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推しと私の寿命はあと××日
晴瀬です。
ヤナギ様にリクエスト、ご協力して頂きました。
ありがとうございます。
ヤンデレです。重いです。
長尾景さん、というVtuberの方が死んじゃいます。
苦手な方はUターン。
狂う愛の話です。
アパートの階段を駆け上がる。
こんな力が残っていたのかと思うくらいの速さだった。
「いいい…」
太腿が、ふくらはぎが叫ぶのと同時に私も唸る。
あとちょっと、あとちょっと。
最後の一段を蹴り、鍵を秒速で出し玄関を開ける。
靴をほっぽり、鞄をその辺に投げながらスマホを出す。
我ながら神だ。
神の速さだ。
スマホを起動し確認する。
何を、って?
私には推しがいるんだよ。
にじさんじの長尾景くん。Vtuberで。
本当に、この人は神なの。神様なの。
この人のお陰で生きてると言っても過言じゃない。
この人のお陰で、新しい推しもつくれたし、新しい世界を知った。
私の将来の夢?みたいなのも見つけたしさ。
将来の夢?教えるわけないじゃん。
あなたもこの人推したら分かるから。
ちなみに私は大学生。
名前は、|月見《つきみ》|草華《そうか》
ふう、とため息をつく。
良かった。良かった。間に合って。
いつもこの時間にするもんね。バイト早めにあがらせてもらえてよかった。
そろそろ配信始まるよー!
最近は、配信見ながら口癖を数えるのにハマってるの。
「あ"あ"ぃっ」
って言うんだけど。
一回聞いてほしい。
絶対、ハマるから。
もうあれだよね。うちの推し口癖特殊すぎるもん。
でもまあ、そこも好き。
「おつまぶし〜」
画面の向こうからその言葉が聞こえて少し切なくなる。
今日も、終わってしまう。
このためだけに生きている、それは本当なんだけど、見てると、時間もあっという間だからな。
スマホの電源を落として、伸びをする。
私はご飯の用意をする。
お昼寝や、仮眠を挟んだりしながら私の日常は緩やかに進んでいく。
私と、私の推しと、少し幸せな瞬間と。
それなりに幸せな人生だと思う。
それから、何日だ。
5日後ぐらいか。
ビックニュースだった。
とにかく、ビックニュースで。
一人私の家で小さく叫んだ。
どういうことだ、と。
「…………え?」
口から溢れた声は驚きとかそんなもんじゃなく、狼狽え、動揺、だった。
「……は?」
「え、何?どういうこと?」
『大事なご報告』
よく見るタイトルの動画だった。
長尾景くんが出しててノリノリで見たんだよ。
誰かと付き合ってるとか報告するのかなって。
YouTubeにあがってて。
見たら。見たらさ、え、どういうこと?
「引退します」
画面からそう、聞こえるの。
よく聞き慣れたいつもの推しの声。
何度巻き戻して繰り返しても同じように繰り返すだけ。
「引退します」
コメント欄にとぶ。
息が、荒い気がする。
時計の音と自分の息の音しか聞こえない。
『悲しいよお😭』
『え、ドッキリ?』
『嘘。やばい、泣きそう』
『引退しないでください』
コメントが溢れかえる。
『景くん好きな人いるみたいな発言してなかったっけ?』
そんなコメントを見つけてスクロールしていた指が止まる。
「好きな、人?」
まさか、そんなわけないよね。
ただのコメント。
憶測でしかない。
でも、もし本当だったら?
もし、本当なら?
思考は止まらない。
もしそうなら…
なんで?
私、長尾景くんがいたから生きていけた。
もし、そうならさ。
私は貴方がいたから、今まで生きて色んなことに耐えてきたのに。
好きな人なんて、好きな人がいるからなんて理由で私たちを棄てるの?
好きな人がいるなら、ちゃんと告白して報告してよ。
そしたら、きっと喜んで祝福するのに。
なんで?それを言い訳に引退するの?
なんで?なんで。なんでなんで?なんでなんでなんでなんでなんでなんで
私、長尾景って人間がいたから、生きていけたの。
いなくなっちゃったら、私、死んじゃう。
生き甲斐が。なんで私生きてるの?
私は、どうすればいいの?
推しがいっぱいいるからといって、長尾景くんがいなくなっていい訳じゃない。
え、なんでよ。
思考が、ゆっくりゆっくり止まっていく。
スマホを持った腕を下ろした。
その勢いでスマホが私の手から落ちる。派手な音を立ててスマホが跳ねる。私のスマホ。
私の、私が生きていけるための大事な道具。
ああ、スマホが大事なんじゃない。
スマホはあくまでもただの道具であって、スマホがあるから私が生きてるんじゃない。
私の、推しがいるから。
推しを見れる、道具がスマホだから。
推しがいないなら、こんなもの必要ないじゃん。
スマホを拾い上げて壁に投げる。
鈍い音が狭い部屋に響く。
自分の口から|歯軋《はぎし》りする音が聞こえた。
小さい頃からの私の、癖。
やめられない。
小さい頃から、歯軋りをしないように努力してきたはずなのに私は一向にやめられなかった。
頼ることを知ると私はそこから離れられなくなる。
馬鹿みたいに頼ってばかりで、頼れないと分かると絶望して悲劇のヒロインぶった。
それを変えてくれたのも、長尾景くんじゃないの?
推しだったじゃん。
推しがいると思えば何事も我慢して、頑張れたのに。
最近は歯軋りも、物に当たることも、何かにすぐ頼ることもやめて、やめられてたのに。
私、推しがいなきゃ死んじゃう。
死んじゃう。死んじゃう。
あれ、死ねばいいのかな。
生き甲斐ないなら私も、死ねばいいのかな。
ねえ
壁に当たって跳ね返りこちらに戻ってきたスマホを見つめる。
スマホはうんともすんとも言わない。
「一緒に、死んでくれない?」
い っ し ょ に し ん で く れ な い ?
自分の口から、零れた。
その言葉に私は少し驚く。
何をスマホに向かっ…
ああ、そういうこと。
「ねえ、長尾景くん。私と一緒に死んでくれない?」
私はスマホじゃなくて長尾景に言ったんだね。
一緒に逝こう。
そこで私は、私は馬鹿ではないことを知る。
配信をすべて1から見直した。
声を、顔を、よく見て。
実写で映るのがないか死ぬほど探した。
なにかミスってない?
なにか、ミス、ない?
そして見つける。
そんなふうに写真なんか撮って。知らなかった。こんな写真あったなんて。
窓、見えてるじゃん。
馬鹿だなぁ。
もう、本当に、馬鹿。
調べて調べて調べて。
そして見つける。
「み~つけたっ!」
家、見つけた。
こんな分かりやすかったら変な人に押しかけられるよ〜。
え?別に分かってるよ。
"長尾景"の家じゃないのは分かってる。
中の人って、言いたいんでしょ?
でも変わんないじゃん。
その人と一緒に死ねたら長尾景も死んだことになるし。
ナイフ、ロープ、睡眠薬、マッチ。
死ねるなら、私手段は選ばない。
ナイフが駄目ならロープ。
ロープが駄目なら睡眠薬。
睡眠薬が駄目ならマッチ。
刺殺?絞殺?毒殺?焼殺?
違う違う。
心中。
ああ、だから違うって。
無理心中じゃなくて、心中。
だって私たち愛し合ってるもん。
勘違いしないでよ~。
気付けばあの日から1ヶ月も経ってたね。
時間掛かってごめんね。
今、今すぐ、家に行くから。
ごめん、あとちょっとだから待ってて。
ピンポーン
呑気で軽快な音。
「どちら様でしょうか?」
「…え?もう、何ふざけてんの〜。びっくりしたあ〜。私は貴方の彼女でしょ?」
「僕に彼女、いないんですけど」
「あれ、私はあたしって言う方が好きなんだよね〜。もう、でもそれも好き。だから許すっ!」
「なんですか?怪しい人なら警察呼びますよ」
「なんでよ。私のこと覚えてないの?ねえ?あたし。
あたしだよ?ねえ?」
「ちょっ、勝手に入らないでください!」
「なんで〜彼女じゃ~ん。まさか浮気?ハハッ、そんなわけないか〜。一途だもんね〜」
「やめてください!警察、警察呼びますよ!」
「ちょっと、ちょっと、うるさいよ。近所迷惑になっちゃうって。ちょっと黙ってってば」
「なんで、怖いです。やめてく」
………
「あーあ、ロープも睡眠薬も必要なかったか。
まあいいや。私が全部使っちゃお。
ロープを天井に吊るして、睡眠薬大量に飲んで、えっと、マッチは…あった。
これで揃った。
全部同時にやるよ。せ〜の!」
彼女の手から溢れたナイフが安っぽい音を立てて床に落ちた。
スローモーションのように落ちていく。
腹からこれを抜いた際に付着した血を撒き散らしながら。
「ああ、あたししあわせ」
にじさんじ
https://www.nijisanji.jp/members
長尾景
https://www.nijisanji.jp/members/kei-nagao
長尾景 YouTube
https://m.youtube.com/channel/UCXW4MqCQn-jCaxlX-nn-BYg
協力してくださった方
ヤナギ様
https://tanpen.net/user/userpage/2008sukotoyanagi/
ヤナギさんに協力してもらったこと
・ネタ提供
・小説を描く際に必要だった情報を何度も何度も優しく教えて頂きました。
・タイトル、主人公名の提供
本当にありがとうございます。
この話は完全にフィクションです。
このサイト以外で晴瀬、ヤナギ様、この小説の名前を出すのはお控えください。
にじさんじ、長尾景様とこの小説は一切関係ありません。