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【日常ドラマチック化部へようこそ】
アユト
はじめましての方も、いつもの方もこんにちは! アユトです。
今回長めに挑戦(?)してみました!
突然ですが、みなさんは「何の変哲もない日常」に退屈したことはありませんか?
通学路の曲がり角、昼休みのパン争奪戦、テスト返却のあの重苦しい空気……。
このお話は、そんな地味な高校生活を「無駄に熱いBGM」と「無駄にドラマチックな暴風」で映画のワンシーンに変えようとする、ちょっと(かなり?)頭のネジが飛んだ部活のお話です。
ツッコミが追いつかないカオスな現場と、胃を痛めながら奮闘する主人公の勇姿(?)を、どうぞ肩の力を抜いてお楽しみください。
それでは、『日常ドラマチック化部へようこそ』、開演です!
【あらすじ】(みたい人は見てね!)
消しゴムを借りる。焼きそばパンを買う。テストの赤点を隠す。
そんな誰もが通り過ぎる普通の日常を、圧倒的な「音」と「風」と「演技」でドラマに変える『日常ドラマチック化部』。
流されやすい少年・乾 梓砂は、強烈な先輩たちをまとめる「監督」に就任させられてしまう。毎日胃を痛めながらも、彼らの全力のバカらしさに心地よさを感じ始めた頃、生徒会から非情な「廃部通告」が下される。
条件は、文化祭のステージで全校生徒を満足させること。
武器は、巨大扇風機とリアルすぎる口演奏、そして無駄なイケメンフェイス。
崖っぷちの4人が仕掛ける、最高にドラマチックな奇跡のステージが始まる!
**第一章:日常ドラマチック化部へようこそ**
高校の入学式。乾 梓砂(いぬい あずさ)の計画は完璧なはずだった。
「目立たず、出しゃばらず、平和な3年間を送る」
しかし、押しに弱い性格が災いした。
放課後の校内、各部活の勧誘合戦という名の荒波に揉まれ、気づけば両手には大量のビラ。
途方に暮れて廊下の隅に立ち尽くしていた、その時だ。
「――**カット!!** ダメだ、全然ドラマチックじゃない!」
突如、廊下の先から朗々とした男の声が響き渡った。
見れば、眩しいほどのイケメン――神宮寺 蓮が、大真面目な顔でこちらへ歩いてくる。
その後ろには、顔色の白い華奢な男子生徒が、家庭科室から盗んできたような巨大な工業用扇風機を重そうに抱えてついてきていた。
「君、名前は?」
「え、あ、い、乾です__……乾 梓砂……__」
「乾くん! 君の今の『困り顔』、素晴らしい哀愁だ。だが、立ち姿に風がない! 九条、回せ!」
「……うん。乾くんの困り顔、僕の過去に似てる……僕も昔『重すぎて無理』って振られた時、そんな顔で立ち尽くしてた……」
ブワッと猛烈な風が吹き荒れ、梓砂の手から全てのビラが吹き飛んだ。
「ちょっと何するんですか!?」
「これだ! 吹き飛ぶ書類、戸惑う新入生! そしてここに運命の出会いが重なる! 美咲、音をくれ!」
「任せて! **――ズバババババッ! ジャーン!!**(※口演奏)」
どこからか現れた小柄な女子生徒が、カメラを構えながら驚異的なクオリティの劇伴を口で奏で始める。
「な、なんですかここ……! 僕、帰ります!」
「待って乾くん!」
九条と呼ばれた男子が、すがるような目で梓砂の袖をガッチリと掴んできた。
その目は笑っていない。
「行かないで……僕を置いていかないで…あ゙の゙子゙み゙だい゙に゙、゙僕゙を゙一゙人゙に゙じな゙い゙で゙…゙…゙ッ゙!゙」
「重い重い重い! 初対面の僕にぶつけるトラウマの癖が重すぎる!!」
「素晴らしいリアリティだ九条! 乾くん、君が来ないと我が『日常ドラマチック化部』が完結しないんだ。さあ、部室へ行こう!」
断るタイミングを完全に見失い、九条の重い愛(?)に腕を掴まれながら、ずるずると引っ張られていく梓砂。
(嘘だろ……なんで下校しようとしていただけなのに……助けてくれ……!)
連行された先は、特別棟の奥深くにある物置同然の元・視聴覚室だった。
乱雑に積まれたパイプ椅子と、なぜか部屋の真ん中に鎮座するレフ板。
梓砂が呆然と立ち尽くす中、部長の神宮寺は満足げに腕を組んだ。
「ようこそ、我が『日常ドラマチック化部』へ! さあ乾くん、記念すべき第一回の主題を発表しよう。テーマは――『放課後、隣の席の女子に消しゴムを借りる』だ!」
「……は? 消しゴム?」
「そうだ! 地味な日常にこそ、最高のドラマが潜んでいる。……九条、例のブツを」
陰気な顔をした九条が、恭しく差し出してきたのは……ごく普通の白い消しゴムだった。
ただし、なぜか新品なのに斜めにカッターで切られ、謎の哀愁を漂わせている。
「乾くん……これ、僕が中学の時……好きだった子に借りて、結局返せなかった消しゴム……(切断済み)」
「重い!! なんで思い出の品をカッターで加工して保存してるんですか!?」
「いいぞ九条、過去の未練が素晴らしい小道具を生んだ! さあ乾くん、美咲を相手に『すみません、消しゴム忘れちゃって……借りてもいいですか?』と声をかけるんだ!」
言われるがまま、梓砂はカメラを構える美咲の前に立った。
胃の痛みをこらえ、引きつった笑顔で声をかける。
「あの……花咲先輩、消しゴム借りてもいいですか……?」
「――カット! ダメだ、全然なってない!」
神宮寺が容赦なく手を叩いた。
「声に甘えがない! 美咲、効果音で感情を補強してやれ!」
「任せて。――ジャ~ン♪(※切ないピアノの音色)……チャララ~ン(※初恋の予感風)」
「さらに風だ! 九条、強で入れろ!」
ブオオオオオン!!
巨大扇風機が唸りを上げ、狭い部室に暴風が吹き荒れる。
梓砂の前髪はオールバックになり、目も開けられない。
「痛い痛い! 風が強すぎて目が乾く!!」
「耐えろ乾くん! そこで指先が消しゴムに触れた瞬間、恋が生まれるんだ!」
「……でも」
不意に、扇風機のスイッチを握る九条がボソッと呟いた。
「指先が触れたって……どうせ最後は『重い』って捨てられるんだ……触゙れ゙合゙え゙ば゙触゙れ゙合゙ゔぼど゙、゙別゙れ゙が゙辛゙ぐな゙る゙だ゙げな゙ん゙だ゙よ゙…゙…゙っ゙!゙」
「九条先輩、感情移入の方向性が不穏すぎる!! 扇風機止めて!!」
「美咲! 音をもっとドラマチックに上げろ!」
「――**ドギュゥゥン!!**(※衝撃の展開の音)」
荒れ狂う暴風、口で奏でられる壮大なBGM、そして過去のトラウマで半泣きになりながら扇風機を回し続ける先輩。
混沌(カオス)の渦中で、梓砂の限界がやってきた。
**「――いい加減にしてください!!」**
怒声が狭い部室に響き渡り、暴風と奇妙な効果音がピタリと止まる。
「九条先輩! トラウマを思い出して泣くならまず扇風機を止めてください! 目に入った砂でこっちが本気で泣きそうです! それに部長、消しゴム貸すだけで全米が泣く映画みたいな演出いりません! 貸すか貸さないか、それだけです!」
一気に言い放ち、肩で息をつく梓砂。
あまりの剣幕に、さっきまで暴走していた先輩たちが呆然と固まった。
「……すごい」
沈黙を破ったのは神宮寺だった。その目は輝いている。
「見たか九条、美咲! 今の乾くんの『現場を仕切る圧倒的主導権』! まるで現場監督のような存在感だ!」
「……うん。怒られたけど……なんか、見捨てられてない感じがして……悪くないかも……」
「乾くん、今のツッコミに合わせて『ズビシッ!』って効果音入れると映えるよ! もう一回言って!」
「要求しないでください!!」
頭を抱える梓砂。
しかし、この瞬間、部室のパワーバランスが決定した。
「はぁ……もういいです。やるならちゃんとやりますから、僕の指示に従ってください」
「「「な、なに……!?」」」
「まず扇風機は『弱』! 九条先輩、泣かない! 花咲先輩、BGMは主張しすぎない控えめなやつ! 部長は黙って見てて!」
流されやすく押しに弱い性格のはずだった。
しかし、目の前で繰り広げられるカオスに耐えかねた結果、新入生の梓砂が「暴走する先輩たちを力技でまとめる苦労人監督」のポジションに収まってしまったのだ。
「いいですか、消しゴムを渡すっていうのはこういう普通のでいいんです……『あ、はいどうぞ』。これだけです!」
「「「おおおっ……!!」」」
「なぜ感動してるんですか!?」
こうして、乾 梓砂の「振り回されながらも仕切ってしまう」不憫な日常が、本格的に幕を開けたのだった。
**第二章:購買の限定焼きそばパン争奪戦**
第一章で不本意ながら「監督」に就任させられた乾 梓砂(いぬい あずさ)の日常は、まったく平和にならなかった。
それどころか、昼休みという最も穏やかであるべき時間すら、この部活にとっては命がけの「現場」と化していた。
「――いいか乾くん、これが我々の主食であり、魂の象徴だ!」
神宮寺部長が、黒板にドーンと下手くそなパンのイラストを描いた。
「『購買の限定プレミアム焼きそばパン』! 1日限定5個! 4時間目の終了チャイムと同時に校内全生徒が一斉に押し寄せる、まさに戦場! この日常の壮絶な泥臭さを、我々は最高のドラマに昇華させなければならない!」
「いや、ただパン買いたいだけですよね?」
梓砂はパイプ椅子に深く腰掛け、頭を抱えた。
「普通に走って行って買えばいいじゃないですか」
「甘い! 甘いぞ乾くん!」
神宮寺がバッと振り返り、梓砂を指差す。
「ただ走るだけでは視聴者――いや、全校生徒の心が動かん! スローモーション、焦燥感、そしてライバルとの交錯! これらが噛み合って初めて、パンひとつの価値が跳ね上がるんだ!」
「……乾くん」
すっと横から影が差した。
九条先輩が、どこから出してきたのかストップウォッチと謎のメモ帳を差し出してくる。
「これが過去3年分の……購買へ続く階段の混雑データ……と、僕の血と涙の記録……」
「血と涙ってなんですか」
「僕……昔好きだった子に『焼きそばパン買ってきて』って言われて……必死で走って買ったのに……『遅いからもう別の男子に買ってきてもらった』って言われて、パン突っぱねられたんだ……」
「だから重い!! なんで全部のトピックにドン引き失恋エピソードが紐付いてるんですか!?」
「……だから僕は、パンを見るだけで……胸が締め付けられる……ッ(涙)」
「泣かないで九条先輩! 過去は忘れて! ほら、ストップウォッチ渡すから時間測ってください!」
梓砂が慌ててなだめると、九条は「うう……乾くん優しい……見捨てないでね……」と呟きながら、涙を拭ってカチカチとボタンを押し始めた。
「美咲先輩! パンを巡る疾走感のBGM用意してください!」
「任せて乾くん! ――**デレレレレレ! テンテテテン!**(※緊迫のサスペンス風)」
「よし、完璧だ。部長、指示通りに走ってください! 風速は扇風機『弱』で再現します!」
「ふっ……見せてやろう、我が走りを!」
神宮寺が部室の扉を開け、廊下を大げさなスローモーションで走り出した。
髪を激しくなびかせ(九条が横で扇風機を持って並走)、流れる汗(美咲が霧吹きで吹きかけ)、緊迫した音楽(美咲の口演奏)が鳴り響く。
「乾! 目の前にライバルが現れたぞ! どうする!?」
「『あだち先輩に先を越される!』って焦ってください!」
「うおおおお! あだちぃぃぃ!!」
神宮寺が迫真の表情で叫ぶ。
「カット!!」
梓砂が手を叩いた。
「今の表情、完璧です部長! でも声がデカすぎて隣のクラスの先生に怒られるので、声量は抑えてください!」
「……見事な指示だ乾くん。実に的確だ……!」
あんなに嫌だったはずなのに、気づけばテキパキと現場をコントロールしてしまっている自分に、梓砂は深い溜め息をついた。
(僕……なんでこんなに馴染んじゃってるんだろう……)
**第三章:テスト返却の絶望と空回りする恋**
期末テスト返却の日。
部室に漂っていたのは、重苦しい沈黙だった。
「……終わった」
神宮寺部長が、机に突っ伏していた。手元にあるのは、真っ赤な赤点が躍る数学の答案用紙だ。
「この私が……数学28点だと……? これでは美咲に『頭の悪い男』だと思われる……ッ!」
「誰もそんなこと思わないですよ……」
梓砂があきれ顔で自分の答案(78点)をカバンにしまう。
「テーマは決まったな、乾くん! 次は『絶望の赤点を隠しながら、好きな女子にカッコつける瞬間』だ!」
「自分の個人的なピンチを部活のテーマに昇華させないでください」
「いいから付き合え! 美咲、カメラを構えろ!」
神宮寺は答案用紙を背中に隠し、美咲の前に立った。
キザな笑みを浮かべ、低音ボイスを響かせる。
「ふっ……美咲。テストなんてものは、人生のほんの通過点に過ぎないと思わないか?」
「そうだね部長! ――ズババーン!(※ドラマチックなギターの音)」
「君が望むなら、私はこの答案を歴史の闇に葬り去ってもいい……」
神宮寺の必死のアピール。
しかし、美咲はキラキラした目でカメラを回しながら、まったく明当違いな反応を返した。
「すごいよ部長! 答案を隠す時の肘の角度、めちゃくちゃサスペンス感出てる! BGMもっと重くするね! ――**ドォォォン!!**」
「……そこじゃない、美咲……」
神宮寺が白目を剥いて倒れかけた。
完全に意図が伝わっていない。片思いのすれ違いが酷すぎる。
「あの、部長……かわいそうですけど、美咲先輩には1ミリも伝わってないです」
梓砂がそっと耳打ちする。
「……知っている……乾くん、慰めてくれ……」
「はいはい、よしよし。九条先輩、落ち込んでる部長に何か温かいものでも……って、なんで九条先輩まで暗い顔してるんですか!?」
部屋の隅で、九条が真っ黒な画用紙をハサミでチョキチョキと刻んでいた。
「……僕も、中学の時……テストの点が悪くて……好きだった子に『もっと勉強できる人がいいな』って言われて振られたから……」
「トラウマの引き出しが多すぎるだろこの人!!」
絶望する部長、トラウマで自傷的アートを始める九条、ノリノリで爆音BGMを奏でる美咲。
「ああもう! 全員落ち着いてください!!」
梓砂の怒号が再び部室に響き渡った。
「部長は補習を受けてください! 九条先輩はハサミを置く! 美咲先輩は一回静かに! 僕がテスト用紙のカッコいい隠し方のお本せせせ(噛んだ)……手本を見せますから!!」
「「「おおおっ……!!」」」
やっぱり、この部活の舵をとっているのは自分なのだと、梓砂は諦めとともに悟るのだった。
**第四章:文化祭出展の危機と、小さな絆**
季節は巡り、秋。
校内がどこか浮き足立つ文化祭の前月、重大な危機が部を襲った。
「……廃部、ですか?」
生徒会室から戻ってきた神宮寺の顔は蒼白だった。
「ああ……『実績のない謎の部活に教室を割り当てる余裕はない。文化祭のステージ発表で全校生徒を満足させられなければ、即刻廃部』と告げられた……」
「えっ……じゃあ、部活なくなるんですか……?」
梓砂は一瞬、胸がスッとするのを感じた。
(これで……あのカオスな毎日から解放される……! 平和な日常が戻ってくる……!)
そう、思ったはずだった。
しかし、ふと部室を見渡すと、九条が今にも消えそうな顔で震えていた。
「……そっか。やっぱり僕たちの部活なんて、いらなかったんだ……あの子が言った通り、僕のやることは全部無駄なんだ……」
「九条くん……」
美咲も、いつも元気に鳴らしていた口BGMを止め、寂しそうにカメラを見つめている。
神宮寺は深々と頭を下げた。
「すまん、乾くん。君を巻き込んでおいて、こんな結果になってしまって……君はもう、解放されていいんだぞ」
沈黙が部室を包む。
梓砂は、自分の手を見つめた。
あんなに嫌だった。
強風を吹き付けられ、変なBGMを聞かされ、重すぎるトラウマをぶつけられ、毎日胃が痛かった。
――でも。
(なんでかな……ここで終わるの、めちゃくちゃムカつくな)
梓砂は大きく息を吸い込み、パイプ椅子を勢いよく引いて立ち上がった。
**「――何諦めてるんですか、部長!!」**
全員が弾かれたように梓砂を見た。
「実績がないなら作ればいいでしょ! 全校生徒を満足させればいいんでしょう!? 頼むから勝手にしんみりしないでください! 似合わないです!」
「乾くん……?」
「九条先輩! あなたの脚本と小道具は無駄なんかじゃないです! クセが強すぎて重いだけです! 美咲先輩の音だって本物だし、部長の顔と無駄な情熱だけは唯一の取り柄なんですから!」
「最後、褒めてるか!?」と神宮寺がツッコむが、梓砂は止まらない。
「僕が監督です! 僕の指示通りにやれば、絶対に廃部なんてさせません! 文化祭のステージ、全員で大爆破……じゃなくて大成功させますよ!!」
しばしの静寂のあと。
九条の目に、光が宿った。
「……うん。乾くんがそこまで言うなら……僕、命がけで脚本書くよ……!」
「乾くん……! 私、最高の音を出すね! ――**ジャジャーン!!**(※決意のファンファーレ)」
「ふっ……言ってくれるじゃないか、新入生」
神宮寺が涙を拭い、ニッと不敵に笑った。「よし、我が日常ドラマチック化部、最後の戦いに挑むぞ!!」
こうして、まとまりのなかった4人の心が、ひとつの熱狂へと束ねられたのだった。
**第五章:文化祭本番――奇跡のステージ**
文化祭当日。体育館のステージ裏。
超満員の全校生徒のザワめきが、幕の向こうから聞こえてくる。
誰もが「あの変な部活が何をやるんだ?」と半信半疑の野次馬根性で集まっていた。
「みんな、準備はいいですか」
衣装(※普通の制服)を着た3人を前に、梓砂がインカム風のインコを耳に装着(気分だけ)して問いかける。
「九条先輩、扇風機のコンセントは?」
「……ばっちり。強風モードのリミッター、解除してある……」
「解禁しないでください怖いから! 美咲先輩、マイクの準備は?」
「いつでもいけるよ! 腹筋のウォームアップ完璧!」
「部長、顔の仕上がりは?」
「最高だ。いつでもイケメンだ」
「よし。テーマは――『遅刻しそうな女子生徒と、曲がり角でぶつかるあの瞬間』。……開演です!」
ブザーが鳴り、幕が上がった。
ステージ中央に立つのは神宮寺。
食パン(※スポンジ製の小道具)を口にくわえ、大真面目な顔で走り出す。
「大変だ! 遅刻遅刻~!」
観客席から「ぶっ」「ベタすぎるだろ」と小さな笑いが漏れる。
しかし、ここからが「日常ドラマチック化部」の真骨頂だった。
「美咲先輩、音入れ!」
「――**ドキュゥゥゥン!! テンテケテンテン……**(※超ハイレベルな疾走BGM)」
マイクを通した美咲のリアルすぎる口演奏が体育館中に響き渡り、観客が「えっ、あの音全部口で出してるの!?」とザワつき始める。
「九条先輩、風!」
**ブオオオオオオン!!**
ステージ袖から繰り出された特大の風が、神宮寺の髪と制服を劇的にたなびかせる。
まるでハリウッド映画のワンシーンのような重厚なスローモーション演出!
「おおおおお!!?」「なんかスゲぇ!!」
観客席からどよめきと歓声が上がった。
ただの「食パンをくわえて走る男」が、圧巻の音と風によって、誰も目を離せない超大作サスペンスへと変貌していく。
神宮寺が角を曲がる。そこへ、美咲演じる女子生徒(のパネル)が登場する――はずだった。
その時。
「……あ」
扇風機を回していた九条が、ステージの照明を浴びて、急に顔を青ざめさせた。
「大勢の視線……みんなが僕を見ている……。そういえば……中学の文化祭でも、僕、失敗してみんなに笑われて……あの子に『恥ずかしいから近寄らないで』って言われたんだ……っ」
(ヤバい!! トラウマスイッチが入った!!)
袖で見ていた梓砂の背中に冷や汗が流れる。
九条の手が震え、扇風機の風向が明後日の方向を向き始めた。
演出が崩れる!
「う……うわああああん! 僕なんて……僕なんて生きてたってぇぇ!!」
九条が半泣きでステージ中央へ走り出してしまった。
大混乱する観客席。「え、演出?」「事故?」
神宮寺も焦る。「く、九条!? アドリブか!?」
このままでは台無しになる。
廃部だ。
梓砂は歯を喰いしばり――マイクをひったくると、自らステージへ飛び出した!
**「――九条先輩!! 何ステージの真ん中でトラウマ撒き散らしてるんですか!!」**
**ズビシッ!!**(美咲が瞬時に完璧なツッコミの効果音を入れる)
観客席からドッと爆笑が起きた。
「乾くん……っ! 僕、やっぱりダメなんだ……!」
「ダメじゃないです! 先輩が今まで作ってきた小道具も、書いた脚本も、全部最高でしたよ! 過去の女の暴言なんかに負けてんじゃないです!!」
「乾くん……(じーん)」
「ほら、扇風機をこっちに向ける! 部長、倒れ込む準備! 美咲先輩、クライマックスのBGM!!」
**「「「はいっ!!」」」**
梓砂の怒涛の監督指示(ツッコミ)により、崩れかけたステージが一瞬で軌道修正された!
九条が気迫の表情で扇風機を構え直し、猛烈な暴風が吹き荒れる!
美咲が全霊をかけた「壮大な愛のテーマ」を口で歌い上げる!
神宮寺が渾身のドヤ顔で、すれ違いざまに食パンを差し出す!
**ドギャァァァァン!!**(決まり音)
……静寂。
そして――
**ワアアアアアアアアアアアアアアッ!!!**
体育館が揺れんばかりの大歓声と割れんばかりの拍手が、ステージに降り注いだ。
ただの日常動作を、圧倒的な熱量と謎のチームワークでエンターテインメントに昇華させた4人に、全校生徒が立ち上がって拍手を送っていた。
「や……やったのか……?」
神宮寺が呆然と呟く。
「乾くん……僕、褒められた……? みんなに拍手されてる……?」
九条が涙をボロボロとこぼした。
「乾くん! 最高のライブだったよ! パシャパシャ!」
美咲が笑顔でカメラを向ける。
梓砂は、肩の力を抜き、ステージの真ん中で深々と溜め息をついた。
(まったく……本当に、胃が痛い部活だ……)
けれど、その口元は、微かにほころんでいた。
**終章:日常は続いていく**
文化祭は大成功を収め、生徒会からも「謎の感動があった」として正式に部活動として承認された。
数日後。夕暮れ時の部室。
黄昏時のオレンジ色の光が差し込む中、梓砂は一人でパイプ椅子を片付けていた。
「ふぅ……なんとか生き残っちゃったな」
静かな部室。
これから先も、あの騒がしい毎日が続くのだと思うと、溜め息が出そうになる。
けれど、最初の頃のような「嫌だ」という気持ちは、不思議と消えていた。
「目立たず、平和に過ごす」という高校生活の計画は完全に崩れ去ったけれど……まあ、悪くないのかもしれない。
ガチャリ、と部室のドアが開いた。
「やあ、乾監督!」
神宮寺部長が、相変わらず無駄に爽やかな笑顔で入ってくる。
「乾くん……今日の放課後の指導案、書いてきたよ……捨てないで読んでね……」
九条が、ちょっとだけ晴れやかな(でも相変わらず重い)顔で続く。
「乾くん! 今日のBGMの新曲、練習してきたよ! ――チャララ〜ン♪」
美咲がカメラを構えてパシャリと音を鳴らした。
梓砂は振り返り、呆れたように、でもどこか嬉しそうに腰に手を当てた。
「……で、今日のテーマは何なんですか?」
神宮寺がニッと笑い、黒板に大きく文字を書いた。
『雨の日に、そっと置き傘をしていく男』
「よし、九条! 水鉄砲で雨を再現しろ! 美咲、しっとりとしたジャズだ! 乾くん、指示を!」
「……はいはい。九条先輩、水は僕にかけないでくださいね。美咲先輩、音量は控えめで。部長、行くぞ!」
**「「「サー、イエス・サー!!」」」**
ドタバタと賑やかな音が、夕暮れの校舎に響き渡る。
流されやすい新入生・乾 梓砂の、最高にくだらなくて、最高にドラマチックな日常は――まだまだ始まったばかりだ。
(【日常ドラマチック化部へようこそ】・完)
『日常ドラマチック化部へようこそ』を最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました!
いやぁ……梓砂くん、本当にお疲れ様でした(笑)。
最初は「目立たず平和に」なんて言っていた彼ですが、気づけば一番声を張り上げ、部をまとめ上げる名監督になってしまいましたね。
人間、極限状態(カオス)に置かれると隠れた才能が花開くのかもしれません。
このお話を書いている時、私自身も「日常のくだらない一コマ」をいかに大げさに描写できるか試行錯誤していて、ずっとニヤニヤが止まりませんでした。
消しゴムを借りるだけで暴風が吹き荒れ、焼きそばパンを買うだけでサスペンスになり、テストの点数を隠すだけでドラマになる。
……冷静に考えると全員かなりヤバい奴らなのですが、どこか憎めない愛おしさを持った4人組になれたかなと思っています。
文化祭を乗り越えて絆(?)が深まった日常ドラマチック化部ですが、彼らの「無駄に熱い日常」はこれからも続いていきます。
雨の日の置き傘、体育祭のフォークダンス、修学旅行の部屋班決め……
まだまだドラマチック化できる日常は山積みです!
もし「この日常シーンもドラマチック化してほしい!」というリクエストや、読んだ感想などがありましたら、ぜひ教えていただけると嬉しいです。
最後に、最後まで梓砂たちの暴走に付き合ってくださった読者のみなさま、心からの感謝を申し上げます!(長い……)
また次の「現場」でお会いしましょう!
byアユト (くそっ、一万字に届かなかった………)