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変態
表現が下手なのでそこまでハッキリとしたものはありません!
一眼見ただけじゃ、分からなかった。その蛾が、窓の外にいるのか、もしくは室内にいるのか、なんて。蟲は何となく苦手だったから、目に溶け込むような不気味さに耐えられなくて思わず部屋を飛び出した。
研究室に、先生がいる。私を生かしてくれた先生。私を、「変えてくれた」先生の腕に優しく包み込まれたい。
「カモス、おいで。今日も実験をしよう。」
白い床を駆け出して、少し汚れた白衣に飛び込んで、上を向いて、ちょっと微笑む。そうしたら、先生は笑顔になってくれる。デスクに置かれた珈琲の匂いが充満して鼻につく。先生が、そこに存在している。
私はカモス。生命体。チキチキと鳴いて羽を動かす、蟲は少し苦手。さっきの蛾のような、不気味で気持ち悪い物体は掃除しないと、じゃないと不衛生だ。私と先生のお城は真っ白でいい。赤とピンクと緑が混ざり合った塗り絵が目の裏に焼きつく。増殖する。蟲の多くの眼は複眼なんだって、先生がいつか言ってた気がするけどあんまり聞いてなかった。
手術台は高いから1人じゃ登るのも大変だけど、先生がからだを直してくれるからどんどん簡単になる。苦い珈琲もいつか飲めるようになるかな、でも私は甘い方が好きだな。
そんな、先生との白くて綺麗な夢を願っていれば、痛い針もどうってことない。私のからだに差し込まれるのが先生のピンセットなら耐えられる…けど、もし蟲だったら…って。人間だから、不安なことから目を背けようとしても影はいつだって着いてくる。複眼になって、万華鏡みたいな景色を見ていたら、眩しい蛍光灯の光が届かなくなる。ああ、蟲が…からだのあちこちから、キチキチ音を立てている。駄目だよ、ピンセットの脚は2本なの。要らない脚は捨ててしまえ。
血の海で溺れながら、耳に届く先生と、知らない誰かの声。今はあまり前が見えないのに、耳は眼じゃないのに光が耳える。みえるよ。ああ、からだ中の全てで、白を感じる。
「彼女、元々蛾だったのに、凄いね。本物の人間みたいだ。」
あれ?
どうせ焼かれたら埃になる。ティッシュで拭き取られたら黒に染まっちゃう。珈琲の中じゃ息ができないよ。
ならば変態しよう。蟲じゃない、人間に変態するの。もう一度あなたと溶け合いたい。脚と脚の間からずり落ちる夢みたいにきれい。
ああカモス、私よ。どうか孤独は、蠱毒だけはやめて。白を汚されて仕舞えば、レンガが頭に降ってくる…力なく倒れる、まるで蟲みたい。
てんとう虫の、ゲジゲジの、蝶々の、蚊の、蝿の、カマキリの、バッタの、蜘蛛の、蛾の…
小さな脚はもいで、変態してしまえば…まさに白昼夢みたいだね、って