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心血解放の爪痕⑥
風野芽衣明
翌朝は|燐《りん》の方が先に目を覚ました、チラッと掛け時計を見ると 針は8時過ぎを指している。ベッドから起き うーーんっと伸びをすると、その声を聞いた|凍矢《とうや》もパチッと目を覚まし 大きな欠伸をし 目をこすっていた。
凍矢:「ふわぁ……。おはよう、|燐様《りんさま》」
燐:「おはよう、凍矢」
リビングに行くと 凍矢はポフッとソファに座り脚をパタパタさせながら燐の動きを目で追っており、燐はキッチンでコーヒーマシンを起動・牛乳も使って甘いカフェオレを作っている。流石に|怪人態《今》の凍矢にコーヒーはあげられないと判断し コップに水を注いで持っていくと 右隣(凍矢から見て左側)に座る。
凍矢:「燐様 ありがとう!(ゴクゴクゴクと一気に飲み干す) お水 美味しい♡」
燐:「今の凍矢はトランサーであることには変わりないんだよね? 腕や頭、脚にも花が咲いてて 普通の水道水も すっごい美味しそうに飲んでて。
【植物怪人】じゃないよね? 元の姿に戻る……よね!!?」
凍矢:「多分 ヘイルの治療を受けたら元の姿に戻って 植物や香りを操ることはできなくなる と思う。
【植物怪人】かwww ご主人様 やっぱりこの姿は怖い?」
燐:「そういう訳じゃないんだけど 不便だったりしないのかなって……。花に栄養吸われたりしなきゃいいんだけどって」
凍矢:「(腕を見回す)全身に見えてる【鎖の紋様】 …… これが花達のエネルギーになってるみたいだから 特にお腹空いて死んじゃいそうって感じはないよ」
燐:「そっか。身体に咲いてる花達にも水をあげたいくらいだけど、服が濡れちゃうよね……」
再度キッチンに行くと 大きめの鍋に水を入れて戻ってくる。
燐:「こっから水を吸収したり…… は無理だよね」
凍矢:「・・・」
燐:「凍矢?」
じーっと器を見た後 両腕を少し上にあげ手のひらを器に向ける。シュルシュルと何本もの蔓が伸びていき ボチャンっ!と浸かる。ゴクゴクと音が聞こえそうなくらいに 勢いよく水を吸収していた。驚くのはそれだけではない、ウルグによる一方的な教育(という名の暴力、半殺しとも言う)で流血し 花が青く染まってしまったが、水を吸収したためなのか理由は不明だが 青い血がどんどん薄く消えていき 元の白く美しい姿になっていった。
燐:「青くなってた花が白くなった!!? すっご……
ってか何かしら流血を伴う大怪我をしたってことだよね。凍矢 大丈夫だったの!!?」
凍矢:「えっと…… 俺が燐様にしてたことを分からせるために 狼の耳と尻尾が生えたウルグが攻撃を仕掛けてきたの。殺されるんじゃないかって感じで すっっっごく怖かったけど、それ以上に燐様は怖い思いをしてたんだって分かったんだ」
燐:「狼の耳ってことは完全獣化、こんなに出血するまで攻撃するなんて 何もなければいいんだけど……。ねぇ 凍矢」
凍矢:「どうしたの? 燐様」
燐:「月下美人とか初めて見たからさ、《《香り》》嗅いでみてもいい?」
凍矢:「えっ!!? ダメだよ!! 香りを嗅いだら 快楽物質がd……」
言い切る前に 燐はスンスンと花の香りを嗅いでいる、月下美人からはジャスミンに似た甘い香りが テッセンからはベビーパウダーのような 強くないが良い香りが感じられる。凍矢が怪人になった直後にも1度嗅いでいるが その時は恐怖心が強すぎたせいか効かなかった。
燐:「甘くて いい香りがする〜〜~♡」
予想通り快楽物質が分泌され |顔が蕩け 目にハートマークが浮かんでしまう《メロメロ状態になる》とフラーーーっと凍矢側に倒れ、凍矢の膝の上に頭をポスンっと預ける、つまり膝枕状態になった。
凍矢:「り、りんさま!!? りんさま 大丈夫!!?」
燐:「とうやしゃまぁ♡♡♡ (*_ _)zzZ(爆睡)」
朝起きて こうなるまで 1時間とかかっていない、あっという間に2度寝に突入した。
凍矢:「り、燐様…… 寝ちゃったよ……。 どうしよう、おひさまの光が差し込んできて 俺も眠くなってきた……。 俺も寝ようかな、おやすみ燐様。
( ˘ω˘ ) スヤァ…」
凍矢は 燐に両膝を差し出し 左肩に手を添えると、ソファの背もたれに身体を預けるようにして眠り始める。現在時刻 朝の9時、2人仲良く2度寝をキメたのだった。
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約3時間後、今度は凍矢が先に目を覚ます。
凍矢:「ふわぁ〜〜 よく寝たや、もうお昼か。燐様、燐様 起きて!! 夜眠れなくなっちゃうよ!!? 」
身体を揺するも 目覚める気配が全くない。とても幸せそうな笑顔で眠り続けていた。
凍矢:「どうしようどうしようどうしよう!!! 燐様が、ご主人様が目を覚まさない!! 一体どうしたら ご主人様が目を覚ましてくれるの!!!?
ヘイルなら 燐様を助けてくれるかな!!? お願い |植物達《みんな》!! ヘイルを見つけて この危機を伝えて!!!」
手を組むようにして必死に祈ると その想いが|精神感応《テレパシー》のように逢間市内に拡散される。植物から植物へ伝言ゲームのように伝わっていき、ウルグ達の拠点に生えている雑草に到着する。すると 強すぎる凍矢の力によるものなのか急激に生長し 拠点全体を覆い尽くすツタ植物へ進化した。
ウルグ:「日光を身体に浴びて〜〜~♬ ビタミン作らないとねぇ〜〜~♬ まぁ 私はキメラだけど、毛繕いとかはしないんだよねぇ〜〜〜♬ っと。(バサッとカーテンを開く)
・・・・・・な、な、な、なんじゃこりゃー
ーーーーーーーーーーー!!!!!?」
ヘイル:「ウルグ!! どうした!!? ッッッ!?これは一体……!!」
|陽《ひ》の光を浴びようと窓際に近づき、勢いよくカーテンを開けると 一面緑色の景色が見える。悲鳴に近い驚きの声を聞き ヘイルが駆け込んで |拓花《ひろか》と|悠那《ゆな》も後を追うように入ってきた。
拓花:「ヘイルお兄ちゃん!! これなんなの!!?」
悠那?(瞳から*のマークは消えている):「凍矢の|植物操作《プラント》かしらね?」
ツタが複雑に絡み合ってるのか とてつもない強度になっており、完全獣化態のヘイルの蹴りでも開けられない。ヘイル1人 外に出て〈|翼《ウイング》〉を発動、ビル全体を飛び回って観察すると 屋上まで完全に植物に覆われ 緑色のビルと化していた。両腕の爪をフルパワーで振ると 一度はツタを切り裂くも生長速度が速すぎてすぐに覆われてしまう。
ヘイル:「(部屋に戻ってくる)ダメだ。かんっっぜんに覆われてしまってる、俺の爪でも すぐ元通りに伸びてしまう。小さい雑草が ここまで進化したっていうのかよ!!
……こんなことが起きるということは、逆に考えると、燐と凍矢に何かあって 俺達を探していた とも言える。みんな!! 事務所に急ぐぞ!!」
赤の鍵で事務所に乗り込むと 凍矢がソファに座り、燐は膝枕してもらっていた。ムニャムニャと幸せそうな笑顔で眠っており そんな燐の身体を揺すりながら何度も起こそうとしている。あまりに目を覚まさないため 凍矢の目からボロボロと涙がこぼれ、ウルグの姿が目に入ると 獣化していない姿にもかかわらず 昨日の恐怖がフラッシュバックし 更にガタガタと震え 全く目を合わそうとしなかった。
凍矢:「ひっ ウルグ!!!!! …… ヘイリュ!! ご主人様が 目を覚まさないの!!!」
ヘイル:「一旦落ち着け!! 一体何があったんだ!!」
(カクカクシカジカ その後 ヘイルが〈|拒絶《リジェクト》〉を使うが 目を覚まさない)
ヘイル:「凍矢が 忠告したにも関わらず 燐が香りを嗅いだのであれば 凍矢は無罪だな。だが 〈|拒絶《リジェクト》〉が効かない以上 俺では助けられないな……」
ウルグ:「それなら案外なんとかなるかもよ。怪人になった凍矢は植物だけでなく香りも操れる。つまり覚醒作用のある香りを使うことができれば……」
凍矢:「(ウルグと一切目を合わせない)ご主人様が 目を覚ましてくれる?」
ヘイル:「だが量を間違えると 今度は不眠、眠れなくなってしまう。燐の呼吸に合わせて少しずつ使っていくしかない、凍矢 俺が計算し指示するから手伝ってくれ。2人でお姫様を目覚めさせるぞ」
凍矢:「う、うん!!」
凍矢に両手を前に出させると手の周囲をガラスのドームのような透明のバリアで覆う、凍矢はその中でペパーミントの葉を出現させる。ドーム内に風を起こして浮かせると手に【同質の膜】を展開、内部を高熱の水蒸気で満たし 香りを抽出する。ポットの注ぎ口を作るようにすると燐の顔へ近づけ、揮発量・吸入量・燐の呼吸数等を常に計算しながらコックを開けたり閉めたりしてペパーミントの香りを燐に嗅がせていく。細かい計算や同時進行でのモニタリングは|人工知能《ヘイル》の得意分野だった。
約10分後、ううっという声とともに目を覚ましていく。少し寝ぼけてはいるが 快楽物質による影響も消え正気を保っているようだった。
燐:「あ、あれ? みんなどうしたの?」
凍矢:「りんさま!!? りんさま大丈夫!!?」
燐:「う、うん」
凍矢:「燐様が目を覚ましてくれた!! このまま起きなかったらと思うと ヒグッ。あの後 何度揺すっても起きなくて、ヘイルに助けを求めたの。そしたらみんな来てくれて……」
燐:「そっか 凍矢が忠告してくれたのに花の香りを嗅いじゃったから……。みんなには心配かけちゃったね、ヘイルもありがとう」
ヘイル:「俺はただ ペパーミントの香りを抽出しただけだ。礼なら この危機を真っ先に俺達へ伝えた凍矢に言うんだな」
燐は膝枕から起き上がると そっと凍矢を抱きしめる。
燐:「凍矢、助けてくれてありがとうね」
凍矢:「燐様が無事で 本当に良かった。俺はこれからも燐様のそばにいるからね」
燐:「うん」
拓花:「りん〜〜~ おはよう!! もうお昼だよ?」
悠那?:「あれだけ怖がってたのに 随分と打ち解けたものね」
ウルグ:「とりあえず 何か食べない……? 燐も すっごくお腹鳴ってるし」
|一先《ひとま》ず 昼食をとることになり、話はそれからだった。
ウー〇ーイーツで注文したお昼を食べ終わると今後について話し合う。
ヘイル:「拓花とウルグの【治療】は終わっている。あとは凍矢だけだが この際 燐もやっちまっていいか」
燐:「ずっと気になっていたんだけど 【治療】ってどういうことをするの?」
ヘイル:「これまで〈|拒絶《リジェクト》〉や〈|解呪《ディスペル》〉は 魔力を 塊のようにしてぶつけていたが、それを固めないで 全身に行き渡らせ浸透させ |残滓《ざんし》を|昇華《しょうか》させたんだ。まぁ ドライアイスのような感じでな。さすがに負担がでかいから 〈|眠りにいざなう眼《ヒュプノ・アイ》〉で 全身麻酔のような状態にしている」
燐:「身体への影響は ほぼないってこと?」
ヘイル:「《《極力》》影響はないようにしている。昇華完了直前で〈|眠りにいざなう眼《ヒュプノ・アイ》〉を切って、自然に目が覚めるようにしている。 必要以上に催眠状態にならないようにな」
凍矢:「燐様 どうしたの?」
燐:「ヘイル、凍矢の【治療】なんだけど 少しだけ待ってくれない? もう少しだけ 《《今の凍矢》》といたいの」
悠那 拓花 ウルグ:「燐……?」
凍矢:「燐様……?」
ヘイル:「待つのは別に構わないが、どうしてまた?」
燐:「私が 拒絶したことで凍矢は高熱が出てドクターストップが出るまで体調を崩してしまったの、せめて 体調を崩してた3日間!埋め合わせをしたいなって。どこか出かけたり 美味しいものを食べたり……」
ウルグ:「燐……。気持ちは分かるけど 今の凍矢は目立ちすぎるよ」
燐:「そ、そうだよね」
凍矢:「ひぐっ ひぐっ。ご主人様ぁ!!! この女の人 怖いよぉ……!(獣化してないにも関わらず 顔を見ただけで大泣きし 燐にしがみついて震えている)」
ウルグ:「(お、女の人よばわり(汗))凍矢ごめんってば! もう痛いことや怖いことはしないから!!」
ウルグが凍矢に近づいてきただけで 更にオーバーリアクションで大泣きし ガタガタと震え 燐の後ろに隠れている、もはや小さい子供だった。
ウルグ:「ヘイルゥ(´;ω;`) 完全に凍矢に怖がられちゃったァ……」
ヘイル:「話し合いとか 他に方法があっただろうに 《《暴力全振り》》を選んだウルグが500%悪い、自業自得だ。どうやったら仲直りできるか 受け入れてもらえるか…… 自分で考えるんだな(腕を組み フンッと鼻を鳴らし ぷいっと顔を背ける)」
ウルグ:「そんなぁ ヘイルが冷たい(´;ω;`)」