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ペット
微嘔吐表現注意
スーパーでキャットフードをかう。この前のは気に入らなかったようだから、ちょっと高いやつにする。パッケージが白猫なのがよかった。アイツと同じだから。
レジで並んでいると、「そのキャットフード、いいですよ。食いつきが違うんです」と声がした。ふりむけば、いつもペット関連の売り場で会う女のひとが、にこにこと俺に笑いかけていた。彼女の買いものカゴにも、同じキャットフードが入っている。
「そうなんですね。はじめてかうんで、よかったです」
「ほんと、これしかたべなくなって、こまってるくらい。おたくの子も、結構グルメちゃんですか?いつもちがうのかってますもんね」
そうきかれ、俺は少しおどろく。よく見ているひとだ。
「ええ、うちのはかなりわがままで。でもつい甘やかしちゃうんですよね」
「ああ、わかります…おたくの子、きっとかわいいんでしょうねえ」
女のひとはうっとりと言う。俺はアイツの顔を思い出しながら、「とっても」とこたえた。
家につくと、床をひっかく音がした。またか、と思わず苦笑する。
「ただいま、ユメ」
言いながら、リビングの明かりをつける。ユメが俺を見あげ、座りこんだ。
俺が帰ってきたらおすわりするようにしつけたのが、功を奏したらしい。いい気分になって、かってきたばかりのキャットフードをとりだす。ま新しいパッケージにひかれてか、ユメは目を見ひらいた。
「今日はちょっと高いのをかってきたんだ。きっと気に入ると思う」
俺はユメ専用の赤い皿をとり、キャットフードのパッケージをひらく。いかにもエサらしいにおいがふわっとひろがった。茶色で、ひとつひとつが小魚の形になっている。
「ほら、魚のかたちしててうまそう。おあがり」
ざらざらと皿に出してすすめると、ユメはおずおず皿に口をちかづけた。二口、三口と口に入れて咀嚼し、飲みこんだのち、すぐに吐いた。
「あちゃー」
これもだめか。仕方ないなあと俺は笑い、咳きこむユメの背中をさする。ユメの目には涙が浮かび、吐いたものの上に落ちた。
ユメは俺のペットだ。ただし、猫ではなく人間の。
ユメを飼いだしたのはいつ頃だっただろうか。もうおぼえていない。きっかけも。ただ、ユメがひどく怒っていたのと、泣いていたのはおぼえている。
逃げると困るから、首輪と足枷をつけている。性行為のそういうプレイで使うような、ネットで探せば手に入る代物だ。そんなでも、ちゃんと効き目はある。しっかり躾をすれば。
俺はとにかく、ユメは人間より猫の方が似合っていると思ったのだ。だってユメは、真っ白でふわふわしてて、気まぐれで、人間よりよっぽど猫に近い。
ユメの吐物を片づけながら、俺はきいた。
「おまえさあ、名前なんだっけ?名前の漢字」
ユメは部屋の隅で固まりながら、かぼそい声で答える。
「…結瞳。結うに瞳で、結瞳」
「ふうん。かわいいね」
でもさ、と言いながら、俺は立ち上がる。ユメが怯えた目をする。
「おまえにはもったいないよ。結うも瞳も」
そう言って、俺はユメの頬を殴る。腕を、腹を、胸を、殴る。ユメを傷つけるたび、俺はみたされる。
仕方ないよな、男はときどき、暴力的な気分になるんだって、科学的に証明されてんだから。おまえだって昔は、生理だから仕方ないでしょって、よく言ってたもんな。
ユメは俺のペットだ。とってもかわいい。