公開中
夜風の靡く夜景の上で
リクエスト作品。
結構重い話になっちゃったかも。
夜風の|靡《なび》く夜景の上で
私は何を思うだろう。
哀愁?
いいや。違う。
街はまだ灯りがついている。
目を閉じてしまうのはもったいない。
期待?
これも違う。
星一つないこの夜空に
これ以上どんな思いを馳せればいいのだ。
ビルの明かりは私を貫通し、
淡い想いを消し去った。
“言葉にならないこのシーン”
静けさ?
多分、違う。
トーキョウは月が登っても活気は沈まないようだ。
昼とはまた違った店の|暖簾《のれん》が登る。
私はオトナの階段を昇る。
月光が人混みに散る。
|太陽《ヒカリ》では見えなかったものが全て見える。
“OKの指示はまだだろうか”
羞恥?
どこか、違う。
人の流れは止まらない。
私の思いは留まらない。
まるで液体みたいに。
甘いリンゴジュースはここにはない。
底がないチョコレートソースと
どろっどろの濃いいちごジャムが
混ざったものがここにある。
月光はそれを素直に照らす。
私達を馬鹿にしているようだ。
いこう。
“早くしないとこの|滑走路《決められたレール》からハズレてしまう”
絶望?
分からない。
私はしていない。
でも、ないとも限らない。
こんな腐った都市なんて
一度地の底に堕ちてしまえばいいのだ。
“「この飛行機の行き先は、あなたの心臓です」”
憂い?
近い。かもしれない。
私が唯一願うことは、
この液体が途切れないこと。
「都会」の冷たさに固体に戻ってはいけない。
でも、行き場のない優しい熱圧に気体になってもいけない。
“下を見てみてよ。”
今日もふやけた一滴を狙って、周りに人だかりができている。
液体のようにどこまでも流れていた人々が
気体になって続々と消えていく。
弱肉強食だ
なんて。気持ち悪い。
ただ、消えていく人達は
皆幸せそうな顔をしている。
頭が麻痺しているんだ。
数ある夜景の中で、
これだけは嫌だった。
“「これがトーキョウ,,,?」”
観ているだけじゃ我慢できない。
「行こう。」
「降りるの?,,,嫌だよ。怖い。」
「大丈夫。大丈夫だよ。」
景色をおかずに最後のビール缶を開け、
二人で分けて飲む。
「ほら。もう怖くないでしょ?」
「,,,,,うん。」
景色の真上に立つ。
もう少しで夜明けなのに、
誰も気付かない。
「綺麗だね。」
「うん。」
夜風が強くなり始めた。
お陰で、目に水が溜まる。
「さいごに,,,,ひとつ,,,言っていい、かな。」
「,,,,?」
「最っ高!!」
「,,,うんっ,,,うん,,,うん!!,,,」
私達は泣き顔を合わせて、
いった。
夜空をバックに視えた景色はとても美しかった。
初めて、私達が存在できている気がした。
落ちていく。どんどん。どんどん。
目が覚め、場が冷め、酔が覚め。
私達だけじゃないんだ
やっと気付いた
夜空が靡く夜景の上で。