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20240505
今回は過去1句+五句。
誰とは言えないけど、前週の某事故を起こした調子悪い芸人の句を見て「なんだこりゃ」と思ったのは事実。
**雲の峰まぶし掲ぐる大ジョッキ**
雲の峰=入道雲。
テラス席。乾杯時に掲げる大ジョッキのグラスの響きあいが空へ広がってゆく。同時にビールの入ったグラスのまぶしさが、雲の輝かしさと同期する。
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**連休の官庁街や|落椿《おちつばき》**
大型連休中の霞が関を歩いていると、車や人が全くいなくて、普段の光景と全く違い、静寂が住んでいた。
いつもは仕事の雰囲気がある忙しない通りのはず。おなじみのはずの足元に目を落とすと、地面に落ちた椿があった。普段は目が行かないところに色鮮やかない赤色を見つけ、季語との出会いをした。
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**二時間を待ってむくれる子と桜**
子供とレジャー施設に行って、二時間待ちを食らわされた。子供の唇を見ると、すでにむくれていて、上向きに動いている。近くの桜も小さな子供のように揺れて待っている。
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**渋滞や|柩《ひつぎ》の母とゐる深春**
母が亡くなって霊柩車の助手席に乗った。
斎場に向かう道のりで、連休によるものだろう渋滞に嵌った。いつもは渋滞のさなかの車内なんてたまったものではないが、今の待ち時間は母と長くゐる、もう少しだけ長く過ごせる、最後の時だと思った。それは一瞬の時であるが、深春のように長く感じた。
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**桜雨走れり色の無き渋滞**
一瞬フロントガラスに桜雨が通り過ぎた。
動きがあるのは桜雨のみで、私の車は「色の無き渋滞」の只中である。
それだけの句だが、対比をうまく切り取った俳句で、
色の失った渋滞と色のある桜雨。
動きのない渋滞と動きのある桜雨。
時間経過の長い渋滞と一瞬を切り取った桜雨。
人工的に作りだした渋滞と自然の作り出した桜雨。
など対比はさまざま。
渋滞に巻き込まれたときの何とも言えない憂鬱な時間を、さらりと桜雨が落ちる。
周囲は色を失うほどに身動きが取れず、しがらみにまみれている。一方桜雨は一瞬のみ咲き誇るが、散ってもなおこれが自由だと言わんばかりに踊り走る。
季語が主役になっている質の高い詩。
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**春休みの原宿四つ折りの紙幣**
まだ電子マネーが普及していない平成。
学生時代の特権ともいえる春休みに、若者最先端の原宿にやってきた。しかし学生ゆえに所持金は少なく、交通費を除くと一万円といった感じだろう。その一枚は財布の中に大事にしまうように畳んだ四つ折りの一万円札に表れており、それを取り出し「さあ何を買おうか」とこれからの買い物に想像をめぐらす。