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collaboration.23
日が沈み、街に明かりが灯っていく。
刻一刻と迷ヰ犬たちの別れは近づいてきていた。
ルイスside
扉を開くと、そこには全社員がいた。
今日は特に依頼などもなく、外回りと事務作業が中心だったのだろう。
国木田「太宰! 貴様は毎度仕事もせずに社を抜け出して──!」
太宰「怒りすぎは禿げるよ」
禿げッ、と国木田君は一瞬固まる。
しかし次の瞬間には太宰君を引き摺り、自席に座らせていた。
相変わらず太宰君の扱いに慣れているな。
乱歩「桜月ちゃんに彼氏君、そしてテニエル。この世界のヨコハマはどうだった?」
桜月「私達の世界と変わらないな、と思いました。あとはパンケーキとクレープが美味しかったです!」
テニエル「ま、楽しかったぞ」
乱歩「それは何より」
彼氏君「なぁ、名探偵。もしかしなくても彼氏君って俺のことか?」
乱歩「君以外いないでしょ。ちゃんと名前も変わってるし」
彼氏君「本当じゃねぇか!?」
驚く中也君は置いておいて、僕は探偵社に来る前に買った駄菓子を差し出す。
わーい、と乱歩はすぐに封を開け始めた。
そして桜月ちゃんにお裾分けしていた。
なんか珍しいな。
福沢「済まない、ルイス」
ルイス「別に気にしないで良いよ。いつものことだし」
テニエル「いつものことなんだな」
福沢「……桜月、始めてあった時に云ったことを覚えているか」
桜月「はい! あ、でも全然ルイスさんのこと守ったりは……」
福沢「いや、充分だ。ルイスと共にいてくれたこと、感謝する」
そう云った福沢さんの表情は、とても柔らかかった。
ルイス「……僕、別に無理してないんだけど」
福沢「銃で撃たれ、毒を盛られ、足にナイフを刺され、蹴り飛ばされ、自ら剣に刺されにいったと聞いたが?」
ルイス「ちょっと待て、最後のは#アリス#だ。僕じゃない」
誰だ、偽情報を流したの。
ふと後ろを振り返ると、桜月ちゃんとテニエルが視線を逸らした。
あ、絶対この二人だ。
ルイス「桜月ちゃんはともかく、君は後で絞める」
テニエル「嘘だろ」
桜月「|首領《ボス》の時も気になってたんですけど、絞めるって何するんですか?」
ルイス「あー……」
桜月ちゃんをはじめとした、その場にいる全員の視線が集まる。
知ってる人がいないなら、黙るが勝ち。
太宰「縄で縛って身動きを取れなくして、屋上から命綱なしのバンジージャンプだよ」
知ってる人いたわ。
太宰「こんな風にね」
そう云った椅子に縛り付けられていた太宰君は立ち上がる。
ちょっと待て、椅子に縛り付けられていた太宰君ってなんだ。
どうせ国木田君あたりがやったんだろうけど、まぁ放置で良いか。
太宰君はというと、窓を全開にして落ちた。
国木田「太宰!?」
ルイス「あの馬鹿ッ──!」
僕はすぐに動いて異能力を発動させる。
すると、上に投げ出された太宰君が事務室に落ちた。
ルイス「馬鹿じゃないの!?」
太宰「失礼な。私は馬鹿じゃありませんよ」
ルイス「助けが間に合わなかったらどうするつもりだった!」
太宰「……DEATH?」
桜月「カッコよく云っても面白くないですからね?」
太宰「DEATHだけに?」
「「……。」」
福沢「……国木田」
はい、と返事をした国木田君は頭を抱えながら太宰君を奥へと引き摺っていった。
いつも以上におかしくないか、太宰君。
変なキノコでも食べたのかな。
福沢「さて、貴君らはそろそろ元の世界に帰るのではないか?」
彼氏君「そうだな。#アリス#さんにも感謝を伝えられたし、探偵社もマフィアへも挨拶が済んだ」
桜月「後は特務課かな?」
中也君は何とも云えない表情をしていた。
多分、安吾君のことあまり好きじゃないんだろう。
ルイス「改めて、今回はありがとう。特に、太宰君のお陰で仲間を救えた。お礼をしてもしきれないよ」
福沢「貴君は探偵社の一員だ。仲間を助けることなど、当然だろう」
僕は少しの間、固まっていた。
仲間、か。
今の仲間は探偵社の皆。
もしも探偵社に何かあった時は、僕が彼らのことを──。
ルイス「じゃあ、そろそろ行こうか」
僕は微笑む。
敦「また会いましょうね」
太宰「元の世界に戻る前に私と心中してはくれないだろうか!」
国木田「貴様、それが別れの言葉で良いのか? 元の世界の太宰にも気を付けろよ!」
乱歩「バイバーイ!」
福沢「無理はしないようにな」
鏡花「またクレープ食べに行こうね、桜月」
それぞれが別れの言葉を述べる。
太宰君はぶれないな。
桜月「うん、またね!」
彼氏君「世話になったな」
テニエル「異能使うぞ」
そうして僕達は、テニエルの異能を使って異能特務課の出入り口へとやってきた。
安吾「……いきなり落ちてこないでくれます?」
ルイス「しょうがないでしょ。それがテニエルの異能なんだし」
はぁ、と安吾君は判りやすいため息をついた。
何徹目なのかな。
普通に目の下の隈が凄い。
安吾「とりあえず中に入りますか?」
ルイス「大丈夫なの?」
安吾「長官に許可は取ってあります」
用意周到だな。
種田「待ってたぞ、ルイス」
ルイス「……本人がいるのは聞いてない」
安吾「云ってないので」
種田「今回の件は大活躍だったな。もう会えないかもしれないと知ったときは驚きを隠せなかったが」
ルイス「#アリス#が起きなかったからね」
そんなこんなで、僕は今回の件について話すために種田さんと席を外すのだった。
まぁ、四人だけにしても大丈夫でしょ。
ルイス「──大丈夫かなぁ」
種田「そんなに心配か?」
ルイス「さっきも説明したけど、あの中原中也も君の知っている中原中也と変わらない。安吾君のことが嫌いだからね」
そうか、と種田さんはお茶を飲む。
種田「改めて、今回は力を貸してくれたこと感謝する。良かったら特務課の手伝いをしてくれないか?」
ルイス「返事はいつもと同じですよ。それじゃあ」
テニエルside
テニエル「……。」
ルイス・キャロルが居ないというだけで、此処まで空気は最悪になるものだろうか。
誰も口を開かず、五分が経過しようとしていた。
あの桜月も話さないとか、本当に気まずいのだが。
安吾「……お二人はいつ元の世界に帰られるのですか?」
桜月「今日……だよね?」
中也「あぁ」
はい、会話終了ふざけんな。
桜月「あ、あの……私と中也のことを誤魔化してくれてありがとうございました」
安吾「政府関係者としては絶対に駄目なのですが、ルイスさんとの約束でしたので」
テニエル「約束?」
安吾「……いえ、何でもありません」
眼鏡は一息おいてから、話し始めた。
安吾「ルイスさんから説明があったかもしれませんが、登録されていない異能力者というのは中々に面倒なんです。中原さんやテニエルさんはまだ良いのですが、泉さんの場合は同じ人物がいない」
中也「つまり、もう一人がやったことに出来ないのか」
テニエル「俺に関しては、もう死んでるんだろ? どうしたんだ」
安吾「……泉さんとテニエルさんの異能を見たのは誰でしょうか」
桜月「えっと、最後の方に戦った人達だから──」
マッドハッターに三月ウサギ。
そして主犯のシヴァ。
それ以外は桜月のことを見ているが、異能者ということを知らない。
テニエル「……なるほど」
桜月「え?」
テニエル「帽子屋の二人は俺達の味方だ。俺達三人なんて居なかったことにしたのだろう。シヴァの方は虚言として特務課は判断した」
中也「表向きにはルイスさんと探偵社、マフィアの一部のみで対応したことにしたのか」
安吾「はい。お三方の活躍を消すようなことなってしまい、本当に申し訳ありません」
桜月「謝らないでください! 安吾さんのお陰で助かったこともありますから」
中也「桜月の言うとおりだ」
テニエル「でも、異能を使わざるをえない状況にしたルイスが悪いよな」
ルイス「はいはい、僕が弱かったせいですみませんねー」
あ、と俺達は振り返る。
部屋の入り口にルイスが立ち、ため息をついていた。
種田「ほら、大丈夫だっただろう?」
ルイス「喧嘩とかはしてなかったけど、僕の悪口で盛り上がってたね」
ニコニコと笑っているが、多分怒ってるのだろう。
ごめんて。
そんなことを思ってると眼鏡がルイスに資料を渡していた。
安吾「此方、僕や長官しか閲覧できない方です。一応ご確認よろしくお願いします」
ルイス「ありがと」
種田「安吾が担当したし、不備はないと思うが大丈夫そうか?」
ルイス「……何徹したの?」
苦笑いを浮かべる眼鏡。
あれ、もしかして特務課ってブラックだったり──。
ルイス「ま、此方の資料も貰っておくよ。三人とも何かやり残したことない?」
中也「特に思い付きませんね」
桜月「中也に女装してもらってないです! ついでにボスも!」
テニエル「何で俺まで」
中也「絶対しないからな」
ルイス「それじゃ、僕達は行くね」
ルイスside
指を鳴らせば、見慣れた景色が広がっていた。
|異能空間《ワンダーランド》に戻ってきた僕は、真っ先に資料をしまう。
#アリス#「あら、おかえりなさい」
桜月「アリスさん!」
ただいま、と#アリス#に駆け寄る桜月ちゃんの姿を見て何だか落ち着く。
同時に、少し寂しさもあった。
やり残したことがないとはいえ、ここ数日みたいに傍にいれることはそう無いだろう。
桜月「あ、そういえば帰る方法は……」
ルイス「予想通り、テニエルの異能力だよ」
中也「あの落ちる感じ少し苦手なんだよな。まぁ、仕方ねぇけど」
テニエル「忘れ物とかないならすぐ送るぞ」
桜月「ちゃんとお別れさせてよ!?」
ルイス「最後まで楽しそうだね、君達」
そう、僕は笑う。
視線の先には桜月ちゃんがいて──。
???「だーれだぁ!」
桜月「え、三月ウサギさん!?」
???「声に騙されたね、桜月ちゃん」
桜月ちゃんの背後に立っている二人。
桜月「マッドハッターさん!?」
三月ウサギ「ドッキリ大成功だねぇ」
マッドハッター「これ、ドッキリなの?」
#アリス#「思ったより嬉しそうじゃないわね」
桜月「いや、会えると思ってなくて吃驚が勝っちゃいました……」
マッドハッター「元の世界に帰るなら見送りに来るさ。迷惑も掛けたしね」
三月ウサギ「えへへっ、ヨコハマ観光は楽しかったぁ?」
桜月「はい!」
思い出話の途中に僕のロリータ服が出ている。
まぁ、うん、もう良いや。
桜月ちゃんが楽しそうだから諦めることにする。
桜月「これ、さっきこの世界の|首領《ボス》から貰ったんです!」
三月ウサギ「これはぁ……」
マッドハッター「まぁ……うん、似合ってるんじゃないか?」
ルイス「ちょっと待てぇ!?」
何で写真持ってるねん。
#アリス#「良いじゃない、ルイスちゃん?」
ルイス「ここぞとばかりに弄らないでくれるかな?」
三月ウサギ「今度、一緒に可愛い服着ようねぇ」
ルイス「嫌だよ!?」
マッドハッター「僕は良いと思うよ。カメラマンは任せてくれ」
ルイス「なに勝手に話を進めてるのかなぁ?」
中也「エリス嬢巻き込んだら、|首領《ボス》が洋服代とか出してくれそうだよな」
桜月「絶対出してくれるね。あ、その時に中也も女装──」
中也「しねぇからな!?」
そんなに女装させたいか、僕に。
ルイス「そういえば、君はどうするの?」
テニエル「……俺?」
ルイス「元々彼女達の世界の住民でしょ。帰るなら、このタイミングがいいと思うけど」
少し考え込むテニエル。
しかし、答えは決められているようなものだった。
桜月「一緒に帰ろう」
テニエル「……え?」
桜月「ボスは悪い人じゃないし、説明すればみんな判ってくれるって!」
ルイス「まぁ、僕としても架け橋になってくれると嬉しいかな。|異能空間《ワンダーランド》ならいつ来ても構わないし」
変なエリアに行きさえしなければ、だけど。
テニエル「……良いのか?」
桜月「うん!」
中也「桜月を傷つけたら許さねぇがな」
仲良くできそうでよかった。
やっぱり、別れはこうじゃないと。
桜月「ルイスさん、本当にお世話になりました!」
ルイス「此方こそ、色々ありがとね。……巻き込んで申し訳ない」
桜月「謝らないでください。またこうやって会えたから±0ですよ」
ルイス「……そっか」
僕、うまく笑えてるのかな。
別れが惜しいなんて、まだまだ子供だ。
そんなことを考えていると、ふと思い出した。
あの時渡そうと思って探すのを諦めたもの。
#アリス#が眠っている間に見つけたんだった。
ルイス「本当はもっと早くに渡したかったんだけどね」
僕が渡したのは、一冊の本だった。
正確には──。
桜月「あ、中に鏡……?」
ルイス「これは面白い鏡でね。どこでも通信できるんだ。それこそ、世界が違くてもね」
桜月「へぇ……って、え!?」
テニエル「お前の異能力か?」
#アリス#「正確には私達の異能、だけどね。異能力で創ったものだから太宰君に触れられたら消滅してしまうわ」
桜月「絶対太宰さんに触らせないようにしよう……」
異能力で作った鏡はどこでも繋ぐ。
ルイス「中也君と喧嘩したら気軽に連絡して良いからね!」
中也「何でそんな満面の笑みで云うんですか!?」
冗談だよ、冗談。
そう、僕は中也君に笑いかける。
何処かの時間では告白まがいなことしてたし、此処でやっても良いよね。
ルイス「ほら、僕が引き留めてたけどあまり遅くなると君の世界のみんなが心配するよ」
桜月「あ、二週間ぐらい開けてたんだっけ……」
中也「……|首領《ボス》に報告書を出した方がいいな、これ」
#アリス#「また会いましょうね、二人とも」
三月ウサギ「あ、そうだぁ!」
ふと、三月ウサギがマッドハッターと内緒話を始めた。
そして桜月ちゃんへと伝える。
桜月「あの、それって……!」
三月ウサギ「私達の本名。この名前は英国軍にいた頃を思い出しちゃうからあんまり使いたくないんだけど──」
マッドハッター「君と友達になるなら、僕達自身のことを知ってもらいたいからね」
なんか二人とも楽しそうでいいなー。
三月ウサギ「あ〜、ルイスが話に入れなくて拗ねてるぅ!」
ルイス「ちょ、拗ねてなんか──!」
マッドハッター「拗ねてるな」
中也「あれは拗ねてるだろ」
桜月「拗ねてるね」
#アリス#「話に入れなくて残念だったわね」
テニエル「顔真っ赤にして面白いわ」
ルイス「皆して馬鹿にするなぁ!」
そんなこんなで、三人は元の世界に帰ることになった。
話しているうちに日付が変わろうとしている。
ルイス「……またね、桜月ちゃん」
桜月「はい! また会いましょうね、ルイスさん!」
瞬きをした次の瞬間、三人の姿はなかった。
彼女達がいた場所には穴が空いている。
最初から最後までテニエルの異能に振り回されているな、桜月ちゃん。
ルイス「さて、来てくれてありがとね。マッドハッター、三月ウサギ」
三月ウサギ「どういたしましてぇ」
マッドハッター「また桜月ちゃん達が来たときは連絡をくれると嬉しいかな」
#アリス#「もちろん。ねぇ?」
ルイス「あぁ」
そうだ、と僕は思い出して指を鳴らす。
僕の後ろにお茶会のセットが用意されていることだろう。
ルイス「暫く会えなくなるだろうし、色々話したいこともあるんだ」
--- アーサー、エマ ---
--- 少し付き合ってもらえないかな? ---
二人は少し驚いた表情を見せた。
次の瞬間には、優しい笑みを浮かべている。
エマ「もちろん良いよぉ。ね?」
アーサー「……仕方ないなぁ」
そうして僕達は、遠い昔に夢見ていたような何でもない日を祝うお茶会を開くのだった。
--- fin ---
『英国出身の迷ヰ犬×文豪ストレイドッグス!』のコラボ第二弾をここまで読んでくださり、ありがとうございました。
これで完結になります。
伏線や今回の裏事情などはこの小説の少し後に投稿されていると思われます。
そちらにちゃんとした後書きもあるので、ここでは簡潔に。
二度目のコラボ小説に付き合ってくださった、ののはなちゃん。
そして「英国出身の迷ヰ犬」の世界に来てくれた桜月ちゃん、中也。
最後にこの物語を最後まで読んでくださった貴方へ。
心より感謝を申し上げます。
これからもルイス・キャロルを始めとしたキャラクター達の物語を、ののはなさんの小説を応援してくださると幸いです。
また別の作品でお会いしましょう。