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名もないロリィタさんの悲劇
赤羽茉衣
去年の夏にSNSで熱中症で救急搬送されて救命処置でお洋服が切り裂かれてしまったロリィタさんがいた事を知って(特定はされてません)衝撃を受けてしまい。ドレスを切り裂かれてしまったロリィタさん(架空)視点で初めて小説を書いて見ました。
朦朧とした意識が中で、白いレースの切れ端が宙に舞うのが見えた。
ふわふわしたチュールが舞い、夢の中のように光の中でキラキラと輝く。
でも、これは夢じゃない。
冷たいハサミの刃が、私の大切なドレスを切り裂く感触が、はっきりと蘇る。
あの日、私はとあるターミナル駅のホームのベンチ付き座っていた。
いつもなら大好きなロリィタのフルコーデに身を包んで街を歩くだけで、胸が高鳴っていた。
でも、その日は違った。
じわじわと焼けるような日差しに、身体が溶けていくように熱い。
ベンチに座ったまま、視界がグニャリと歪んで行く。
目の前を通り過ぎる人の顔が、のっぺりした影絵のようだ。
誰かが私に声をかけてくれたような気がしたけど、もう何も聞こえない。
私は今年のGWにお迎えしたロリィタブランドAのミニ丈の純白ロリィタドレス姿で意識を失ってしまった。
次に意識を取り戻したのは、救急車のサイレンの音と、慌ただしい人々の声が聞こえてきた時でした。
白い天井と、無機質な機械の音。
そして、救急隊員の冷たい手が私のドレスを乱暴に引っ張った。
「えっ?いや、ドレス切らないで、そのドレスは、何ヵ月もかけてお金を貯めて、やっとお迎えした大切な宝物なの。発売日に絶版になって、もう入手困難なの。お願い切らないで。」
私は最後の力を振り絞ってかすれるような小さな声で嘆願したけど、救急隊員には届かない。
「ごめんね、切るよ。」
その言葉とともに、9の字に変形した医療用途のハサミの冷たい感触が私の胸元に触れた。
ざくざくっ、、しゃきしゃきっ、、じょきっ、じょきっ、、
シャンタン生地やリボンやフリルが裂ける音、チュールの網目が千切れる音、そして、お気に入りの精細なレースが切り裂かれる音、スカートやパニエやペティコートやオーバーニーソックスの切り裂かれる音、その音達は、まるで私の身体と心を引き裂くようだった。
ドレスを切らなければ完全な治療が出来ない、だから救急隊員のハサミで切られてしまった。
やむを得ないことはわかっていたど、耐えきれなかった。
ドレスは私にとってただの服じゃない。
私の身体の一部だった。
そんな大切なドレスが、無惨にズタズタに切り裂かれていった。
私は朦朧とする意識の中で、何も出来ずにドレスを死に追いやった自分を責めた。
ドレスを切り裂いた救急隊員の人々達は何も悪くない。
私を助けるために全力で救命処置してくれている。
悪いのは全て私。
「こんな酷い目に遭わせてしまって、ごめんね。」
心の底から何度もドレスに謝罪したけど、もうドレスは元には戻らない。
涙が溢れて止まらなかった。
そして数週間後に退院して自宅に戻ったけど、身体は回復しても心は深く傷付いたままでした。
更に追い討ちをかけるように、ネットニュース記事を見つけてしまいました。
「●月○日▼時▽分頃●○線✕✕駅で20代のロリィタファッション姿の女性が熱中症で救急搬送される、現場で救急隊員がドレスを切断して救命処置」
という見出しで、私の事が記事にされていた。
ニュースサイトのコメント欄には、想像以上の酷い言葉が並んでいた。
「なんで真夏にそんなもん来てるんだよ」
「自業自得だろ」
「熱中症で意識失ってロリィタ服粉砕とかメシウマだわw」
「ドレスがどうとか、バカじゃないの」
「絶対領域崩壊とかエロ過ぎて草」
「どうせ見栄っ張りなんだろう」
私は可愛いロリィタドレスを着て出かけただけなのに。なんでそこまで言われなきゃいけないの。
怒りと悲しみが入り交じった私は病院から持ち帰って来たズタズタのドレスの残骸を抱きしめながら泣き崩れました、
その日から私は、ドレス破れ守れなかった罪悪感と、知らない人たちからの心ない誹謗中傷の言葉で、息がつまりそうな日々を過ごしています。
窓の外の太陽が、ひどくまぶしく見える。
あの日の太陽と同じくらい、まぶしくて、そして私を焼き尽くすように。
私は、深い罪悪感と悲しみに打ちひしがれ、白いレースが舞うあの光景を、何度となく思い出していた。
それは、私の心を切り裂く、永遠のトラウマになった。
残酷なストーリーになってしまいました。