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人体模型って喋るんだ…
(昨日…ジジくんに触れられたところが、今もじんじんと熱く感じる…)
そんな自分の心のざわめきを押さえながら、ランは淡々と授業を受けていた。
今日、ジジが転校してきたクラスはモモと同じクラス。
そのことを思うと、高倉くんの様子が気になって仕方ない。彼は机に顔を伏せ、何かを考え込んでいるようだった。
(大丈夫かな……あとで声をかけてみよう…)
お昼の時間。ランが声をかけようと教室を見渡すが、高倉の姿はもうなかった。
(え、声をかけようと思ってたのに……どこに行ったんだろう?)
困惑しながら教室を出ると、モモがすぐそばにいた。思わず声をかけ、一緒に歩くことにした。
『高倉くん、こっちにいる?』
「なんでオカルン?」
突然ランが高倉の名前を出したため、モモは不思議そうに首をかしげた。
『いや…その…』
言おうとしたけど、二人の恋の邪魔はできない。私が勝手に伝えたら、なんだか可哀想だと思った。
『最近、お昼の時間にいなかったから、ちょっと気になっただけだよ』
そう言うと、モモは「そっか…」と少し疑問そうにしながらも頷いた。
二人で中庭へ向かうと、そこには高倉がいた。
「あれ?綾瀬さん!?それに糸師さん…!」
(いや、私はついでかい…!まぁ、いいけどさ…)
「うち、ここで食べるから…」
『もちろん、私も一緒に!』
ニコッと微笑みながら答えた。
なんて話していたら、ジジがやってきた。
「お、モモ!ここにいたんだ。
あれ?君、昨日モモん家にいた人じゃん。友達?」
と、ジジが声をかける。
「なに?ミーコたちと食べるんじゃなかったの?」
「え?モモちゃん、嫉妬っすか?きゃわうぃ〜〜!」
「ちげーわ」
「見てこれ!ポンピーヨーグルト味!」
「キャー!なにそれ!」
「プレゼント・フォー・ユッフォ!」
そんな調子で、ジジとモモは楽しそうにじゃれ合っている。
(……やっぱジジくん、モモちゃんのこと好きなんだ)
ランは心の中でつぶやき、少し顔を曇らせた。
その隣では高倉も無言で暗い表情を浮かべ、どこかへ行こうとしていた。
その背中に気づいたランは、後ろからそっと抱きつく。
思ったよりもブレることなく、しっかりと立っている高倉の体に、ランはちょっと驚いた。
『ねぇ……私に浮気してみる?……なーんて』
モモと高倉は付き合ってもいないけれど、ランはわざとそう言ってみた。
「っ!!ち、近いです……!」
『ふむ……筋肉ついてるね!!筋トレしてたおかげじゃね?』
話を全く聞いてないランは、制服の上から彼の腹筋をぺたぺたと触り始める。
高倉の顔はみるみる赤くなっていった。
「ちょ! ちょっとラン!抱きついてんじゃねぇ!!」
「えー!? ごめーん……なんでモモちゃんが怒ってんの?」
ランが高倉から離れて首をかしげると、今度はモモの顔が真っ赤になっていて、「うっせー!!」と不機嫌になってしまった。
その隙に、高倉は再びどこかへ行こうとした――かと思いきや。
「綾瀬さぁああん!!」
「そこどかんかあああい!誰も俺を止められねえええ!!」
逃げる高倉を追い抜いてきたのは、走る人体模型だった。
『……へぇ~!人体模型って喋るんだ~!』
ランは何故か感心し、その模型に目を輝かせる。
「いや、そこじゃねぇだろ!!」
モモの容赦ないツッコミが飛ぶ。
モモは模型を止めようとするが、ジジが「危ない!」とモモを庇い、そのまま2人は床に倒れ込んだ。
人体模型は、倒れた二人の上をひらりと飛び越える。
その瞬間。
モモの目には、人体模型にあるはずのない"金の玉"がついているのが見えた。
「オカルン!アイツの玉、金色!!」
「逃がすかあ!!」
モモは超能力でランを避け、人体模型をガシッと掴む。
その勢いで、モモを抱きしめていたジジごと、彼女は宙に浮きながら引っ張られていった。
(てか、モモちゃんすごくね!?)
置いていかれそうになったランは、思わず走り出した。
『わー!!置いて行かれちゃうよぉぉ…!!』
ランは走りながらそう言う。
走り続けていると、ランの脳内に声が響いた。
【|余《わー》の能力、使ぅてみぃ。】
(え、誰?)
能力……?と思った瞬間、昨日の“変身”の記憶がよみがえる。
『あー……めんどくせぇ……』
そうぼやきながらも、ランは力を引き出してみることにした。
すぐに追いつくと、高倉はすでに変身していた。
『おい、モモ。あたしは何をすりゃいい?』
「え、ラン!? いつ覚醒したの!?」
『昨日の……宇宙人との戦闘のとき。』
ランはめんどくさそうに、目をそらしながら答えた。
「オカルン!しっかり踏ん張って!ジジも手伝って!」
屋根の上へと逃げた人体模型を、モモは超能力で掴もうとしていた。
高倉、ジジ、そしてランも加わって、三人がかりで引きずり下ろそうとする。
「嫌だ!俺は諦めない!諦めたくないんだあああ!!」
人体模型の執念は強く、その体はバラバラに分解されて超能力からすり抜け、そして――再び組み直されて走り去ってしまった。
「モモ!逃げられちゃうぜ!」
「オカルン、追って!!ランも!!」
『……はぁ、めんどくせぇ。』
「ランちゃんもバケモノ~~~!?」
『バケモノじゃねぇし!可愛い尻尾と耳がついてんだろ!?』
「はい!可愛い!!」
ランが怒りながらも尻尾を見せると、ジジは「確かに……」と納得した様子でうなずいた。
屋根の上に飛び上がったランは、鋭くなった嗅覚と聴覚を頼りに人体模型を探す。
だが、街の中はバスや車、たくさんの人間の声と匂いで溢れていて――
(くそ、分かんねぇ……。しかもあいつ、匂いねぇじゃん)
すぐに諦めたランは、再び高倉たちのもとへ戻った。
どうやら、逃げられてしまったらしい。
変身を解く高倉とラン。
その横でモモと高倉が話しているあいだ、ジジがランに不思議そうな顔を向けた。
「ランちゃん達……何者?」
『ん~……それが私にもよく分かってないんだよね。』
そんな会話をしていると、モモがギュッ、ギュッ――何かを握るような仕草をした瞬間、
遠くから、悲鳴が聞こえた。
「こっちだ!!」
「えっ!?な、何スか!?」
モモが走り出す。その後を、ランたちもすぐに追いかけた。
しばらく走ると、また同じような悲鳴が響き、音のした方へと進んでいく。
「ここ……?」
「こんなとこ、勝手に入って大丈夫っスか?」
廃棄物処理場のような場所。
人気はなく、金属の匂いが鼻につく。
モモが警戒しながら中に踏み込むと―その視線の先には、倒れた人体模型があった。
「あ! 居た!」
「くそったれめ……あと一歩のところで……!」
高倉が、なぜ場所がわかったのかモモに聞くと、彼女は淡々と答えた。
「アイツが分解したとき、心臓だけは掴んでた。たぶん、それが反応してたんだと思う。」