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又旅浪漫
|笹袋《ささぶくろ》というのは言葉通り、笹の葉で作られた袋だ。
複数のマタタビをまとめて持ち運ぶ為に
リッサンに作らせた自信作だ。見栄えも良い。
渡された品物を見たギンさんは言う。
「いつもの包みに、この香りも最高だな。
保存用に助かるんだよこれ。中はどれどれ」
「その袋が一番良いんです。
湿度と酸化から守ってくれます。
それに持ち運びにも優れています。」
俺の話を聞きながらマタタビを取り出すギンさんは
ネコなのにニヤニヤしているように見える。
そういえば何歳なのだろう。|猫又《ねこまた》だろうか。
まさか尻尾の先端が二本に化けて
今から食われるなんて事はないだろうか。
待て待て恐ろしい、
冗談は稀に馬鹿なニンゲンの昔話だけにしてくれ。
いかん、まだ結構マタタビが効いているな。
押し寄せる高揚の波が
意識を明後日の方向へ持って行ってしまう。
「たまらんな、キヨシ」
またハッと我に返る。
いつの間にかギンさんは二粒平らげていた。
三粒目を顎に擦り付け喉をゴロゴロと鳴らし
目は少しとろん、としている。
これはかなりおキマリ大明神である。
|虫癭果《ちゅうえいか》。
通常のマタタビにアブラムシを寄生させ、
果実にコブを付けさせた特上品である。
濃度が高く、脳天まで強烈に突き抜けるはずだが...
「一気に2粒もですか。」
「最初の上がり方が特に良いな。
今回のは一体どのくらい作用するんだ。」
「最初の"上がり方"が落ち着いて以降、
カタツムリが鉄箱に登り切るくらいの間
高揚感が持続し、徐々に落ち着いていきます」
「なんと。完璧...だ...。」
もはや脳天を通り越し、一撃必殺である。
先輩を倒した"気分だけ"味わっておく。
今回も納得のいくモノが作れた。満足だ。
嬉しくて声に出してしまいそうである。
ギンさんは平気な振りをしているが
目は血走り、顔はぽわぽわとしている。
今にもふかふかの断熱材に沈んで行きそうだ。
"ゴゴゴ....ゴゴゴゴオォ..."
最悪である。恐らく外はほぼ真っ暗だ。
距離にすると山三つ分は向こう側だが、
急な雨は毛がごわごわになるので面倒だ。
「夕立だ。護衛の者に送らせようか。
今日はどうもありがとう。」
流石は沢山のネコを従える怖いネコだ。
先ほどのぐでんぐでんが嘘のように姿勢良く座っている。
「いやいやギンさん、護衛なんて、」
「抗争の話は聞いたかな。」
そう言うとサッと立ち上がり
ギンさんの太い声が響き渡る。
「おおいハヅキ、送り頼むわぁ。」
「メスですか。」
「問題ない。過去にカラスを二羽殺している。」
これまた恐ろしい話である。