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20歳の僕
__ 設定:なとる __
いつもいじめられ、虐待され。心と体が限界だった僕は、二十歳になったら自殺をすると心の中で思っていた。そんな憂鬱な土砂降りの金曜日、たくさんの人が行き交うなか俯きがちに破れて意味のない傘を差している。
「…ごめん!大丈夫?」
「だ、大丈夫…ですよ」
ぶつかった僕の腕を優しく撫でながら、顔を覗き込んでくる。
「絶対嘘、死んだ魚みたいな目してるもの」
「僕そんな目してたっけ…?」
「それに傘、穴まみれじゃない?一緒に帰ろう」
無理やり傘を奪われ仕舞われ、少しばかり嫌な予感だけはしたがそれは外れた。
「そんなことより名前は?」
「|津端聖《つばたしょう》、あの_」
「ん、私?れい、黒峰れい。よろしく」
傘についての話や、今までのすべてを話しながら彼女と肩を並べて帰っている。
「ふ〜ん、そうなんだ」
「というか、どうして僕に優しくして…?」
「んー、それは教えな〜い」
「いやいや、教えてください」
「じゃあ、二十歳になったらね?」
「無理ですよ、そんなの…」
そうため息をついていると、彼女は呆れたように嘲笑った。
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それが確か、数十年前の今日だと覚えている。今日は、月曜日の快晴だと聞いた。朝目が覚めて彼女が居なくなったときは夢だと疑ったが、もうそれから数年が経っているため慣れている。あの日の坂道といつかの駄菓子屋を、何度も探していた。
(…暇だし、コンビニに行くしかない)
(月曜日は嫌な店員が働いていたんだっけ?)
暇と寂しさを埋め尽くすように、走馬灯のようにいろんなことを考える。
「いらっしゃいませ」
声こそは低いが、明るく女性の声が響いた。
(ん、あの店員やめたのか?)
そう思って、顔を上げてみる。
「あれ?結構早かったね。ちゃんと20歳まで生きれたじゃん。」
そこで数十年前と変わらない調子の彼女が、律儀に働いていた。
「…れい、さん」
「あの日の約束、教えてあげる」
「どうしてかって、まあ理由なんてないよ」
「…じゃあどうしてもったいぶったんですか」
「え〜?それは30歳になってからね」
レジ前で何も買わずにただ立ち尽くすだけの僕に、彼女はいたずら気に微笑んでいる。
「もう居なくならないでください」
「なにそれ、告白?」
「いやいや僕なんて…」
「へえ?その答えも30歳になってからね」
やっとの思いでたどり着いた彼女へ言いたいことなんてすべて忘れて、話し込んでしまっていた。