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神隠異変ノ章 前編
「はぁ!?何物騒な異変が起きてんの!?」
その異変の内容を聞いた時、わたしは絶句した。
いままで、暗くなったり、戦闘意欲が普通じゃないレベルで収まっていたけど…
「そうなんです…草花さんと、メルがさらわれちゃったんです。お金に糸目はつけません、どうか、この異変を解決してください!!」
「いや、まあ、やるけど…」
このレベルの異変はなかなかない。
「やあやあこんにちは」
「どうしたのよ…この異変もめんどくさいけど、それを上回るくらいにめんどくさいやつ」
「誰ですか?」
ああ、新入りのメロ・アスメルは知らないっけ。
「酔取打尤」
「えっ?よいどれだゆう?」
「儂は酔取打尤。ことわざや慣用句を具現化する程度の能力を持つタヌキさ。いまの異変、儂なら解決できる。ただし、報酬はそれなりにもらう」
ことわざなどを具現化する…これが厄介で、敵に回したらきついタイプのやつだ。
でも、ことわざになっていなければ通用しない。あるいは言えないようにしたら武術には長けていないので大丈夫。
「酒一瓶。これでどうだ」
「ああ…メロ、こいつはかなりの酒飲み。いっつも酔っていて、|素面《しらふ》のときは見たことがない。酒さえあげればなんでも言うことを聞く、ある意味単純なやつよ。この会話も、ちょっと小さくするだけで酔ってるから普通に聞こえてない」
「へぇ…相変わらずクセの強い人」
はーー、とため息をつく。
「こんなやつでクセが強いって言ってたら、この先どうなるか分かってんの?」
「…なんかすごいのが見えた気がします」
腰にかけている瓶はいつも酒が入っている。無限に湧くのだ。
「んで、何をしってんの?」
「壁に耳あり障子に目あり。儂の仲間が何かもくろんでいた。協力しようじゃあないか」
「いいんですか!」
あーあ、新入りはやっぱり純粋なんだから。
「こいつは相当なやつ。下手に一緒に行動したらどんなめに遭うかわからないから覚悟しておきなさい」
「あ、はい…」
はなねクリニック付近の森には、危険な奴らが集まっている。
そこに、狸の集団もいたはずだ。頭領は、打尤である。敵対している狐の頭領が、多分、異変の元凶だ。
「さあ、行くよ。思い立ったが吉日、いまから行こうじゃないか」
メロ・アスメルと打尤とわたし、なんて異色なメンバーなんだろう。