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ハーデンベルギアが散った。
※これは「廃工場のビスクドール」と言うSui様の自主企画に参加したメアリーとルークの小説です。
※設定には書いていない事が山盛りです。
「‥」
ただ一人、太陽の照り輝く庭で考え事をしていた。白い髪が揺れているのが視界に入ってきて少し邪魔だ。揺れる椅子‥ロッキングチェアと言うものに座っているのだから揺れるのは当たり前だけど、それでも何とかして邪魔にならないようには出来ないのだろうか。まだ伸ばしていたいし‥
「‥伸ばしていたい理由って?」
私にはそれがよくわからなかった。
メアリーと言う人形として生まれた時からずっと長いままだった髪。前から邪魔だと思っていたし、いつでも切ろうと思えば切れたのに何故かずっと切らずにいた。
伸ばしていたのは、あの人の言葉を聞いたから。
♢
「この髪邪魔ね‥__いっそ切ろうかしら‥__」
「‥メアリー。」
「わっ、ルークじゃない!どうかしたの?」
「その髪、切るの?」
「え?‥うーん、それで今悩んでるのよね。邪魔だからルークみたいに短く切ってもいいんだけど、でも折角作ってくれたんだからそう簡単に切るのも申し訳ないなぁって。」
「‥ボクは切らない方がいいと思うよ。」
「どうして?」
「さぁ、どうしてだろう。」
「なによそれ!また秘密にするの!?」
「いや、そういう訳じゃないんだ。ただ‥メアリーは髪が長い方が似合ってると思った。本当それだけなんだけど、理由としては不十分かなと思ったから伏せただけ。」
「いや、その理由は不十分なんかじゃない!凄い嬉しい!私ってやっぱり髪長い方が似合う!?」
嬉しすぎてルークの手を握ってしまった。ルークが驚いた顔をしている。そりゃそっか。
「え、あぁ、似合うんじゃないかな。少なくてもボクはそう思うよ。」
「なら伸ばしたままにしとく!」
「ボクの意見で決めてよかったの?自分自身の意見が大事だと思うけど。」
「自分じゃ決められなかったの!だからルークの意見にすっごく助かった!」
「‥ならいいけど。それより手離して。」
「あ、ごめんなさい!」
ルークが私の為にと少し埃を掃いてくれた部屋で、二人しか知らない会話をした。私達以外来ない部屋で、二人きり。態々誰かに話す事ような特別な思い出ではないけれど、確かに私の心に残る大切な思い出。これが、この髪を切らずに過ごし続けた理由だから。
♢
「‥」
ロッキングチェアから立ち、少し離れた位置にいる人形に声をかける。確か名前をルオナと言ったはず。
「こんにちはルオナ。少しいいかしら?」
「どうかしたのメアリー?」
彼女は動物と戯れながら会話に応じてくれた。
「少し探している物があるの。それを工場内で見た事があるかを聞きたくってね。」
「いいよ!探してる物ってなに?」
「あのね‥」
ルオナに聞いてみたら、見た事があるらしい。なら壊れてるかもだけどまだ瓦礫の下にあるだろうと思い、私はルオナに感謝をしてから工場があった場所へと向かった。
♢
「‥この瓦礫全部の下を探すのは大変ね‥」
あの工場自体少し広めだったから、瓦礫が広がればもっと広くなるわけで。その下全部探して《《あれ》》を見つけるのは大変だ。探すのは諦めよう。そう思って引き返した。
「‥いや、これは私のケジメをつける為に大事な事よ。例え何ヶ月かかっても探し出してやるわ!」
私は瓦礫に手をかけて一つ一つどかし始める。
何千時間とかかる作業だけど、途中でやっぱり諦めようと思うまで続けてみようと思った。ルークの為‥いや、私の為にやるべき事だから。
♢
「‥もう駄目、やる気が起きない。」
何時間かして朝日が真上に登った頃。私は一人瓦礫の上で手をついて倒れていた。瓦礫の山の中から探し物を見つけるなんて無謀すぎたのよ。もはや誰かに持ってるか聞いた方が早い気がしてきたの。
「‥そうよ、誰かに聞いてみればいいじゃない!」
瓦礫から離れて花が咲いている庭へと走ろうとした時、太陽に照らされて何かが光ったのが見えた。私は走ろうとした足を止めて、光った場所へと歩いて行った。
「‥鏡?」
そこにはキラリと輝く鏡があった。少し壊れていたけど、まだ全然使えそうな鏡。折角なら貰っていこうと手に持って、また走り出した。
結論から言おう。
とある人形が私の探していた物を持っていた。
私はそれと鏡を持って集まりの離れに座り込んだ。瓦礫の上に鏡を置き、自分が写っている事を確認してからそれを持ち、髪に手を通した。
「‥ありがとう、ルーク。」
ジャキン。
風の音を切り裂くような音が私の耳に届いた。
地面に白い髪の毛が散らばった。頭のてっぺんから髪に指を通し、下ろしていく。それは、いつもよりずっと短い位置で髪が終わった。それから鏡の中に映る自分を見つめる。
私の髪は、ルークのように肩までになった。
♢
「メアリー、髪どうしたの!?」
皆にそう驚かれた。まぁ、一人にだけ微妙な反応をされたけれど。私はそんなの気にしない。私はただ、この気持ちにケジメを付けたかっただけだから。初めから全員から似合うと言われるなんて思っていない。
「少し邪魔になったの、この髪が。」
皆にそう話した。邪魔だったのは本当。前から動くときに少し邪魔だと思っていたから。短い髪の方が何かと気楽そうだったのよね。
「‥貴方は、この髪を似合うと言ってくれる?」
空を見上げながら、そう呟く。本当の彼は空ではなく、瓦礫の下にいるのだけれど。魂くらいは天国という場所にでも行けたのかな、と思う事は決して悪い事ではないだろう。きっと貴方は、私がどんな髪型でも似合うと言ってくれるのでしょう。それでもいいの。私、貴方ともう一度話がしたい。
「貴方と、一度思い出話でもしたいわ。」
本で読んでから密かに憧れていた事、思い出話。何もかも落ち着いてから、昔あんな事があったな〜、あれは面白かったな〜って話す予定だった。貴方も絶対生き残ると思っていたから。
少しだけ、私一人生き残るのなら貴方と死んだ方が良かったかもとか、少し思ってるの。
「でも駄目よね。折角貴方が残してくれた命だもの。‥人形も命でいいのかな?」
自分の関節にある、人間にはない繋ぎ目を見つめた。私は人形、私を作った人は人間。私が人間になる事はできない。たまに少しだけ、人間になりたいと思う。人間にしか出来ない事があるのは羨ましいし。貴方を作る事が出来るのも人間だけ。作れたのなら、どれだけ嬉しい事だろう。
叶わない夢を見るのは駄目な事?希望を持つのは駄目な事?過去を振り返るのは駄目な事?
貴方との思い出を思い出すのは、駄目な事?
♢
「‥また図鑑を持ってきたのかい?」
「えぇ!今度は『花言葉図鑑2』!」
「この前と内容が変わっただけじゃないか。」
「だから一緒に読むんでしょう?さ、またお互いに似合う花を探しましょう!」
「全く、面倒だなぁ‥」
「いいじゃないちょっとくらい!」
「‥フリージアのページしか残ってないようだけど?」
「え?あ、本当じゃない!嘘、このページ以外全部千切られてるとかあり得るの‥!?」
「あり得ちゃったね。」
「えぇ‥じゃあもう読むの諦めようかしら‥」
「フリージアだけでも読めばいいんじゃないの?いい花言葉があるし。」
「そう?‥んー、これしかないんだったら私と貴方の選んだ花が一緒になっちゃうかもしれないわね‥それはつまらないわ!」
「いいじゃん、被ったら被ったで笑い話になるよ。」
「‥ならいいの!ルークがいいなら私もいい!」
「なにその考え‥」
「いいじゃない気にしないで!んー、私は紫色のフリージアをルークにあげる!」
「花言葉は《《憧れ》》、ね。僕に憧れ?」
「私が貴方に憧れているという意味よ!いつも冷静なところとか、優しいところとか!」
「へぇ‥なんか嬉しいね。」
「でしょう!」
「ならボクは‥ピンクのフリージアをメアリーにあげる。」
「花言葉は‥《《親愛の情、友情、感謝》》‥?私に、ルークが?」
「ボクらはペアで作られた人形だ。親愛の情とか友情ってのはそこから。感謝は‥内緒。」
「え!?ど、どうして!?」
「なんでも。どうしてかなんて、そんなの渡す時に言えばいい。」
「それはそうだけれど‥なんか気になるじゃない!楽しみな事が増えるけど、それまで待つのが大変だわ!」
「それでも待っててよ。とびきりのサプライズを君にしてあげるから。」
「まぁ!この前読んだ恋愛小説みたいな事言うのね!」
「なにそれ、口説いてるって事?」
「クドイテルって言うのは分からないけれど、多分そう!」
「‥__恥ずかし。__」
「何、どうしたのルーク!去ろうとしないで!」
「無理。」
「どうしたのよルーク‥」
結局、その日ルークと会う事はなかった。
次の日会った時は何も無かったかのように接してきたから私も何も無かったように接した。
今では貴方がどうしていなくなろうとしたのかよくわかるわ。私はそう思わないけど、貴方はそう思ってしまう性格だから、ただ恥ずかしかっただけなのよね。多分、そうなんでしょう。
♢
「‥沢山の思い出があるわね、貴方と私。」
風で靡く髪を抑えながら瓦礫の山を見る。いつの間にか空は日が落ち始めていた。
リーヴァと出会って、他の皆と楽しい事だけじゃない思い出を作って、工場は壊れて‥貴方もいなくなってしまって。
貴方との新しい思い出がこれから増える事はないし、思い出の物も無くなってしまった。私の心に残っている思い出以外、貴方との関係を示すものがなくなってしまった。私がこれを忘れてしまったなら、貴方を覚えてる人はいなくなってしまうかもしれない。貴方から離れられないの、私。昔の思い出がギュッと心を締め付けて、悲しみでいっぱいになる。
私は、ルークがいなくなった事にいつまでも悲しんで、そこでずっと立ち止まってしまっている。リーヴァ達はずっと先にいるのに、私一人だけ壊れた工場から離れられていない。でも、そんなのは駄目だと、きっとルークは言うだろう。ルークはなによりも私の事を大事に思ってくれていたから、自分のせいで私が動けなくなっていたら無理にでも忘れさせようとするはず。私は貴方を忘れたくないのに、進む時が貴方を忘れさせようとしてくる。
髪を切ったのは、貴方を忘れない為。
どうして髪を切ったのか、貴方を忘れそうになった時に思い出せば貴方を忘れずにいられると思ったの。今の私と同じように髪が短くて、何よりも私を大事に思ってて、私とそっくりなお人形がいた事を、ずっと忘れずにいられると。
貴方のいない世界で、今日もまた生きている。
貴方が皆の記憶から消えてしまっても、私は記憶から消さない。何があっても、壊れるまで一緒。
いつか私達を拾ってくれる人に出会えたら、その時は貴方の話をするの。私にはペアの人形がいた事、その人形はとても、優しかった事を。
貴方は私を好きだった。私も貴方が好きだった。
瓦礫の山に向かって声をかける。
「また何処かで会えたら、その時は声をかけてね。」
私は瓦礫の山から離れて、皆のいる庭へと歩く。
きっともう、ここには戻らない。
今の私は、貴方がいない世界で生きれるから。
私の大切な人。
お疲れ様、また会う日までゆっくり休んでね。
輝く夕日の下で、ハナニラが散っていた。
ハナニラの花言葉
「悲しい別れ」
「卑劣」
「愛しい人」
「耐える愛」
「星に願いを」
「恨み」
この話の中で意味があるのは「悲しい別れ」「耐える愛」です‼︎それ以外はあんま気にしないでください(