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大雪の日に
「ついに明日大雪か〜、ねぇ、亜子!明日ゲームで、対戦しよっ!」「ゲーム?なんでよ」「いいじゃん!この地域の大雪って、もうどうしようもないくらい降るから」「いいけどさ、、」
冬の風が流れているこの季節、寒くて身を震わせている。
亜子はそう呟き、俯いた。麗音は亜子の返事を聞いて「やった!」と声を弾ませたが、その声はどこか空虚に響いた。麗音は、明日の大雪によって、二人の日常が物理的に切り離されることを恐れていたのかもしれない。雪が降れば、会うための口実もなくなる。二人を繋ぐものが、オンラインの無機質な回線だけになってしまう。
「じゃあ、明日の朝10時にボイスチャット集合ね!」
「わかってるってば」
亜子はぶっきらぼうに答えると、くるりと背を向けた。その表情は、麗音には見えなかったが、少しだけ悲しそうに見えた。
麗音は、亜子の後ろ姿を見送りながら、ポケットからスマートフォンを取り出した。天気予報アプリを開くと、「降雪量3メートル」の文字が表示されていた。「マジかよ」と麗音は呟いた。その顔には、嬉しさではなく、期待外れの孤独が浮かんでいた。
翌朝、麗音は目覚まし時計よりも早く目を覚ました。カーテンを開けると、窓ガラスの下半分が雪で完全に埋もれていた。外はまだ雪が降り続いており、空は灰色に覆われている。「すごい積もってる…っていうか、外が見えない」と麗音は呟いた。昨日までは当たり前に見えていた景色が、雪によって遮断されている。まるで、世界から二人だけが取り残されたような錯覚に陥った。
麗音は急いでパソコンへと向かった。ボイスチャットアプリを起動する。少し待つと、亜子のアカウントがオンラインになった。
「おはよー、亜子」
「おはよう、麗音。うちも窓が雪で埋まってる。外、真っ白」
ヘッドセットから聞こえてくる亜子の声は、いつもより少しだけ静かだった。麗音は、画面の向こうにいる亜子の顔を想像する。会いたい。画面越しではなく、直接会って、一緒にこの白い世界を見たかった。
「今日はとりあえず、格闘ゲームでウォーミングアップといこうか!」麗音は精一杯明るい声を出した。
ゲームが始まった。雪が窓の外で音もなく降り積もっていく。家の中は静寂に包まれ、二人を繋ぐのは、電子的なゲームの音と、ヘッドセットから聞こえる微かな息遣いだけだった。
どれだけ時間が経っただろうか。ふと、ゲームのBGMだけが聞こえる時間が続いた。
「…ねえ、亜子」
「なに、麗音」
「この雪、いつ止むんだろうね」
亜子は何も答えなかった。白い画面の中でキャラクターだけが動いている。麗音は知っていた。この雪が止んでも、二人を隔てる距離がなくなるわけではないことを。ゲームが終わることはないけれど、この繋がっているだけの時間が永遠に続くわけでもないことを。
麗音は、コントローラーを握る手に力を込めた。雪は、ただひたすらに降り続いていた。