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22:保健室
「ううっ……痛いです!なぜより痛くするんですか!」
消毒液がしみて半泣きになっているヒメさんをよそ目に、私は保健室を見渡す。視界の限りで。
へーっ。こうなってたんだ、保健室。じっくり見たことなかったからちょっと新鮮。
「はあ、早く家に戻りたいです。あにめが見たいです。」
あ、さては瀧くんが先に戻ったし、しょげてるんでしょう!
「そんなわけありません!本当です!信じてくださいよ。」
シンジルヨ、ウンウン。
ため息をついたヒメさんは、また痛みがぶり返してきたのか身をよじる。ちょっと私も足がズキズキした。
視界が揺れるよー。酔っちゃう。
「あっ、ごめんなさい。」
バス酔いとかすごそうだな、この体。ちょっと予想はできるけど。カーナビ私、大丈夫かな?
保健室から戻ると、体育の授業が終わって着替え始めているところだった。ぱぱっと服をまとめて制服に着替える。
「ナツキー!足、大丈夫?」
「ありがとうございます。もう平気です。」
消毒がしみるーって悶えてたけどね。
「それは言わないでくださいよ……。」
大丈夫だって、ヒメさんにしか私の声は聞こえないから。現に声をかけてきたヒスイだってポカンとしている、でしょう?
「まあそうですけど……不安になるものは不安になるんです!」
それはそうよね、今だって誰かにバレてるのか不安だもの。かなり私とヒメさんって性格違うから、違和感は持たれていると思うけどね。たぶんバレていない。
ヒメさんを私の体に転生させた人が誰かに言いふらさなければいいけど。そもそも、転生させた人は日本にいるのかな?流石にヒメさんの世界の人だよね。
「……ま、魔王、とか?」
出たーっ。ファンタジー名物、魔王!勇者と並ぶファンタジーの王様!
モンスターであれば時に人間であり、男でもあり女でもあり性別がない場合もある……ひと口に真央、といってもいろいろあるのだ。
ヒメさんの世界の魔王ってどんな感じなの?
「魔物たちの中での王、という立ち位置です。圧倒的な悪とされていますが、魔王側は基本的に人間の領土は侵略してこないので、こちらがそう決めつけているだけかもしれません。」
うーん、魔王にもいろいろな事情があるのかな?
私たちには、魔王に話しかけたりどうこうしたりができないからどうしようもないね。ヒメさんを転生させた人が魔王とも決まったわけではない。
それに、事故の可能性もある。前にヒメさんは説明してくれた。どうやら「ひずみ」なるものが関係しているかもしれないと。
「……謎、ですね。」
謎としか言えないね。好奇心がくすぐられるよ。
さて、体育の授業が終わったので給食の時間である。
今日の給食は……カレーだ。発酵乳付きの。
「か、かれえ?」
そして今週、私は給食当番だ。よってヒメさんに給食当番をしてもらうことになる。
「きゅうしょくとうばん!?なんですか、それ。」
一旦白衣に着替えてもらおう。手も洗うんだよ!
「ちょっと、結局きゅうしょくとうばんってなんですか?教えてくださいよ!」
実際に体験してみた方が早いよ。ほら、チェック始まるなら着替えてみてね!