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最後の手紙
夏の終わり、街の公園で一人の若者がベンチに座っていた。名前は涼太。彼の目はどこか遠くを見つめ、心の中で何かを考えているようだった。周りを見渡しても、普段のように人々が賑やかに過ごしているわけではない。空気は少し涼しくなり、季節が変わる前の静けさが漂っていた。
涼太の手には、一通の古びた手紙が握られていた。それは、数年前に亡くなった母親からのものだった。母が最期の時に書いた手紙だと聞いていたが、その内容を読んでいなかった。しかし、今日はどうしてもその手紙を開けなければならない気がして、涼太は手紙をゆっくりと開いた。
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「涼太へ」
「私はこの手紙を、君に届くように書いています。もし君がこれを読んでいるとき、私はもうこの世にはいないことでしょう。でも、どんなに離れていても、私は君を愛しています。
君が生まれた瞬間から、私はどんな時も君を守ると決めました。君が成長していく中で、何度も辛い時があったかもしれません。けれど、君が一歩一歩前に進んでいく姿を見て、私は本当に幸せでした。
もし、これを読む君が、どんなに辛くても希望を見失っている時があれば、覚えておいてください。君は一人ではないということ。私の愛は、どんなに時間が経っても、君の中で生き続けていることを。」
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涼太は手紙を読みながら、涙がこぼれそうになった。母が書いたこの言葉が、まるで今、自分に直接話しかけているかのように感じた。
母が亡くなったのは、涼太がまだ大学に通っていた頃だった。仕事に忙しく、家に帰ることが少なくなっていた頃に、母が倒れたと聞かされた。その後、病院で見た母の顔は、涼太にとって忘れられないものとなった。母の笑顔が、最後の時にはほとんど消えかけていて、涼太はその時、自分の不甲斐なさに深く悔いを抱えていた。
「もっと一緒にいればよかった。」
母が亡くなってから、涼太は自分の生活をただ無感情にこなしていた。仕事も、友達との付き合いも、何もかもがただの義務のように感じていた。しかし、この手紙を読んで、涼太は母の言葉を胸に刻み込み、心が少しずつ溶けていくような感覚を覚えた。
「私は君を愛している。」その言葉が何度も頭の中で響いた。
涼太は立ち上がり、ゆっくりと公園を歩きながら考えた。自分はずっと、母の愛を信じていたのに、今はどうだろう?母の死後、涼太はどこかで愛を信じることをやめていた。自分を守るために、他人を信じることを避けていたのだ。
しかし、母の手紙を読んで、涼太は決心した。これからは、母が望んでいたように、もっと素直に生きること。人を大切にし、愛すること。それが、母に対する最大の感謝だと思った。
その夜、涼太は自分が長い間連絡を取っていなかった友人にメッセージを送った。「久しぶり、元気にしてる?」それが、涼太が最初にできた一歩だった。
その日から、涼太は少しずつ周りとの関係を再構築していった。母が遺してくれた「愛することの大切さ」を胸に、人と接するようになった。
そして、何年か後に涼太は自分の家族を持つことになった。ある日、彼の子どもが誕生し、涼太はその小さな手を握りながら、母が自分に言った言葉を思い出した。
「君は一人ではない。」
母の愛は、今もなお、彼の中で生きていた。