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とある便利屋の記録⑤
幼稚園の教諭に頼んで以降、小波が怪我をする回数は減った。
一矢に「どうして気付いたのか」と聞いてみると、一矢曰く、
一矢「妹が小さかった時の動きと、小波ちゃんの動きがちょっと違うように感じたんです。妹は歩くたびにちょっと怖がってましたから」
ということである。
更に一年が経ち、小波は小学生になった。
矢凪は雪音との間に距離を感じていた。
話しかけようとすると驚いて飛び上がる、たまに目を逸らされる、態度がよそよそしい。
気づかない筈がない。
矢凪「私のこと嫌いになった・・・とかではなさそうだよね。避けられてる感じでもない。うーん・・・あっ」
考え込んでいた時、矢凪はある一つの可能性に辿り着き、雪音を探しに行った。
矢凪「雪音!」
雪音「ひょえっ⁉︎や、矢凪ちゃんどうしたの⁉︎」
矢凪「何か悩んでるんじゃないの」
雪音「え⁉︎い、いやいや!そんなことな___」
矢凪「兄さんのことでしょ。違う?」
雪音は口をつぐみ、へなへなとその場に座り込んで泣き出してしまった。
矢凪「すぐ相談してくれればよかったのに。私の兄さんが好きなんでしょ?」
雪音「だってぇ・・・絶対怒ると思ったんだもん・・・」
矢凪「親友なのに怒るわけないじゃん。雪音が幸せになってくれればいいんだよ」
雪音「矢凪ちゃぁぁぁん・・・」
雪音の背中をさすりながら、矢凪はふと考えた。
“兄さんと雪音が結婚したら、私は雪音の姉になる。そうなったら私はどれだけ幸せだろう”と。
矢凪(流石に早まり過ぎかなぁ)
雪音「ごめんね、年甲斐もなく泣いちゃって。話聞いてくれてありがとう」
矢凪「ずっと言ってんじゃん、親友だって。いつでも頼りなよ?」
雪音「うん!また後でね!」
廊下をぱたぱたと走り去って行く雪音。それを見ていた矢凪は、後ろを見やって声をかけた。
矢凪「だってさ、兄さん。いるんでしょ?」
返事はない。矢凪はツカツカとそこに歩み寄り、一矢の姿を捉えた。
矢凪「よかったじゃん、モテて。兄さん、前から初恋の人だって言ってたもんね?」
一矢「恥ずかしいからやめてくれぇ・・・」
一矢の顔はトマトの如く真っ赤であった。
矢凪「さっさと告って付き合えばいいじゃない。取られても知らないよ?」
一矢「わかってる・・・わかってるんだけどさ・・・」
矢凪はダメだこりゃ、というように首を振り、またツカツカとどこかに歩いて行った。
一矢の元を去る時も、矢凪が2人の結婚式を妄想してニヤけていたのは、誰も知らない。