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〖桜花爛漫〗
語り手:(今度は抜かされなかった)空知翔
警報音が鳴り、次に響き渡る銃撃音。
消費者だろうと神だろうと撃って撃って撃ち抜いてしまえ。
ついでに商品や備品も撃っちゃったりして。
●柳田善
26歳、男性。バイトリーダー兼店長。
最近は分析後の消費者の従業員引き入れ手続きに忙しいらしい。
趣味は最近出来ていない。
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花の香りが踊る。窓辺にかざられた花からは踊るような香りが漂っていた。
「踊るような香りってなんだよ?」
知らねぇよ。
「比喩表現?」
多分。深夜に書いた一文なんで知らないよ。
「なるほど、なるほど...」
その香りが鼻付近に漂いふんわりと良い香りに包まれる。
ふと窓を見れば新緑に色づいた木々と季節の衣替えのように夏の花々が咲いていた。
「随分と詩的だな、この後すぐにやべーの来るってのは確定事項なのに」
そうネチネチネチネチネチネチネチネチと言いやがるのは一護君でした。
「...何か嫌な予感してきたかも...」
ネチネチネチネチネチネチネチネチと言いやがる一護君は嫌な予感を感じとったのか窓の外を見ました。
「...何もないぞ?」
窓の外を見ました。
「だから何も...」
窓の外を見ました。
その瞬間、強い風が吹いて何かが通り...葉っぱや花が散ったかと思うと切り刻まれた施設の看板の破片が葉っぱや花のように残されていた。
「...言わんこっちゃねぇ...」
請求書書いておいてね、それ。
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「...あのさ...幽霊みたいな現象の人間をはい、そうですかって雇う人間じゃないの、分かってる?」
「それは、存じ上げております」
またオフィスにて上原慶一が柳田善を問い詰めていた。
ただ一つ違うのはそれが請求書ではないことだった。
従業員募集の用紙に書かれた名前は憑依霊歌、臨時として出水鈴の名前もあった。
「困るんだよ、急にコイツは使えるからうちの部署に引き入れたいって...分析直後に連絡してくれる?それができる人間が君だよね?何してんの?」
「お言葉ですが、上原さん...僕は鎮圧後にすぐに連絡を_」
「言い訳をしない。とにかく、まずどんな能力か分かって利用できると思ったらすぐに連絡すること。いいね?」
あんた、鎮圧後に連絡入れても電話に出なかったことはいいのかよ。
上の者ってのは自分の行いをすぐ棚に上げるのだなと柳田が考えて黙っていると上原が急に手を伸ばして柳田の額を小指で小突いた。
「...分かったよね?」
嫌な雰囲気を肌で感じた。手を出されるとまではいかないのだろうが、なんとなく危険な気がして、素直に「分かりました」と答えざるを得なかった。
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上に立つ人間はつくづく大変だと常に思う。上原とか言うマネージャーは分からないが、柳田はよくやってる方だと思う。多分。
「多分ってなに?」
他人事のように心情を語っていたらナチュラルに入り込んでくる柳田。これが店長兼バイトリーダー...!
「そんな大層なものではないし、普通に翔に焦点が当たってるから地の文として見えてるだけだよ」
「あ、そんな設定あったの?」
なるほど、君らがたまに突っ込んでくるのはそういうことだったのか。
「お前は分かってろよ」
コメディやぞ。
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「そろそろ、三人で回すのもきつくないですか?」
何らかの会場の花を模した飾りを作りながら、手を止めずに一護が尋ねた。
それに一護同様の動きをしたまま柳田が答えます。
「あ~...それね、分かるよ。遥さんは惣菜担当だから巻き込むわけにもいかないけど、三人だけが突撃部隊ってのも人手の足りなさが目立つよね。
だから、今まで解析した消費者で良さそうな人材確保をと思ったんだけど上からの返答がまだ、ね」
そう応えて、作業効率をあげようとする柳田。隣で空知が不器用な故に悪戦苦闘していますが、作業の方が大事です。
しかし、パイプ椅子に座った男三人がふわふわとした紙質の折り紙で花を作っているのは精神的な意味で華がありません。これは何回も言っている気がします。
「嫌なら女性入れればいいのに...」
空知が手を止めて何か呟いたような気がしますが、気のせいです。
やがて、一通り作業が終わった柳田が問いを投げ掛けました。
「昼に温室プール付近の庭見たら、あの有名な企業...なんだっけ、畠...株式会社?...の看板の破片が大量にあったんだけど銃撃で壊したりした?」
「.........」
片付けなかったんですね。
「一護君」
「...はい」
「あれ最初壊れてなかったよね、何かあった?」
強い風が吹いたら、一瞬のうちに破片になったなんて言えません。言えるわけがありません。
「......その、俺も何が何だか分からないんですが...知らない内に看板がバラバラで...花とかも色々凄くて...」
「つまり、やったのは一護君じゃないんだよね?」
「まぁ...そうですね」
「ん、有り難う。請求書を書いとくよ」
上司は良い人で良かったですね。
二人が会話をしていた頃、空知はようやく花を一つ完成させていました。
しばらくして、警報音が鳴り響きました。水で故障だの空知がまともに点検してなかっただのボロクソ言われていた報知機もしっかりと機能していました。
今日は色々な問題で客がほとんどいませんので避難はスムーズでしたが...。
従業員の愚痴は止まりませんでした。
「ああ...もうすぐ終わる半額シールの張り替えが...」
半額シールを貼る作業でもしていたのでしょう。
「ああ...もうすぐ終わるトイレの掃除が...」
トイレの掃除でもしていたのでしょう。
「ああ...そろそろ仕事に戻ろうとサボっていたのが...」
そろそろ仕事に戻ろう、戻ろうと思いつつサボりが長引いてしまったのでしょう。
「ああ...夏のコミケに出す予定の新人君と店長モチーフの同人誌が...」
夏のコミケに向けて、勝手に人をモチーフに同人誌を描いていたのでしょう。
「ああ...夏のコミケに出される本が...まだ申し込み予約も先だけど...」
好きな作者の同人誌が出る予定の続報を追っていたのでしょう。
「ああ...もうすぐ花の二つ目ができそうだったのに...」
誰かが折り紙の花を作っていたようです。そうです、空知です。
敢えて先程聞こえた男性からしたら悪寒のする呟き(個人差有り)はスルーして花の製作について嘆いていました。
「空知先輩、行きますよ」
嘆く空知を気にも止めずに一護が移動を促します。素直に空知がついていきました。
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電話をしている柳田をよそに室内の確認をします。
特に何も見当たらない室内の中で何かを刻むような音がして、その方向に桜の花びらを舞わせながら商品や備品を紙同然に切り刻む何かがそこにいました。
「...回転式自動ハサミ?」
んなわけねぇだろ。
ボケ老人のような台詞を吐いた空知を無視して舞台は一応主人公に向きます。
近くにあった段ボールを手に取って、その花の渦巻きに投げつけると粉々になった段ボールが花びら同様に散っていきます。
ついでに腰に吊ったナイフも投げてみましたが、刃すら切り刻まれました。
では、銃弾はどうなるのかと撃ってみましたが、おそらく本体にたどり着いく前に弾が切り刻まれているような気がします。
打つ手が現状無くなり、悩みが進行形である状況で一護が空知を見ると自分と同じように悩んでいました。
使えないと考えて柳田を見るとまだ電話をしています。
非常に難しい状況の中でゆっくりとそれが近づいているような気がして、ただ呆然とその場に立っていることしか出来ませんでした。
わりと簡単で、単純な解決法を思いつくまでは。