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永遠のカナシバリ 2日目
猫とお爺さんの姿をしたバケモノに襲われた、次の日。
___「花名……花名……」
目を開けるとそこには白い空間が広がっていて、目の前にお父さんとお母さんが立っていた。
(…お父さん……お母さん…?)
「花名…どうして家を出て行っちゃったんだ…?」
(…え……?)
どうして…?お父さんは内見の時に、私がいいならこの家に決めなさい、って言ってくれてたはず…
「そうよ、花名…私たちを置いていくなんて何を考えてるの……?」
お母さんまで…?違う、お母さんも私が新しい家を選ぶのを手伝ってくれたし、内見の時にだって一緒に…どうして……?どうしてお父さんもお母さんも私が一人で暮らすことを否定するの……?
「…花名は冷たい子ね…」
そうお母さんが言い終わると共に、両親の背後に大きな棚のようなものが現れる…これ…仏壇……?
「……俺たちが死んでも、もう……花名は気付けないもんな…」
後ろの仏壇の扉が一人でに開く。そこには先の見えないくらい深くて広い青色の空間が広がっていた。その空間から青色の煙のようなものがこちらに向かって吹いてくる。
「……さようなら……花名……」
…向こう側に行っちゃうの…?
(待って…お父さん…お母さん…!)
---
「………っ!」
目を開ける。枕が、手が、寝汗でぐっしょりだ。
(……夢……?)
相当うなされていたみたい…
強く握りしめてしまっていたユミカカちゃんを顔の前に持ってくる。
(…こんなに寒かったっけ…)
枕元のエアコンの温度を確認する。
(あれ…全然暖かい風が出てこない…。ずっとうるさいし、このエアコン、冷房しか機能が付いてないのかな…?)
冷房をつけていてもしょうがないから、と私はエアコンの電源を切った。
(寒いなぁ…お風呂入れよう…)
そう思って私はいつものようにユミカカちゃんを抱えてお風呂の方へと向かった。
(…あれ、鏡に猫の小屋が映ってる…?私猫なんか飼ってないし、そもそもこの家、確かペット禁止だったような…)
そう思っていると、どこかから、昨日のような猫の鳴き声が聞こえた。
(また……猫の声……?なんか動物の臭いもする…なんで…?)
私の脳裏に昨日の血まみれの猫のバケモノが浮かぶ。…ううん、あれは夢だから。大丈夫、怖くない、怖くない…
そう思いながらドレッサーの前を通り過ぎた瞬間、
鏡やお気に入りのコスメなどが青い砂嵐と共に消え、大量の新聞紙の切れ端に変わった。
(これ…え?ペットのトイレ…?どうして?ここはメイクスペースにしたはず…)
疑念を抱きながら、お風呂の方へと進むのを再開する。
さらに進むと、真新しいスーツが見えて来て…
そのスーツさえも同じように、血まみれのポロシャツと紙の破れた襖に変わった。仕事着なのだろうか、ポロシャツの胸ポケットに小さく「日ノ出」と書いてある。日ノ出さんという方の物なのかな…?そんな人、もちろん私は知らない。
さらに進もう、として私はある物に気づいた。
(あれ、これ……)
床に落ちているものを拾う。それは、このあけんばら荘のチラシだった。
(これ……なんでこんな所に落ちてるんだろう…?)
あの藤木けんとさん、担当の方の顔写真が黒く塗りつぶされている。私こんなことやってない…、どうして…?おまけに__
ー“担当:藤木`椦`人”ー
(……なんか……名前を書き直した跡がある…?)
藤木さんの名前の3文字目が修正テープで無理やり直したかのように書き換えられている。
(藤木さんの名前…これで「けん」って読むのかな……?)
最初からこんな漢字だったっけ…。チラシを片手に再び進み始める。
それからも、クローゼットがあの夢に出てきた大きな仏壇のような物に変わったり、トイレの扉や電気のスイッチが古そうな物に変わったりと、いろんなことが起きた。そして遂にお風呂場に着いた。ここの扉も古い感じに変わっている。そしてーー
大きな音を立てて、血まみれの猫とお爺さんのようなものがお風呂場の扉に内側から張り付いた…ように見えた。びっくりしたその後には跡形も無く消えさり、いつもの扉に戻っていた。
(じゃあ、お風呂に入ろうかな…)
ーーぴーんぽーん…
(…え?)
玄関から、インターホンの音が聞こえる。
(こんな時間に誰だろう…?)
そう思い、玄関へと向かう。
(…あれ…?)
ふと玄関傍の備え付けの棚の上に置いてあるものに目が止まる。マグカップの横に、大きな折り紙の人形が置いてある。
(なんでこんな「折り紙」が私の部屋に…?)
人形の頭には大きな釘が打ってあり、顔の真ん中には…
「`暃`」。この一文字が書いてあった。
(…この漢字……「罪」に似てるけど少し違う……日……非……?これ、何て読むなんだろう……?)
……どんどんっ。
玄関の戸が激しく叩かれる。まずい、こんなことに時間を使っていてはいけない。来てくれた人を待たせてしまう。慌てて玄関の方へと向かいながら、最近体調があまり良くないこともあって、深く咳き込む。その間にも私の横の景色は変わっていく。今度は血のようなもので汚れた壁と赤い絵が出てきた。
「……はーい…」
また、扉の向こうに黄色のシャツが見える。
「こんばんは〜、𡚴原です〜」
(…えっ…また…?)
また何か話があるのかな…
「な、なんのご用ですか…?」
「ちょっとお話がありまして〜…」
…やっぱり、昨日と同じだ。今日はなんだろう。
「…今開けますね…」
扉を開けると、そこにはいつもと同じ黄色のシャツを着た𡚴原さんが立っていた。
「…こんばんは〜」
彼女が少し家の中へと入る。
「今日はどうしたんですか…?」
そう言うと、𡚴原さんは私を血走った目で睨んだ。
「ねぇ、もしかして猫飼ってる?」
「えっ……?」
そう私がいうや否や、𡚴原さんは強引に私を押し除け、部屋の中を覗き出した。
「いるんでしょ〜猫ちゃん〜?でもね〜、うちはペット禁止だから、勝手に飼っちゃだめよ〜?」
えっ、そんなの誤解だ。慌てて私は弁解を試みる。
「か、飼ってませんよ!庭で猫の鳴き声がして、私も困ってるくらいで…」
𡚴原さんは覗くのをやめて、私に向き直った。
「そ〜お?それならいいけど…。あなたの前に住んでいた「日ノ出さん」も勝手に猫を飼ってたのよ…。あの猫、せっかく《《片付けた》》のに…また飼われたらたまったもんじゃないわ…」
そう言い、爪を噛んだ。
「えっ……?」
「まぁ、飼ってないならいいわ〜。うちはペット禁止だから、気をつけてね〜」
この家のオーナーはそう言って早足で去っていった。
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(えっ…「片付けた」…?日ノ出さんが飼ってた猫を「片付けた」って…?…まさか…)
……そんなわけ無いと思いつつも冷や汗が止まらない。
(早くお風呂入って寝よう…)
そう思い、私は急いでお風呂を入れる準備の続きをした。
ーーその時、背後に《《2人と1匹》》がいることだなんて、気づいてもなかった。
「ふぅ…疲れたぁ…」
私は湯船に浸かっていた。その湯船から二つの大きいものと小さいもの___人と猫の頭蓋骨が浮き上がってきたことにも、私は気づいていなかった。第二夜のことだった。