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燃えゆく命の灯火を。
夕暮れとしては異常なほど真っ赤な空。
そんな空に一台の戦闘機が飛んでいた。
--- メーデー メーデー ---
揺れる地面と崩れる世界。
戦争開始から暫く経った筈だけれど、もしかしたらまだ全然経ってないのかもしれない。
呼吸がしづらく、視界がぼやけていた。
私は今、何処にいるのだろう。
目の前の《《赤黒い何か》》に問いかけた。
♢
「‥」
--- メーデー メーデー ---
まだ成人していないのに戦争は送り出された。
女だろうが男だろうが関係なかった。
その国に生まれた時点で戦わなきゃいけない。
夕暮れというには異常すぎるほど真っ赤な空。
トワイライトの一族が動き始めたんだ。
トワイライトの一族は、夕方だけ力が二倍になる。戦争が起きれば、無理やり夕方に時間をずらすのは自分達が有利になる為。私利私欲に塗れた大人が大量にいるどうしようもない国。
壊れた戦闘機に潰されて意識が朦朧としている。
何も出来ず、ただ空を眺めるしか出来なかった。
もう助からない事なんて分かりきってた。
掠れた呼吸の合間合間で目の前の何かに問いかける。何かはわからない、謎のバケモノに。
「私‥死ぬ‥の‥?」
その声が届いたのかはわからない。けれど、届いてなくても何も変わらない。答えは「死ぬ」だけだから。
「‥」
目の前の人の形をした何かはただ私を見つめてた。
「生_タ_カ?」
「‥」
何を言ってるのかあまり聞き取れなかった。
もう駄目なのか、それともそう言う声なのか。
「‥死にたく‥ない‥ねぇ‥」
生きていたかった。
こんな地獄みたいな世界でも、ボロボロの手で命を掴んでいたかった。こんなロクデモナイ世界でも生きていたかった。
この世界の駄目な所に気付いてしまった時からずっと、死にたかった。なのに、いざ死ぬとなると生に焦がれるだなんて。私って何がしたいんだろう。もう、何もわからない。
私は強烈な眠気に身を任せ、目を閉じた。
そして呼吸が止まり、心臓も止まっていき___‥
「‥イチはゼロにならナい。」
--- 「“ ℛℯ𝓁𝒾ℯ𝒻 ”」 ---
♢
「‥」
「ふふふ〜んふふ〜ん♪」
目を開けることは出来ないけれど、段々と聴力が戻って来る。聴こえたのは時計の針が動く音と何かを捲る音、そして誰かの鼻歌。
私はそこで気付いた。何故か生きている事に。
あの時にはもう救いようがないほど死にかけていたはず。天国などではないだろう。このベットと柔らかく甘い匂いはこの世界のもののはず。
そんな事を考えている内に鼻歌が消え、木の葉が揺れる音が聞こえ始める。戦争の音が嘘のように消えている。
「‥あれ、目が覚めた?」
その声に答えるように瞼を開ける。急に真っ暗なところから明るい場所に来たからかとても眩しかった。
「‥ぁ」
「声無理して出さなくていいよ。喉がちょっとおかしくなってるみたいだから。」
その人は全身が白く、儚い印象を持った。そして優しく微笑みながら、カーテンを閉めて部屋から出ていった。
「少しだけ待ってて、兄さんを呼んでくる。」
その言葉の後に扉を閉められた。
起き上がって部屋を見渡すと、この部屋は病室のよう。綺麗な白のベットに寝させられ、サイドテーブルと先程の人が座っていた丸い椅子以外に何もない部屋だ。
天井には汚れひとつなく、カーテンは完全に閉められて光一つ入ってこない。
ここが何処なのかわからない。
けれど、それより分からないことがある。
どうして私は生きているのか。
♢
扉の開く音で目を覚ました。どうやらまた眠ってしまったようだ。
「起こして悪かったね、私の事が見えますか?」
「‥」
「声を出すのが難しかったら‥手を挙げてください。」
私は手を挙げた。ピンと大きく挙げれなかったので下の方で小さくだけれど。
「有難う御座います。何処か体に異常はありませんか?」
私はまた手を挙げた。きっとこれが「はい」の返事代わりになるんだろう。
「異常無しですか、有難う御座います。では、何かあったらまた呼んでください。《《シェリア》》、面倒見てあげてね。」
「わかってるよ兄さん。」
シェリアと呼ばれた先程の人は、お兄さんが出て行った後扉を閉めて、丸い椅子に座った。
引き出しの中から小さなノートを取り出し、ペンで何かを書こうとしていた。
「んー‥自分の名前わかる?」
その問いに戻ってきた感覚を使って返事をする。
「‥《《レルヴィ》》。」
少し声が掠れたが、その声はちゃんと相手に届いたようだ。彼はペンでノートにささっと何かを書く。きっと私の情報だ。
「成程‥レルヴィね。じゃあ年齢は?」
「‥18、とか。」
「次‥性別は?」
「‥女、のはず。」
「んー‥あとなんかあるかな‥」
彼はペンをカチカチ鳴らしながら次に聞くべきことに悩んでいるようだった。基本情報はまだある筈だけど、彼は一体いくつなのか。
「‥戦闘機に、押しつぶされて死んだ‥筈。」
「‥」
「‥私を、拾ったのは‥貴方達?生き変え、らせたの?」
「‥?」
彼は私が何を言っているのかわからないと言うような顔をした。でも、死んだ筈の人間が目の前で生きていたら普通困惑するか。
「死んだ筈って‥だって、君は自力でここへ来たんだよ?」
「‥ぇ」
今度は私が困惑する番。彼が何を言っているのかわからない。だって確かに私はあの時、死んだ筈。
「僕らがこの建物の中に逃げようとしてたら君が来て、『助けて』とだけ言って倒れたんだけど‥もしかして、その時の記憶ない?」
「‥ない。」
そんな事なかったはず。だって、私は死んだ。
絶対に死んだはずなのに、歩いてここまで来たなんて。そんなの可笑しい。
「‥記憶なかったら、無理に思い出せだなんて言わないよ?無理しないでね。」
そう言い、彼はニコニコと笑う。
「‥戦争は、どうなったの?」
「‥知りたいの?」
彼の顔から笑顔が消えた。いや、口元は微笑んでるが目が笑っていなかった。
「‥親友を、置いてきたから。」
私の生まれ育ったあの国に、親友がまだいるから。生死だけでも‥戦争の現状が知りたい。
「‥今は、外を見ない方がいい。」
「‥どう、して?」
「‥トワイライトの一族が暴れ回っている。空は開戦後からずっと夕暮れだ。異常な程真っ赤なね。」
私が死ぬ前まで見ていた景色が、今もなお続いている。私もその一族の血を引き継いでいる。
私もいつか、あの人達のように戦争を繰り返し、権力を悪用する人間になるのか。
「‥メルマイユは崩壊間際だ。トワイライトに何度も壊されかけている。あちらの国の王子様がとてつもない能力者だから、なんとか持ち堪えてるって感じ。」
メルマイユの王子。
それはどの国のどんな人間でも知っている人間だ。幼いながらに強力な能力を持ち、「救世主」とまで呼ばれている存在。
「東の国‥《《ヘルーマ》》はメルマイユとほぼ同じ状況。でも、メルマイユよりはマシかな。リーヴァと同盟関係にあるから狙われてる。」
ヘルーマは昔からメルマイユと同盟関係にある。
トワイライトが狙うのは当たり前か。自分達と同じくらいの能力者がいるリーヴァを壊したいなら、復興を手伝いそうなヘルーマも壊したい。
「西の国‥《《ミレイヤ》》は狙われていない。壊す理由がないからね。なんならリーヴァと敵対関係にあるから狙わない方がいいでしょ。でも、中心に近い場所は被害を受けている。」
ミレイヤはメルマイユと敵対関係にある。
戦争ではメルマイユとヘルーマが協力して、ミレイヤは孤立しているように感じる。何処とも協力しあわない国として有名だ。
「そしてこの国‥《《セラメデス》》は被害を受けていない。だって、他の国が手出しできないほど恐ろしい国だから。それに、戦争の火種は僕らだし。」
皆、トワイライトの一族が恐ろしいんだ。
この世界を滅ぼす力を持った一族。今わかっている能力者以外にも大量の能力者がいる。力だって何処まで強いものか分かっていない。
何もわからぬ故に恐ろしい。
「‥私は、帰らなきゃ。」
「どうして?」
「‥どうせ、一度死んでる、から。親友を、置いてけない。」
「‥ここには、沢山の死傷者がいる。その中に君の親友がいるか確認してから行ってもいいんじゃないのかな。」
失うものを多くする必要はないよ。
彼はそう言った。その言葉の通り、ここに友人がいるかもしれない。確認してから行ってもいいんじゃないかと思った。
「‥連れ、てって。」
「‥兄さんには内緒だよ?」
彼は私の手を取った。
♢
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
外へ出てからずっとこの通り。悲鳴しか聞こえない。先程までいた部屋が防音だった事に感謝した。
「五月蝿かったら耳塞いでてね。痛がってる人に『叫ばないで』なんて言えないから。」
彼は私の手を引きながらそう言った。彼のお兄さんがいる病室を通ってから詳しく話したいとの事。
「‥で、そのお友達の名前は?」
「‥ミチル。女で、紅色の髪をしてる。」
「ミチルさんか‥んー‥ちょっと待って、名簿を見よう。それで名前を探してみる。」
「‥出来る、の?」
「大丈夫‥なはず。君は見つからない事だけ考えてて。」
彼が着ていた上着を頭に被せられた。顔を見せるなってことだろうか。
「名簿何処にあったかな〜‥」
彼が廊下を歩きながら呟く。私は病室が気になって周りを見渡した。その時、私は初めてこの異変に気がついた。前の私と違うところを。
「‥どうして、髪が白く‥」
私の髪は水色だったはず。目もこんなに真っ黒じゃなかった。青色のはず。どうして、こんな姿になってるのか。私は何故か、白黒な見た目になっていた。
「‥ねぇ、貴方。」
「ん?貴方って僕かな、どうかした?」
「‥私は、初めから、この見た目、だった?」
出会った時からこの姿だった?
そう彼に問いかけた。
「うん、助けてって言った時からずっとその見た目だけど‥やっぱりどうかしたの?」
「‥」
声も前のようにスラスラ出ない、見た目も前とは違う、表情が動かない、今考えれば異常だらけだ。
やはり私は、一度死んでいたらしい。
♢
「えーっと、ミチルミチル‥」
名簿をペラペラとめくりながらその名を探す。
生存確認が出来ていない人や、ここにいる人の名前が書かれている名簿。そこに名前がなければまだ生きていると言うことらしい。
私は、先程の異常をすぐに受け入れることができた。見た目と喋り方が変わっただけで特に生活に支障はないから気にする事ない。
「うーん‥ここにはミチルさんがいないみたい。次はこっち、あまり見たくない死亡者名簿。」
そう言いながらページを捲り出す。ページを捲る音だけが聞こえる部屋で、私は友人がどうなったかを考え続けていた。
そんな彼の手は、とあるページで止まった。まるで見たくはない文字を見つけたかのように。
「‥ミチルの名が、あったの?」
「‥ごめん、あった。」
彼が謝る事ではないのに、顔を伏せて謝っていた。私はそのページを覗き込む。
--- 死亡者名簿 【3】 ---
--- “ ℳ𝒾𝒸𝒽𝒾𝓇𝓊 ” ---
「‥ミチル。」
思い出すのは明るい笑顔で私の手を引く姿。
昨日のことのような思い出せる記憶が沢山だ。
もう、その記憶達が更新されることはない。
「‥苦しかった、よね。お疲れ様、おやすみなさい。」
ミチルの名前をなぞりながら、ミチルのことを思いながらそう言った。心を落ち着かせる為に、深呼吸を繰り返す。
「‥ありが、とう。」
「‥もう帰る?」
「‥えぇ、帰る。」
「‥無理しないでね。」
彼は私の頭に手をのせ、優しく撫でる。
昔、母に頭を撫でられていた事を思い出した。
♢
メルマイユの王子の働きにより終戦したのが、少し前の話。平和な日常が戻って来るかと思えば、この病院には別の問題が発生していた。
「娘は、助かるんですよね、ね?」
「‥全力を尽くします。」
ヴィスと呼ばれるバケモノがとある少女に寄生した。その少女が、ここにいる。普通に寝ているように見えるが、その体の中ではヴィスが今か今かと外へ出て来るタイミングを見計らっている。いつ体を突き破って出て来るか分からない。だからこそ恐ろしい問題なのだ。
「お父様、少し落ち着いてください。」
「娘が死ぬかもしれないのに落ち着けると?」
その娘さんのお父様が先程からシェリアと軽く揉めている人。奥さんは娘さんの横で手を握っている。その顔は初めてお会いした時より少しやつれているように見える。
「ですから、出来る限り努力致しますので___」
シェリアが旦那さんを説得していた時、
グチャ
変な音が聞こえた。何かを突き破るような音。
その音で娘さんの方を見ると、首と頭が離れていた。そこからバケモノが現れ、近くにいた奥さんの体を裂いて寄生した。裂かれた傷は見る見るうちに回復し、何もなかったかのような肌になった。服も治り、そこにいたのは先程と何も変わらぬ奥さんだ。
「どうかしたのアナタ?」
奥さんの声そのもので喋る。
ヴィスが寄生する瞬間を見られたと言うのに、まだ芝居を続けるのか。
「お前は、お前はソニアじゃない、バケモノだろ‥」
「何を言ってるの?私はソニアよ?」
「違う!今確かに、お前の体は裂かれて‥」
「?」
奥さんは何もわからない顔をしていた。本当に何も知らない、と言う顔を。今目の前で起きたことを誰もが見ていた。娘さんの死体も、すぐそこにある。なのに何故何も知らない顔をしているのか。
「‥ヴィスに寄生された本人は自覚がないのか‥参ったな。」
シェリアが困ったような表情をして旦那さんに小声で話しかける。
「奥様はもう、助かりません。今ここで静かにあの世へ見送るか、いつ死ぬかわからない状態でこれからを過ごすか。」
旦那さんは絶望の表情をしていた。目の前で娘を亡くし、妻も失うしかない状況だ。絶望しない方が可笑しい。
「‥私が、何か致しましたか?何か、いけなかったんですか?」
奥さんがシェリアさんに問いかける。その顔は不安でいっぱいだ。
「‥ソニア。」
旦那さんが奥さんをそっと抱きしめる。壊れものを扱うように、優しく抱きしめた。心の準備が必要だろう。私とシェリアは二人を静かに見ていた。
数分後に、奥さんが死ぬまで。
♢
「‥」
髪が風に靡く。
今私は、昔病院があった場所に立っていた。
救われたあの日から二年。沢山の死を、沢山の絶望を見た。何人も謎の死を遂げた人がいた。死ぬかもしれない恐怖から逃げ出したい日々が続いた。
それでもここで生きていたのは、シェリアがいたから。救ってもらった恩を返すために、この国を離れなかった。
けれど、シェリアはもういない。
この国ではない何処かへ消えてしまった。
寝て起きたらもう、ここにはいなかったから。
何処に行ったは想像がつく。彼が前から行きたいと言っていた国、“メルマイユ”だ。
メルマイユに彼はいるはず。私はもう一度、会いに行かなくてはいけない。戦争を繰り返さない為に‥トワイライトの一族を全員殺す為に。
この国を離れ、敵国のメルマイユへと向かう。
彼に会って話をするために。この体の謎を解き明かす為に。
♢
「‥」
メルマイユについてから何日かした時、やっとシェリアに会った。少し雰囲気が変わっていたけれど、それは確かにシェリアだった。髪型や髪色、目の色や背丈、体型や歩き方がシェリアにそっくり。
やっと会えた事に対する喜びと、突然いなくなった怒りが混ざってよくわからない感情になっていたが、取り敢えず話してみなきゃわからないだろう。
そう思い、すれ違った時に私はシェリアの腕を掴んだ。するとシェリアは足を止め、此方を振り返る。
「‥」
「‥えーっと、どうかしました?」
困った顔で私を見る。思っていた返答じゃなかった。レルヴィと呼ばれなかった。久しぶりとも、ごめんとも言われなかった。
「‥シェリア、久しぶり。」
「‥」
彼は目を見開き、驚いた顔をする。その後申し訳なさそうな顔になり、こう言った。
「‥ごめんなさい、どちら様ですか?」
「‥ぇ」
いつか見たあの人のように、何もわからないと言う顔を‥本当に知らないと言う顔をしていた。まるで、
まるで記憶を失ったかのように。
♢
「‥えっと、僕達は昔知り合いだったのかな?」
彼の家とやらに行き、目の前に出された紅茶を見ながら彼の問いに頷く。すると彼は話し始めた。
「‥ごめんだけど、覚えてない。記憶喪失とやらみたいでね、昔の事を覚えてないんだ。覚えているのは、そこの裏路地で倒れていた時から。‥ごめん。」
彼は頭を下げた。彼が謝ることなんて何一つない。記憶を失った理由はわからないけど、きっと何か事情があってのことだから。責めようとも思わないし、責められる理由もない。
「‥謝らなくて、いい。」
紅茶を一口飲む。昔彼がよく飲んでいた味だった。記憶を失っても好物は変わらないようだ。
「‥その、昔の僕の事を教えてくれないかな?」
「‥どうして?」
「だって、僕は昔を覚えてないんだ。君が教えてくれれば、記憶が戻ったも同然じゃないのかな。」
「‥」
思い出すことは戦争の事、お兄さんの事、ソニアさんの事、ヴィスの事。どれも死に関係していることだ。嫌な記憶を思い出すくらいなら失ったままの方が幸せなんじゃないのかと、そう思った。
「‥思い出さない方がいいことも、ある。」
彼には全てを知らないままでいて欲しかった。
「‥いい事がなかったんだね、昔は。」
私が伏せた事で、彼は察してしまったらしい。
昔から勘が鋭いから気付くのではと思ってはいた。けれど、少し気付かないでいてくれるかもと思っていたんだ。
「‥まぁ、ね。」
私も昔の記憶を消してしまいたい。
記憶を消して、幸せに暮らしてみたかった。
けれど、トワイライトの一族である事と、《《ヴィスに寄生されたこの体》》がその願いを叶える事を許さなかった。
♢
私がヴィスに寄生されている事に気付いたのは、シェリアがいなくなった後。
ヴィスに寄生された人の血は黒かった。
私の血も前とは全然違く、黒だった。
ヴィスに寄生された人の目は黒かった。
私の目も前とは全然違く、黒だった。
それでも死なずに生きていられるのは、私に寄生したヴィスが優しかったから。
あの時、戦場で出会った赤黒いヴィスに私は寄生されていた。あの時から私は普通の人間ではなくなっていたのだ。
人を殺すようなヴィスは、自分が自由に動きたいから・生きる為の仕方ない行為だから・普通に生きたいからなどの理由があるらしい。この体のヴィスが教えてくれた。
それに対してこのヴィスは、外に出たい訳でも、人を殺したい訳でも、生きたい訳でもなかったらしい。あの場で私を生かす手段がそれしかなかっただけで、あのまま消えてもよかったそう。
ヴィスと一緒に生きていることは世間から見れば“異常”だ。差別されること間違いない。
だから隠している。シェリア以外にこの体の秘密を知る者はいない。
ヴィスが嫌いなんじゃない、殺人が嫌いなんだ。
♢
ヴィスに寄生された生き物を救う為にシェリアが立ち上げた組織・リュネット。そこに何人も人が入っていき、賑やかな日常になっていた。
それから少しした時、とある新人少女が来た。
「初めまして、アレル・ミスリアと言います!」
アレル・ミスリアと名乗った少女を見て私は驚いた。だって、あまりにもミチルに似ていたから。そこにミチルがいるように思えてしまう。ミチルはもういないのに、ミチルにしか見えないかったんだ。
「アレルくんの指導は基本僕がやるつもり。でも、ど〜してもそれが難しい時は‥レルヴィに任せてもいい?」
「‥勿論。」
「よろしくお願いします!」
ミチルより身長は高いし、服装もミチルが着てるようなものじゃない。ミチルは死んだのに、ミチルが生きてるみたいだった。
「‥産まれは、何処?」
「え?」
「‥貴方の、出身国は?」
「え‥メ、メルマイユですけど‥」
「‥ごめん、人違いだった。」
「いえ、大丈夫です!」
そう言い、照れ笑いする彼女。
その後は他のメンバーともすぐに打ち解けて、仲良くしていた。シェリアに頭を撫でられたり、偶々来ていたケリックにお菓子をもらっていたり‥彼女は「可愛い妹」感があるのだろう。
私は、彼女をどう見ればいいのだろうか。
♢
明日は当たり前に来るものじゃない。
明日、ヴィスの気が変わって死ぬかもしれない。
明日、事故にあって死ぬかもしれない。
明日、戦争が始まって死ぬかもしれない。
明日、あの一族に殺されるかもしれない。
明日、ここから追い出されて死ぬかもしれない。
明日の可能性は数えきれないほどある。
幸せの可能性も不幸の可能性も同じくらい。
そんな世界で幸せを掴むのは、大変なこと。
何かを手に入れた時から失う事が決まっている。
一生手にしたまま過ごせるものなどない。
“幸せ”はこの手から簡単にすり抜けていく。
“不幸”はこの手から消えることがない。
不平等な命の世界で今日もまた生きている。
毎日何処かで誰かが消えてしまっている。
そんな全員を救うなんて無理かもしれない。
そう思い、歩みを止めてしまうことがある。
けれど、思い出して。
確かに私は誰かを救えている。
存在しているだけで喜んでくれる人がいる。
救いたいのなら悲しませてはいけない。
ゆっくりでいい。一歩一歩確実に歩き出すの。
そしたらきっと、
「おいで、レルヴィ。」
|貴方《私》を救ってくれる人に出会えるから。
--- メーデー ---
今までで一番長い9030文字‼︎
ピッタリ嬉しい!!なんか気分上がりますよね‼︎
まぁ投稿したら文字数減るんですけど(
シェリアさんの過去についてちょびっと触れたり、レルヴィちゃんの過去はガッツリと公開できたんじゃないかと思います‼︎
ヴィスに寄生されたレルヴィちゃん、記憶を失ったシェリアさん、正体がよく分からないアレルちゃん達が本編でこれからどうなっていくか、楽しみに読んでくれると嬉しいです‼︎
それでは‼︎