
「わ、私達もう行くから…」
「…分かりました…教えていただきありがとうございます」
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「………………」
「カッターキャーってやつか」
「実際にする奴いんだな…」
「…彰人は知らなかったのか…」
「…そうだな、このことはセンパイから聞いてない」
「俺が聞いたのは、同級生に殴られていたとか、ショーメンバーの奴らに信じてもらえなかったとかそのくらいだ」
「多分、その切りつけ事件があった次の日から、神代センパイとか草薙の態度が変わったんだな」
「…………」
もう、聞いてるだけでおかしくなりそうだった
喉に何かがつっかかってるような、ぐるぐるしてるような、
言葉で表現するのが難しい、とてつもない不快感が俺を襲った。
「大丈夫か、冬弥」
「…すまない」
「………………」
「とりあえず…また放課後話すか」
「そう、だな……じゃあまた…」
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俺達はそのまま解散し、教室へ戻った
ま、授業内容なんて1つも頭に入ってねーけど…
……あんなに苦しそうな冬弥、久しぶりに見たかもな…
「…3年は体育か」
気を紛らわそうと景色を見ていると、持久走をしている3年生が目に入った
が、何か物足りなさを感じてすぐ黒板に目線を戻した
「はあ…」
………センパイに『会いたい』なんて思う日が来るとはな…