公開中
美男子と野獣
sutu05212
大学の講義室。最前列で熱心に教授の言葉をノートに書き留める星太郎(せいたろう)の背中を、ゆうせいは数列後ろの席から静かに見つめていた。星太郎は、真面目で少し融通が利かないところがある。いつもきっちりと着こなしたシャツの襟元や、時折ふと前髪を払う細い指先。そのすべてが、ゆうせいの視線を惹きつけて離さなかった。対するゆうせいは、周囲から「要領がよくて何を考えているか分からない」と言われるタイプだ。カメラが趣味で、いつもお気に入りの一眼レフを肩から下げている。二人は同じサークルに所属しているが、挨拶を交わす程度の、つかず離れずの関係だった。ある日の夕暮れ、放課後のサークル棟で、ゆうせいは一人で部室に残ってカメラのレンズを磨いていた。そこへ、忘れ物を取りに戻ってきた星太郎が息を切らせて入ってくる。「あ……ゆうせい、まだ残ってたんだ」「うん。星太郎はどうしたの? 忘れ物?」「うん、講義のレポートを挟んだファイルを見失っちゃって。あ、あった……よかった」棚の隅で見つけたファイルを愛おしそうに抱きしめ、星太郎はホッと胸をなでおろした。その無防備な笑顔に、ゆうせいの胸がドクリと跳ねる。西日が窓から差し込み、星太郎の横顔をオレンジ色に染め上げていた。その光景のあまりの美しさに、ゆうせいは衝動的にカメラを構え、ファインダーを覗いた。カシャ、と静かなシャッター音が室内に響く。「えっ」星太郎が驚いて振り返る。少し頬を赤く染め、戸惑ったようにその切れ長な目を丸くした。「ごめん、怒った? あまりにも綺麗だったから、つい」ゆうせいが悪戯っぽく笑いながらカメラを下ろすと、星太郎はさらに顔を赤くして視線を彷徨わせた。「綺麗だなんて、からかわないでくれ。僕は、そんな風に撮られるような人間じゃないし……」「からかってないよ。俺、好きなものしか撮らないって決めてるんだ」ゆうせいは一歩、星太郎との距離を詰めた。いつもは一線を引いているはずのゆうせいが、真っ直ぐな瞳で自分を見つめている。星太郎の心臓が、にわかに激しく鼓動を刻み始めた。「ゆうせい……それって、どういう……」「言葉の通りだよ、星太郎」ゆうせいはカメラを机に置くと、星太郎の手から滑り落ちそうになったファイルを代わりに受け取り、そっと傍らにのけた。 tenderly, 彼は空いた星太郎の細い両手を、自分の大きな手で包み込む。「ずっと見てた。真面目で、一生懸命で、ちょっと頑固な君のことが、眩しくて目が離せなかったんだ。サークルの仲間としてじゃなくて、一人の男として、星太郎の隣にいいたい」突然の告白に、星太郎は目を見開いた。ゆうせいはいつも飄々としていて、自分とは住む世界が違う人間だと思い込んでいたからだ。しかし、目の前で自分を握る手の熱さと、わずかに震えるゆうせいの指先が、これが嘘偽りのない本気であることを伝えていた。「嘘だろ……。だって、君は誰にでも優しくて、人気者で……僕なんか……」「誰にでも、こんなことしないよ。星太郎じゃなきゃダメなんだ」ゆうせいは切なげに眉をひさげ、星太郎の顔にそっと近づく。星太郎は拒むこともできず、ただじっとその端正な顔立ちを見つめていた。「嫌なら、避けて」低い声が鼓膜を揺らした直後、唇に柔らかいものが触れた。ほんの少し触れるだけの、熱くて優しいキス。星太郎の頭の中が真っ白になる。しかし、押し寄せる高揚感と、胸の奥から湧き上がる愛おしさに、自分がずっとゆうせいの存在を意識していたことに気がついた。ファインダー越しに向けられていた視線に、本当は救われていたのだと。唇が離れると、ゆうせいは不安そうに星太郎の反応を待っていた。星太郎は、ぎゅっとゆうせいのシャツの裾を掴む。そして、消え入りそうな声で、けれど確かに告げた。「……避けるわけ、ないだろ。僕だって……君のカメラのレンズがこっちを向くたび、心臓がうるさかったんだから」その言葉を聞いた瞬間、ゆうせいの顔に弾けるような笑顔が広がった。「捕まえた。もう離さないからね、星太郎」今度は深く、お互いの体温を確かめ合うように、二人は再び唇を重ねた。窓の外では、街の灯りがきらめき始め、二人の新しい関係を静かに祝福していた。