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愛の消失
お久しぶりです。ろすらぶ第四話。
お待たせしてすみません!
”サンズ”...もとい、ロストはあの後、ボスによってもう一度サイエンスのところへ連れていかれた。
サイエンスも、記憶が欠落していると知って大層驚いたそうだ。僕らのようなAUのサンズ(というよりモンスター)で、記憶がなくなるのはあまりない事例らしい。考えられる理由としては、やはり左目の欠如。または、倒れたときに頭を打ったか...だそうだ。
だが、左目の有無が記憶に影響するとしたら、ホラーも記憶が無くなっていなければおかしい。だってホラーの左目は、そこらのモンスターのものだから。
ホラーの弟のパピルスに聞いても、ボスに確認をとっても、ホラーの記憶が抜けている、ということはないらしい。
左目の欠如が影響ではないのだとしたら、希望はあると思ったが...そうとも言えないとボスから言われた。
「同じ固体からの派生といえど、世界が違う。”マーダー”としての記憶がすっぱ抜けてるとなれば、瞳に関係がある可能性も捨てきれない」
”マーダー”があの瞳の色になったのは、虐殺を初めてからだ。
サイエンスとボスによると、瞳の造りが、記憶に影響しているのではと考察されている。
今のロストの瞳は、どちらも色が抜けている。それが、記憶に影響したのでは...という話だ。
頭を打った可能性については、一概にないとは言いきれない。ニンゲンでも、強い衝撃やショッキングな出来事によって、記憶がなくなるというのはよくあるらしい。
頭を打ったことや、左目を潰された”衝撃”で記憶がなくなったというのなら、きっかけがあれば戻るかもしれない、とサイエンス。
まとめると、痛みによる衝撃の可能性と、左目が潰れたせいで記憶がなくなった可能性があるという訳だ。
記憶が戻る可能性がないわけではない。
サイエンスが言うには、”マーダー”として聞いたもの、見たものなど、以前見たものや行った場所をもう一度体験すれば、記憶が蘇るかもしれない...らしい。
そんな馬鹿げた話あるかと、以前の僕なら馬鹿にしただろう。フィクションじゃあるまいし、と。だが、今の僕は、僕たちには、藁にもすがる思いだった。
それから僕達は、交代でロストのことを、記憶を無くす前に行った場所へ連れ回した。
フェルのことろにグリルビーズ、スワップのところの地上、継続組で行った向日葵畑、エトセトラエトセトラ。
ボス、エラー、クロス、ホラーと順にロストと二人で(継続組で行った場所は三人で)巡って行き、明日は僕の番だった。
ロストが死んだ。
朝、中々降りて来ないロストを呼びに、僕が部屋の扉を開けたときだった。
「え、...あれ、ロスト?」
ベッドの上にある飛び散った紫色の液体と、ロストの来ていた服の下にある、塵。
窓は開いていないはずなのに、風が塵を、ロストをさらっていく。
「は、...え...?? んな訳ないよね...?」
よたよたと、僕はベッドの側に寄る。
ロストは、いない。
「は、ぁ......?なんで、なんで......?」
足から力が抜けて、膝から崩れ落ちた。ゴンッと鈍い音がして、痛みが伝わって来る。
「うそって言ってよ......悪趣味、だよ」
___わかってる。知ってる。ロストの左目から絶えず流れていた液体は、魔力だ。
そう、魔力。モンスターの生命エネルギー。魔法を使うにも、実体の薄い身体を維持するにも、魔力がなくてはならない。
モンスターは魔法を使うとき、身体を維持する魔力まで使わないように、無意識にセーブしている。
セーブしている魔力が、モンスターのHP。地下世界の食べ物がすぐHPに変換されるのは、それが魔力の塊だからだ。
しかしロストはどうだろう。意識しようがしまいが、魔力を司る左目が潰れてしまっている。止めどなく溢れる魔力は無限ではない。身体を維持する魔力まで侵食していき、いずれは死んでしまう。
何故、もっと早く気付けなかったんだろう。
「......ばか」
悪態は無人の部屋に吸い込まれるだけだった。
「...そうか」
出来事を闇AUメンバーに告げると、それぞれ悲しみを滲ませた表情をした。
「悲しいですけど、最期に、思い出...、が作れてよかった...っ」
無理に笑おうとしたクロスは、結局途中で泣き崩れてしまった。
「マーダー......うぅ、っ、ふ」
涙を隠すこともできず、ホラーは嗚咽を漏らす。
「......割り切レ...何テ言エないナ」
エラーはこちらに顔を向けようとしない。
「あぁ、そうだな...」
ボスでさえ、少し残念そうな顔をした。
僕は、僕は、僕は?
「......っ、ごめん...ちょっと部屋行ってくる」
泣くこともできず、まわりを慰めることもできず。
ただこの場から離れたくて、これを直視したくなくて、足早に階段を駆け上がった。
豪快に扉を引いて、後ろ手で勢いよく閉めたせいで、バタン!と乱暴な音が鳴る。扉が閉じた途端、それを背に僕はずるずると座り込んでしまった。
「っ、は......なんで、なんでこんなことに......」
こんな時にばかりよく回る頭を抱えながら、僕はひとり呟く。無数の言葉は、全て空虚な部屋に吸い込まれていく。
「何がダメだった?もっとはやくきづけたら、そもそも、あの時助けられたら、.........!!!!」
うまく呼吸ができない。この眼窩から流れ落ちる液体が、ケツイなのか、それとも涙なのか。それすらあやふやになった時、ふと思った。
もし、やり直すことができたら。
以前の僕が、...普通のサンズだった僕が憎んでいた力。
『セーブとロード』
ニンゲンの”生きたい”という強いケツイによって、時間を巻き戻す能力。そのせいで、”サンズ”だったあの頃の僕は苦しんだ。何度ハッピーエンドを迎えても、いずれはあの時間に戻される恐怖。それに怯えることすら諦めて、全部投げ出した。
最終的には、”あのニンゲン”に魂すら売り払って、全部辞めたのに。
最後に思いついた考えが、これなんて皮肉なものだ。
でも、もし本当にやり直せたら?
アイツを救うことができたらのなら、それは、それは_________
『やり直させてあげようか』
声がした。
おかしい。この部屋には僕ひとりのはずだ。というか、この声は、
『ハウディ。私はキャラ。久しぶりだね、サンズ』
『___いや、今はキラーか』
キャラ。僕と取引をしたニンゲン。闇AUに入ったあたりからぱったりと声を聞かなくなったはずだった。いや、それよりも、今。
「やり直せる...って?」
顔をあげて聞き直す。そこには、特徴的な黄緑色のセーターを来た子供の姿があった。ふわふわと浮いているそれは、少し後ろの景色が透けていて透明だ。
『そのまんまさ、この物語の冒頭にまた戻してあげるよ』
少し大袈裟に手振りしながら、キャラはそういった。
「そんなのできるの...?」
『できるさ!キミにある”戻りたい”という意思と、私の魂があれば!』
それなら、マーダーを救えるかもしれない。
まって、今コイツは何て言った?
「キャラ、今、なんて...」
聞き間違えじゃなければ、『”また”やり直させてやる』と__
サッとないはずの血の気が引く僕を見て、キャラは恐ろしいほど綺麗な笑顔を浮かべて言った。
『__哀しいねサンズ。いやキラー』
『この482回目のタイムラインでも救うことができないなんて』
あぁ、そうか。何か大切なことを忘れていたのは__________
______僕たちもだった。
*To be continued...*