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ep.5 打たれるだけでは済まない
<前回までに起きたこと>
「皆さんは今日が終わるまでに、このビルから出なければいけません」
彼らの目の前に、二つのドアがある。
生きるために彼らは、前へ進む。生きるためには、進まなければならない。
たとえ進んだ先に、死が待っていようとも。
--- 【現在時刻 8:29:32】 ---
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side 遠坂 めい(とおさか めい)
うるさい。眠い。頭が追い付いてない。
胃がキリキリする。なんなんだ、これ。
パニックに飲み込まれそうになりながら、なんとか状況をつかもうともがく。人の波にもまれて遠のく。その繰り返しだった。
後ろに下がってきた人混みに、押しつぶされそうだ。
待て。いや待て待て待て、ガチで押しつぶされる。近い、近い、、、!?
派手にぶつかった。だけで済んだのは、ラッキーだったのか、、、?
「おい、気を付けてくれよ、、、!?」
わたしとぶつかった奴が、声を荒らげた。いや、セルフ逆ギレ、、、何なんだ一体。ムカついてつい、言い返した。
「な、何よ、あなたが後ろ見ずにバックしたんでしょ!?」
奴が驚いて振り返る。、、、嘘でしょう、、、夢であって欲しい。
わたしとぶつかったのは、高校時代の同級生だった。気づくな。気づくんじゃない。
悲痛な願いもむなしく、彼は叫ぶ。
「お前、、、遠坂かよ!?」
あぁ、終わった、、、。もうだめだ。色々聞かれないうちに、立ち去らなくては。
「っ!?そ、そんな言い方、し、しなくてもいいじゃない、、、。そうよ。わたしは遠坂。遠坂、めい。昔のクラスメイト。はい!終わり終わり、これでいいでしょ。さよなら。」
いたたまれなくて、速足でその場を立ち去った。人混みもたまには役に立つみたいだ。あいつをうまく、撒くことができた。
何もないところに出た。壁しかない。、、、あいつに見つかるよりは、いいか。
あいつには絶対に、会いたくなかった。彼の中にいる「高校の時のわたし」と、ここにいる「今のわたし」は、天と地より遠い存在だ。自分でも分かる。
あいつは何も知らない。何があったのかも。「今のわたし」が、何者なのかも。きっと心配される。その良心が、かえって私をえぐり倒す。
「はぁ、、、いた。ごめん、俺なんか嫌な気持ちさせちゃった?」
嘘だろ、、、。見つかった。そもそも、嫌な気持にさせたと思ってて何でか分かってないならむやみに話しかけるなよ。そっとしとけそっと。、、、ほんとそういうとこやぞ昔から。
、、、これ以上逃げたって追い回されるだけだろう。会話してさっさと別れた方が楽そうだ。
「何でもない。、、、なんで追っかけてきたの?」
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side 祀酒 みき(まつさか みき)
人だかりが後ろに下がって、私はいつの間にか前の方に来ていた。不安になるような涼しさが、頬を通り抜けてゆく。
前方には、白い壁に二つのドア。おんなじ形。
意地が悪い。開けたら何が起こるかわからない。でも開けなければきっと進めない。誰かに押し付け合って、もめて時間が過ぎる。これが狙いなんだろう、、、。
実際に、どこかからいがみ合う声が聞こえ始めた。
、、、こんなことを言っておいてなんだが、私も正直ドアを開けたくはない。
誰かがふと、右側のドアの前に立った。ドアノブを回して、奥に押している。
、、、、、何も、起こらない。さらに奥に押して、ドアの向こうに足を踏み入れた。
驚いた様子で彼がみんなの方を向き、声を上げた。
「いけます!フロアが、続いてます!」
嬉しさの滲んだざわめきが起こる。左のドアも、誰かによって開かれた。
「おい!左も進めるぞ!」
一気に雰囲気が明るくなる。どんよりした空気が、少しずつ晴れてゆく。
左のドアを開けた人が足を踏み込み、得意顔で話す。
「こっちはなんか暗いけど、スイッチがありそうだから点ければすす」
彼はそれ以上、言葉を発せなかった。
ドアの向こうに突っ込んだ左足から、ドアの向こうに引きずり込まれたのだ。
まるで落ちるように。
みじんの音もたてずに、左のドアが閉まった。
温まった空気が、一瞬にして元に戻った。いや、さらに恐怖に沈んだ気がする。
誰も、何も言わない。時間だけが、悠々と私たちをあざ笑っている。
「うぉあぁっ、、、!」
誰かが急に、右のドアを開けた男性をドアの奥へと突き飛ばした。
噓でしょ、、、さすがにそれは酷すぎる。気づいたら私は、ドアの向こうにいる男性のところへ走っていた。安全だなんてまだ分かっていないのに。
「大丈夫ですか、、、!?」
、、、ドアの向こうを覗くと、こちら側と同じカーペットが続いていた。突き飛ばされた人も無事みたいだ。
「いや、大丈夫ですよ、、、ありがとうございますホントに」
彼がお礼を言って立ち上がる。そんなに役に立つようなことはしてないはずだけど、、、おしゃべりな人なのか、また私に話しかけた。
「うわ、ステータス見えるのってなんか恥ずかしいですね、、、」
、、、確かに。今まではたくさんの人に目が行くからあまり気にならなかったけど、会話になると途端に気になりだす。
<流尾 契(はやお けい)>
年齢 : 32
健康状態 : 一時的な心拍数上昇
特異症状 : Null
顔写真も上に表示されている。私のもあるのかな、、、それは恥ずかしい。
なんだか訳もなくしみじみしていたら、急に契さんが大きな声を出した。
「あぁっ!?脱出!!忘れてました!僕たちドア塞いじゃってたみたいだ、、、。進めそうだし、どんどん行きましょうか」
あ、確かに。忘れてた、、、。残り時間もちゃくちゃくと減ってゆくばかり。なんか勝手に一緒に進むテイになってるけど、まぁいいか、、、
気を取り直して、ドアの向こうへ進むことにした。最前列だし、さっき以上に気を付けないと。
少し進んだところで、壁に突き当たった。目の前の光景に、恐怖と呆れが重なる。
さっきと同じようなドア。今度は、四つ。右端のドアだけが、真っ赤に塗られていた。
服を真っ赤に染めて叫ぶ未来の私たちの姿が、映っている気がした。
--- 【生存人数 277/300人】 ---
--- 【現在時刻 8:53:46 タイムオーバーまであと 15:06:14】 ---
自主企画へのご参加、ありがとうございました。応募いただいたキャラクターは順次登場いたします。お楽しみに。(応募者様の作品をご覧になりたい場合はURLへどうぞ)
https://tanpen.net/event/c53a8bc9-7c00-44ba-bd10-5a4e95598e36/list/read
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