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大切な君と
※見ようによってはcp要素その2(こっちの方がcpっぽいかも)
出血の表現があるのでダメな方はブラウザバック
「当面は協定を結び、寝首を掻けばいい」。
あの頃は、そう思っていた。
でも。
テガソードの里で、コーヒーを美味しそうにすする様子。
時折見せる、どこか寂しそうな顔。
私を見つめる、黒々とした双眸。
そして、テガソード様の挙上で歌うあの声。
それらを見ている内に。
いつの間にか、そんなことできるはずも無くなってしまった。
そう思いながら、竜儀は自分を引きずるようにして歩いていた。自分の体に目を落とす。
ぼろぼろになった服はそこら中が赤黒く染まっていたが、特に腹部の辺りは色水にでも漬けたかのようになっていた。そうではない事は、鉄のような濃い香りで十分に分かる。
そろそろまずいな、とぼんやりする頭で他人事のように思った。
だが、今は他人事でもいいと思える。そうでもしないと、この背中に預けられている命は救えない。そう思い直すと、また背中の生暖かさを感じた。
自分の事、それより、今はこいつの事だ。自分の背中に止めどなくしみ込んでくる鮮血が、こいつ___百夜の状態を物語っている。
「竜儀」
前を真っ直ぐ見た状態で、努めて冷静に聞こえるように言葉を返す。
「なんだ」
「今の内に指輪、奪ったらいいんじゃないの?」
「・・・は?」
思わず眉根が寄るのが自分でも分かった。
なにを言っているのだろう、こいつは。
竜儀の心中を知ってか知らずか、いつも通りのような声で陸王は続ける。
「僕はもう動けない。今指輪を奪っても僕は抵抗しない__いや、できない。それでそのまま僕を置いていけばいい話だよね」
竜儀は息をはいた。それはもう、今できる限り思いっきり。
こいつは何も分かっていない。ああ、本当に分かっていないのだ。
「___お前は馬鹿なのか?今更にも、ほどがある、」
流石に指輪の副作用があっても、重傷を負っている状態で成人男性一人を背負って移動するのは厳しい。竜儀は一度言葉を切って息を整える。
「命が懸かっているという時に指輪を奪う?不正不公にも程があるだろう。指輪は、正々堂々戦って奪うものだ」
陸王の表情は見えない。
「でも置いていけばいいよね、無理をしてまで僕を助けるメリットはないはずだ」
陸王はやや早口かつ、険しい声でそんな事を言う。
竜儀は思わずもう一度ため息をついた。陸王は自己評価が少々低いところがある。本当はこんなこというつもりは無かったのだが、仕方があるまい。
「助けるメリット・・・そんなものは関係ない、___死んでほしくないから助けたいんだよ」
少しだけ、沈黙が流れる。
掠れた声で、陸王が返す。
「___僕だって、君に死んでほしくないから」
ああ、そういうことか。そうだったのか。
そろそろ意識が飛びそうになってきた。このまま帰れないかもしれない、そんな弱音が頭をよぎる。それを打ち消すように、陸王の足を支える腕に力を込め、目の前を睨む。
「百夜」
「・・・なに?」
「絶対、帰るぞ」
うん、と耳元で微かだが揺るぎない声が聞こえた。
同盟に頭を狂わされている人間の、またしても10000%幻覚妄想小説でした。