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魔法試練:第二戦 水の試練
闘技場の空気が一変した。 炎の熱が消えた直後、静寂が訪れる。 そして、空間に水の気配が満ち始めた。
リュカの前に現れたのは、水の国・リュミエールの治癒の巫女・ミレナ。 白銀の髪を揺らし、青い法衣を纏った彼女は、静かに歩み寄る。 その足元には、水が湧き出し、彼女の周囲を優しく包んでいた。
「水は、癒しであり、記憶であり、感情そのもの」 ミレナの声は、まるで泉のささやきのように、リュカの心に染み渡る。 「あなたの“無”が、心を拒絶できるか……試させてもらいます」
リュカは構えを取る。 だが、ミレナは攻撃の構えを見せない。 代わりに、彼女は両手を広げ、詠唱を始めた。
「水よ、彼の記憶を映し出せ」
すると、闘技場の床に水面が広がり、鏡のように変化する。 そこに映ったのは——幼いリュカが、村人たちに罵られている姿。 「空っぽ」「無価値」「いなくなればいい」 その言葉が、水の幻影となって、リュカの耳に響く。
「やめろ……」 リュカは耳を塞ぐ。 だが、水は彼の心に入り込み、過去の傷を暴き続ける。
「水は、心を揺らす。あなたの“拒絶”が、心に届くかどうか……」 ミレナの瞳は、悲しみを湛えていた。
リュカは膝をつく。 灰色の魔力が、揺らいでいた。 記憶が、感情が、彼の力を曇らせていく。
「俺は……魔法を壊す者だ。だが、心まで壊してしまえば……俺は、何になる?」
そのとき、再び声が響いた。
「リュカ!」
セラが、観戦席から叫ぶ。 「あなたは、心を壊すために戦ってるんじゃない。魔法に支配された“痛み”を、終わらせるために戦ってる」
その言葉が、リュカの灰色の魔力を再び安定させた。 彼は立ち上がり、水面に向かって手を伸ばす。
「俺は、過去を拒絶するんじゃない。過去に縛られた魔法を、壊すんだ」
灰色の魔力が、水面を覆う。 幻影が、消える。 記憶が、静かに沈む。
ミレナは、微笑んだ。 「……あなたの“無”は、心に届いたようですね」 彼女は一礼し、試練の場を去る。
リュカは、静かに息を吐いた。 だが、次の試練がすでに始まろうとしていた。
風の国・ゼフィロスの空間魔導師・シェイドが、闘技場の上空に浮かぶ。 「次は、空間そのものを拒絶できるかどうか……楽しみだ」